戦艦サウスダコダ級(米)

  サウスダコダ
  インディアナ
  マサチューセッツ
  アイオワ
  モンタナ
  ノースカロライナ

 本級は、日英両国の大建艦計画に対抗するダニエルズ・プランの決定版と言える戦艦である。
 本級は、最大速力こそ23ノットと低速だったが、電気推進の採用により他の米戦艦と同じく燃費が比較的優れており、燃料搭載量の割りに長大な航続力を有していた。
 また、特にその主砲には、当時世界最強の大口径砲のひとつであった長砲身16"/50 Mark2型3連装砲を4基12門搭載しており、その砲弾威力と投射弾総量は、極めて強力だった。しかも、米国製兵器の常としてカタログデータが高めに公表されたため、遂に日英海軍に18"砲搭載戦艦の建造を決意させるに至った程であった。
 もちろん防御力についても、それまでの米戦艦の特徴を引き継いだ強固な装甲を持ち、加えて装甲防御以外でもコロラド級までに有効性が確立された仰角固定式装填装置や燃料タンクを利用した耐水雷防御構造を採用する等と極めて強力な防御力を有する戦艦であった。
 つまり本級は、低速重防御重武装戦艦の決定版とも呼ぶべき存在であったのだ。
 また、補助兵装としてケースメイト式に搭載した6"/53 Mark13型単装砲15基と艦中央構造物上に搭載した3"/50 Mark8型単装高射砲8基の火砲と固定式21"魚雷発射管単装2基が装備されていた。
 しかし、本級は性能諸元の高性能ぶりに反して実際にはかなり問題の多い戦艦であったことは有名である。
 特に主砲の16"/50 Mark2型3連装砲は、1門ごとで見るなら高初速、長射程、大威力の極めて優れた火砲だったのだが、遠距離射撃時の弾道性能が芳しくなく、特に遠距離目標に対して全門一斉発射を行うと砲身の撓りや3連装砲身を接近して配置した事を原因とする砲弾後流の干渉、そして何より過剰武装のため排水量に比べて主砲の発射衝撃が大きすぎ、そのために発生する砲塔や船体の動揺や捻れにより弾着散布界が極めて広くなる欠点を持っていた。
 この問題点は長砲身砲の多数搭載を好みドクトリンとして中近距離戦を重視していた米戦艦全般に言えるものだったが、本級は射距離27、000m(30、000ヤード)での全門斉射で平均散布界が横450m、縦深方向800mにも達し、米戦艦の中でも特筆すべきものに達していた。
 そのため中遠距離戦で少しでも弾着散布界を縮小して命中率を高めるために交互撃ち方での射撃が奨励されていた。しかし、防御力向上のために採用した固定装填方式と、砲塔小型軽量化のために採用した主砲砲身が3門同調して仰角する構造が徒となり、発射速度が極めて低下し、遠距離目標に対する単位時間当たりの発射弾数がコロラド級と同程度の低いものになってしまった。
 ただし、交互撃ち方での射撃なら砲弾後流の干渉や発射衝撃による諸問題が押さえられる事から平均散布界が横300m、縦深方向650m程度と米海軍としては満足なレベルに改善できた。
 ちなみに射撃条件が違うため厳密な意味では比較できないのだが、遠距離砲戦を海戦技術の中心に据えていた日本海軍では、例えば大和型なら射距離30、000mにおける全門一斉発射の平均散布界が横250m、縦深方向350mであった。これでも日本戦艦としては平均より悪い値である。
 また、電波式測距と光学式測距を併用する高度な射撃管制装置の実用化以前であったこの時期に遠距離目標に対する全門一斉射撃を重視していたのは日本海軍だけであったため、主砲を半数ずつ交互に発射する交互撃ち方での射撃でも大きく劣るわけではないのだが、交互撃ち方では発射速度が極めて低下する事に加え、散布界も優秀とは言い難い事は、やはり大きな問題であった。
 加えて大出力の電機推進に付いても当時の技術レベルでは少々持て余し気味で、各艦とも就役直後には様々な問題が続発し、安定後も機関の耐久性が低く最高速力発揮や長時間高速航行が難しかった。特に1番艦のサウスダコダと2番艦のインディアナは、このため1920年代末に改装されるまでは、最高速力を21ノットに制限していた。
 しかし、この電気推進装置相手の苦戦で培った電気技術は、後の米戦艦に他国の戦艦より一歩進んだ電気制御技術をもたらし、様々な恩恵を与えることになった。
 また、1920年代も半ばを過ぎると列強各国における戦艦の砲戦距離が、それまでの認識より大きく延伸しはじめ、大落角弾を被弾する可能性が高まり、本級の強固な装甲防御力も、その効果があやしくなってきた。
なぜなら中近距離戦を重視する米国戦艦のドクトリン故に、舷側装甲帯約350mm、砲塔正面約460mm、砲塔基部装甲筒約345mmと水平方向から飛来する砲弾に対しては極めて強固な防御力を有していたが、遠距離から大落角で飛来する砲弾に対する垂直防御装甲は、船体部の防御甲板が約80mm、第二層が約65mmの計約145mm程度、砲塔天蓋が約125mmと列強戦艦の中でも最も薄い部類に入る程度しかなかったのである。
 確かに本級は、コロラド級で完成を見た仰角固定式装填方式を採用していたため、ジェトランド海戦における英国巡戦のように砲塔天蓋部への命中弾による損害が、弾火薬庫にまで達し致命傷を誘発する可能性は極めて限られていたのだが、遠距離砲戦時に主砲塔が簡単に使用不能になるのは由々しき事態である。
 このため米海軍も、これらの諸問題をそのままに放置するわけにもいかず1930年代に入ると条約締結により削減された少ない海軍予算を重点的に使って、機関部の改装と装甲防御力の強化を実施している。
 これにより23ノットの発揮が可能となり、垂直防御装甲も防御甲板装甲が約115mmに、砲塔天蓋が約165mmに強化された。
 また、この他に艦橋構造の変更や第三砲塔上へのカタパルト搭載やデリックの増設を含めた航空機運用設備の付加、消火および注配水設備増設等のダメコン・システムの強化を含む改装も実施され、これらにより喫水が増し、基準排水量や約2000トン増加している。
 しかし、この大改造においてもパナマ運河通過問題が制約となり全幅を増大する事が難しく、同時期に日本や英国が自国戦艦に対して行った程の徹底した改装は不可能で、特に垂直防御装甲の強化は不十分なものであった。
 また、装甲等の追加で増加した排水量は、主に喫水の増加で処理されており、予備浮力の減少による防御力の低下と言う問題がはっせいしている。

