巡洋戦艦インビンシブル級(英)

 インビンシブル
 インフレクシブル
 インドミタブル
 インディファティカブル
 インコンパラブル(計画のみ)
 インプラカブル(計画のみ)

 超フッド級巡洋戦艦または計画艦名G3級巡洋戦艦として知られる本級は、第一次世界大戦終結後に米国との新たな建艦競争に突入した大英帝国海軍がジユットランド海戦の戦訓を全面的に取り入れて生みだしたポスト・ジユットランド型戦艦の1番手である。
 本級の最大の特徴は、全ての主砲塔を艦橋を挟む形で艦前半部へ集中的に集め、代わりに船体後方へ機関部や煙突等艦橋以外の艦上構造物を配置する極めて野心的な艦形を採用したことにある。
 この艦形の採用により本級は、主砲に英国戦艦初の16インチ砲である16"/45 Mark1型3連装砲塔3基9門を搭載し、装甲防御も主砲塔正面445o、同天蓋203o、同基部支持筒355o、水平防御甲板203o、舷側装甲帯355oとクイーン・エリザベス級を上回る極めて強固な防御力を有していた。特に遠距離砲戦を強く意識した垂直防御装甲は、砲塔天蓋、防御甲板が共に203oの厚さを有していた。加えて、最高速力も30.0ノット以上が発揮可能とリナウン級やフッド級に匹敵する高速性能を持っていた。
 この驚異的な性能を詰め込む船体の基準排水量が48、350トンと、基準排水量42、000トンの巡洋戦艦フッド級と比べても、2割り増し程度で収まった理由は、やはり主砲塔を船体前半部へ集中的に配置する事で主要防御部容積が小型化され、それにより浮いた重量と容積を装甲強化や機関部拡大に振り向けられた事によるものである。
 特に機関部は、フッド級と比べて3割近くも容積が大きく、この巨大な機関部で発生する機関出力は、本級の建造当時では他に類を見ない185、000馬力にも達し、その大出力により公試では32.7ノットを最高速力記録した。
 本級の設計は、それまでにもロイヤル・ソブリン級、リナウン級、フッド級等の主力艦の設計を担当してきたサー・ユースタス・ダインコートの手によるものだったが、ユトランド海戦の戦訓を強く意識して設計された本級は、それまでの艦とは違った極めて特徴的な艦形になっていた。
 この独特な艦形は、英海軍がユトランド海戦において主砲塔や主砲塔基部支筒の装甲を貫通した敵砲弾の炸裂による火炎や破片が弾火薬庫まで到達して誘爆を引き起こし、それにより3隻の巡洋戦艦を次々と失った事や、その他にも緊急注水等の応急対処により爆沈を逃れたとは言え砲塔や砲塔基部支筒に貫通弾を受け誘爆の危機に瀕した艦が多く有った事に過剰反応した結果とされる。
 つまり、砲塔や砲塔基部支筒の被弾による爆沈を防ぐため主防御部分を可能な限り小型化集中し、それにより浮く重量や容積を使って主要防御部分の装甲厚を増す等の防御力強化を行う考え方であったのだ。
 また本級は、浮いた重量や容積の一部を機関部容積の拡大に廻した事で高出力機関の搭載を可能としており、これにより高いレベルで攻防走のバランスがとれた新世代の高速戦艦となったのである。
 加えて主砲塔に囲まれる形となった艦橋構造物の形状も、集中的に配置された主砲が発射時に発生する極めて強烈な衝撃波と火炎に耐久できるように三脚楼式を止めて英国戦艦として初の新式塔型構造式を採用していた。
 また、主砲の死角となる後方への投射火力を確保するため世界で初めてケースメイト式副砲を全廃し防御力、発射速度、命中精度、有効射程の全てに優れるMk18型砲塔式連装副砲を採用しているのも新しい試みであった。
 この砲塔式副砲には、6"/50 BL Mark22砲が搭載されており、新型の射撃指揮装置の採用と相まって従来のケースメイト式副砲とは格段に高い効果を有していた。
 この他に本級は、対空対水上近接防御火力として4.7"/40QF Mark8型単装高射砲6基と4"/45 QF HA Mark5型単装高角砲20基を搭載していた。
 これらの補助砲は、航空機や飛行船と言った飛行目標に対する高仰角射撃が可能だったが、どちらかと言えば主用途は、肉薄雷撃を試みる敵の水雷艇や駆逐艦を阻止する速射砲として役割だった。
 さらに本級は、船体内部の両舷に各1基の24.5"固定式魚雷発射装置を装備していた。この魚雷発射装置は、最終的に当時英国でも開発が始められていた酸素式魚雷を使用する事を考えて搭載されたものだったが、酸素式魚雷の開発中止と防御力向上のため大改装時に撤去された。
 このように高性能な本級では有ったが、保守的な設計を続けていた英国造艦界が、一転して選択した革命的で独特な設計故に指摘された難点も少なくなかった。
