戦艦ミズーリ級(米)

  ミズーリ(BB61)
  ニュージャージー(BB62)
  ウェスコシン(BB63)
  ケンタッキー(BB64)
  フロリダ(BB65)
  バーモンド(BB66)

 本級は、アラバマ級に続く新世代戦艦の第2シリーズとして建造された高速戦艦で防御力に泣き所のあるレキシントン級巡洋戦艦の後継艦として計画されたレキシントン級の高速力とアラバマ級の防御力を併せ持つ高性能戦艦であった。
 特に巡洋艦や空母に追従する事を目的とした33ノットの最高速力は、第二次世界大戦参加戦艦の中ではレキシントン級と並んで屈指の存在であり、加えて本級の極めて優れた凌波性をはじめとする航行能力と米国新世代戦艦の特徴でもある長い航続力により極めて高い作戦能力を有していた。
 また、本級は日英が次々と完成させた18"砲搭載戦艦への対抗策として長砲身の新型16"砲Mk7を3連装3基9門搭載している事も大きな特徴である。

 この砲は、パナマ運河通過のために艦幅に制約を持つ米国戦艦が搭載可能な最強の砲のひとつで、同じ長砲身ながら鋼線式のため撓りや歪が大きく、加えて砲身が近接配置されていたため弾道性能が今ひとつだったサウスダコダ級やレキシントン級の16"砲Mk3と比べ、自緊式の砲身を採用した事と砲身間の距離を取った事により弾道性能が良好となり、しかも16"砲Mk3より軽量でもあった。
 さらに、本級の60000トンにも達する排水量に助けられた安定性によりダニエルズ・プラン艦までの米戦艦と比べて遠距離での散布界性能等が極めて優れていた。
 加えて、弾重の重いSHS弾と呼ばれる新型徹甲弾Mark 8 Mod 6の使用と速い発射速度により単位時間当たりの投射弾総重量はセント・アンドリュー級や駿河型と比べても互角以上で、日英の18"砲搭載戦艦に充分対抗できるものと期待されていた。
 また、舷側310o、防御甲板146o、砲塔前面500o(431mm+69mm)、砲塔天蓋185o、砲塔支筒440oとアラバマ級を部分的に上回る16"砲弾対応防御装甲による耐弾防御力と、船腹部の装甲化やツイン・スケグの採用、燃料タンクを利用した耐水雷防御構造等の耐水雷防御力、そしてアラバマ級より進歩した、つまり就役当時世界で最も進歩したダメージコントロールシステムの採用によりハードとソフトの両面で高い防御力を有していた。
 加えて本級もアラバマ級と同様に舷側装甲帯が船体内部に傾斜を持って取り付けられており、その傾斜効果により舷側装甲の防御力は実際の厚さ以上であった。
 このように攻防走が高いレベルでバランスの取れた本級は、カタログ・スペック上なら総合性能で大和型やライオン級にすら充分対抗できると考えられていた。
 しかし、第二次世界大戦が始まり、その戦訓が集まり始めると日英の18"砲搭載戦艦との交戦において砲弾個々の打撃力と直接防御力の双方で著しく劣る本級の不利が顕かになりはじめた。
 特に装甲防御力の劣勢に付いては、追加装甲を施した砲塔前盾部以外は、通常の16"砲弾に対応した装甲防御力を有しているだけに過ぎず、当然ながら自らの長砲身16"砲から発射されるSHS弾に対応する防御力を有していなかった。確かに優れたダメージコントロール能力を有する本級は、艦主要部を敵弾に貫通されたからと言って直ぐさま轟沈に至る可能性は極めて少なかったのだが、この事実により、本級の事をジェトランド沖海戦で轟沈した英巡洋戦艦に例え、最期の巡洋戦艦とまで呼ぶ悪評が発生し、艦隊将兵の士気低下すらが懸念された。
 このように遠距離射撃では、他国より精度の高い射撃能力を有する日本戦艦相手の交戦は、特に大きな危険が付き纏う事になったのである。
 また、舷側装甲帯の船体内部への傾斜装備やツイン・スケグによる高速航行時の振動発生や旋回性能の悪化等についても、アラバマ級と同様の問題が発生していた。
 加えて本級は、アイダホ級と比べて排水量や全長が大きく増大しているにもかかわらずパナマ運河の通過制限により船幅を拡大する事ができなかったため進行方向に対する優れた凌波性を持ちながらも、横方向の船体安定性や船体復元性に大きな問題があり、旋回時に船体が条約型巡洋艦並に大きく傾斜する事に加え、悪天候時に航行能力や作戦能力の低下が著しく、当然ながら浸水時の傾斜回復能力が他の米戦艦と比較しても大きく劣る等の問題があった。これは単純に余剰浮力を比べればアラバマ級を大きく上回る本級が、転覆限界等ではアラバマ級と大差ない程度の耐久性しか有さないと言う事である。
 しかし、防御力に多くの問題があるとしても本級が総合的に見て優れた高速戦艦であった事に間違いはない。
 本級は、1938年に2隻が、続いて1939年に4隻が着工され、1942年末から次々と就役を開始し、大戦中期の米国戦艦戦力の中核となった。
 次々と就役した本級は、長砲身16"砲と高速力、そして長大な航続力に物を言わせ、レキシントン級と共に大西洋と太平洋の両洋で敵拠点や通商航路に対する一撃離脱の機動戦を展開して暴れ回り、対戦艦戦闘では不満足な防御力が災いして大きな損害を受ける事も多くあったが、大戦初期の戦艦大量喪失により枢軸軍に圧倒されつつ有った連合軍戦線を支え、大戦中期の連合軍が決定的な劣勢に追い込まれる事を阻止する貴重な活躍を続けた。
 本級の米海軍における存在意義は、この一事だけを取っても充分以上の活躍をしているとされる。
 しかも本級は、大戦終結後にもルイジアナ級と比較して低い運用コストと高速力と長大な航続力による高い作戦能力に加え汎用性に優れた手頃さが評価されて第一線で活躍を続け、空母と艦載機が海軍戦力の中核となり、ルイジアナ級戦艦が退役した後も1990年代まで各艦が交互に現役と予備役を繰り返して米海軍籍に有り続けた。

 基準排水量45000トン 満載排水量59300トン
 最高速力33.0ノット 航続力17ノット/16000海里
 主武装16"V×3 5"U×I 28mmMGW×I
    カタパルト×2 航空機×2〜4 他

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