 加えて、予算の関係から補助火砲は、新型の1.1"(28mm)/75 Mark1型4連装機関砲6基と2cm/70 Mark2型単装機関砲数基が追加装備されるに止まり、日英戦艦のように大々的な補助火砲の近代化換装は実施されなかった。
 ただし、船体防御力の向上と減少した予備浮力を補うために船体内に配置されていた雷装は全廃されている。
このように問題点の尽きない本級だったが、第二次世界大戦における実戦での運用実績は悪くはなかった。
 第二次世界大戦に参加した本級は、大改装を行ったとは言え、特に中遠距離砲戦での攻防力が満足ゆくものではなく、戦闘序盤の遠距離砲戦における大落角弾で主砲塔破壊や機関室浸水等の大損害を受ける事が度々有った。
 しかし、中近距離戦での攻防力は極めて強力で彼我の接近する戦闘の中盤以降にめざましい活躍を見せることも多かった。まさに真っ正面での殴り合いの末に相手を圧倒する米国人好みのヘビー級ボクサーで有ったのだ。
 そのため本級が完全に旧式化した大戦末期に至っても中近距離戦で最新鋭の大和型やライオン級相手に互角以上の戦いを演じた艦も有った。
 ちなみに、米国が本級建造から10年余ぶりに建造したアラバマ級は本級の利点と問題点を充分に分析した上で、その回答として米海軍のドクトリンに対応させた設計で建造された新世代戦艦であったとされる。ただし、本級の真に正当な後継者の登場と呼べるのはルイジアナ級の出現を待たねばならなかったのも確かである。

 基準排水量 43、800トン 満載排水量 47、000トン
 速力 23ノット 航続力 10ノット/8、000海里
 武装 16"V×4 6"T×15 3"U×E 28mmMGW×6
    カタパルト×1 航空機×1〜3 他

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