 本級の最も有名な難点は、コストが高い事であった。
 本級の建造費は排水量1トン当たりで換算してもフッド級巡洋戦艦を上回るもので、もちろん平時の運用費も、特に大出力機関の整備費や燃料消費量が大きく、フッド級の1.5倍に達するとまで噂された。
 ただし、兵器は全般的に第一次世界大戦を境に大きく進歩した代わりに、それに見合うコストの高騰もおこしており、加えて本級が船体規模と比べて強力な攻防走力を持っていたためコストの上昇は当然と言えば当然の事で、本級だけが特別に高価な艦と言う程では無かった。
 しかし、それでも第一次世界大戦の疲弊から立ち直りきっていない大英帝国にとって極めて重荷となる金のかかる軍艦であった事に違いはなく、本級の就役に代わってライオン級等のまだまだ新しい戦艦や巡洋戦艦が次々と退役する事になった。
 また、5万トン近い排水量を持つとは言え、高速性追求のために船体を可能な限り細長くした設計だったため、結果的に燃料搭載量の少ない船体に燃料消費量の大きい機関を搭載した事になり航続力は18ノットで約5000海里とフッド級より短くなってしまった。
 加えて防御力においても主要防御部を可能な限り小型化していたため脆弱部が比較的多くなり、中小口径砲弾等による致命傷ではないが、無視し得ない損害が発生する可能性が多く、しかも米戦艦と比べると対水雷防御力や予備浮力も排水量の割りに小さく、浸水発生時の耐久性と言う意味からは、決して優れた艦ではなかった。
 そして、後々最大の問題点となったのが艦橋を主砲塔で囲んだ主砲塔艦首部集中配置方式であった。
 本級は、この艦橋配置のため艦橋設備や旗艦設備等の増長性が制限されていた上に、強力な主砲発射爆風により艦橋部への電子戦装備等の追加にも問題があったため、RDFやCICと言った新世代の戦闘指揮システムの搭載が大きく制約されてしまっていたのである。
 このような問題点があったものの、本級は極めて有力な戦艦であり、英国海軍の中核的存在で有ったため、その能力を維持するための近代化改装が繰り返された。
 特に海軍制限条約の失効により1930年代後半に実施されたを近代化改装は大規模で、機関の出力向上や艦橋設備の近代化改装だけでなく、電子装備や補助火砲の強化、さらには耐水雷防御力と予備浮力を向上させるためバルジ増設を含む船体構造の改造までが行われている。
 この大改装により本級の最大出力は200、000馬力に達し、加えてバルジの増設により耐水雷防御力が向上させられたばかりでなく、バルジを利用した燃料タンクにより燃料搭載量が1、000トン以上増加し、それにより航続力がフッド級を上回る18ノットで約7、000海里まで延長されている。ただし、これらの船体改造により排水量と抵抗が増大したため公試で31.5ノット、実戦では30ノット強程度と最高速力が若干低下していた。
 また、この大改装ではRDFアンテナの一部を後部マストへ配置する等の工夫により電子装備を近代化し、対空対水上火力の強化と有効射程延伸のため4.7"/40 QF Mark8型と4"/45 QF HA Mark5型の単装砲を廃止し、代わりに4.5"/50 QF Mark3型連装両用砲8基と2pdr Mark8/M6型8連装機関砲6基が搭載される等の武装強化も行われてた。
 特に2pdr機関砲は、8連装のMark8/M6型の他に4連装型や単装型もあり、有効射程の長さと大口径砲弾の威力で対空対水上射撃に大きな威力を有していたため第二次世界大戦においては大英帝国海軍の標準的搭載機関砲となった。また、大日本帝国海軍でも採用され主に大型艦へ搭載されている。
 本級は、初期計画の4隻建造に加え、追加で2隻の建造予算が計上され計6隻の建造が計画されていたが、米国が建造中のサウスダコダ級戦艦や大日本帝国が計画中の紀伊型戦艦の情報が伝わると、それらを凌駕する砲撃力を有する戦艦が要求されたため、着工されていなかった追加分の2隻は建造中止となった。
 この建造中止となった2隻の資材や予算等は、紆余曲折を経て巡洋戦艦インコンパラブル級の建造に流用されている。また、5番艦インコンパラブルと6番艦インプラカブルの艦名もインコンパラブル級に引き継がれている。


 基準排水量 50、500トン 満載排水量 55、000トン
 最大速力 31.5ノット 航続力 18ノット/7000海里
 武装 16"V×3 6"U×6 4.5"U×E 2pdrMG[×E(○付きは両用砲または対空砲)
    艦載機×2 カタパルト×1 他

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