戦艦キング・ジョージ・X世級(英)

 キング・ジョージ・X世級
 プリンス・オヴ・ウェールズ
 デューク・オヴ・ヨーク
 キング・エドワード・Z世

 本級は、サー・スタンレー・グッドールにより海軍制限条約の制限枠内で基本設計され英国で唯一実際に建造された級の戦艦で、米国のアラバマ級や仏国のリシュリュー級と同じく条約型戦艦と呼ばれる。
 英国は同時期に本級とは別に太平洋、インド洋方面での運用を考えて航海能力と航続力を重視したバンガード級条約型戦艦5隻の建造を計画しており、本級の5隻とバンガード級で、老朽化してきたR級・Q級戦艦の代替えとする計画であった。
 しかし、海軍条約が失効した事と、世界情勢の変化からバンガード級は、全艦が建造中止され、本級も起工が遅れていた5番艦の建造が中止された。
 ちなみにバンガード級の名称は、後に10万トン級戦艦に与えられている。
 本級は、インコンパラブル級わ設計したサー・グッドールにより、植民地での警戒行動や通商航路警備のために必要な航海能力と航続力を重視する設計がなされており、最大速力は30ノット以上が発揮可能な上に、航続力は10ノットで15、000海里、20ノットで7000海里の優れた能力を有していた。
 また本級の主砲は、建造計画当初に16インチ砲に匹敵する威力と射程を持つと予定された新型の15"/45 Mark2型3連装砲塔3基計9門または軍縮条約による性能制限枠一杯の16インチ砲3連装3基9門を搭載する2案があった。
 しかし最終的には、新型15インチ砲の開発が難航した上に、砲弾の威力的にも16インチ砲に若干及ばない事もあり、軍縮制限条約期限切れに伴うセント・アンドリュー級の主砲換装で余剰となる16"/45 Mark1型砲を改造して搭載する事で落ち着いた。
 この改造は、主砲砲身こそ16"/45 Mark1型を使用するが砲塔や装填装置は完全に新設計の物が使用され、それにより最大射角を45度まで向上させて最大射程を34、750mから40、050mに延伸させ、加えて弾重1080sの新型徹甲弾の発射を可能としているだけでなく、仰角固定装填方式を採用して防御力を向上させる等の多岐にわたり、このため砲システムの名称も16"/45 Mark4型3連装砲に改称されている。
 また本級は、英国で初めて建造時から副砲を廃止した戦艦であり英戦艦で一般的な6"副砲と4.7"高角砲&4"高角砲の組合せに代わり、新型の5.25"/50 QF Mark1連装両用砲が搭載されていた。
 全電動制御式とする事で主砲塔の動作速度を向上させて副砲を廃止した米戦艦と比べて、水圧および油圧式であるため主砲塔の動作速度が劣る本級が副砲を廃止できた理由は、この5.25"/50 QF Mark1型連装両用砲の優れた性能によるところが大きい。
 この砲は、発射速度や動作速度では4.5"/45 OF Mark3型連装砲に匹敵する性能を持ちながら、有効射程や砲弾威力も6”砲と5”砲の中間程度の大威力を持つ極めて高性能な火砲で、水上目標に対する単位時間当たりの投射弾総量では6"/50 BL Mark22型砲を大きく上回っていた。
 しかし、この5.25"/50 QF Mark1型連装両用砲も、どちらかと言えば対水上射撃を主目的に設計されており、日米が主力としていた5インチ砲と比べて砲弾が大きいため大仰角射撃時の発射速度が18発/分から15発/分程度に低下する難点があり、特に高仰角射撃でも22発/分の性能を誇る米国の5"/38 Mk12と比べると発射速度が低かった。
 また、本級の装甲防御力は、主砲塔正面406o、同天蓋部228o、砲塔基部装甲筒406o、司令塔381o、舷側装甲帯381o、防御甲板203oと強固で、特に舷側装甲帯の装甲は極度の集中防御方式を採用していたインビンシブル級すらを上回っていた。
 加えて本級は、インコンパラブル級に続いて前方2基、後方1基の一般的な砲塔配置を採用しており、それにより集中防御部分が大型化し、重装甲と耐水雷防御構造、そして巨大な排水量にも助けられ非常に強靱な耐久力を持つ戦艦となっていたが、この方式は、その後の英国戦艦では主流とはならず、病のため第一線を離れたグッドールに代わりエドワード・アッドウッドが設計したライオン級で再び主砲塔集中配置方式に戻っている。
 このような戦艦の設計に置いて、最も重要な主砲配置や艦上構造物配置に関する設計思想の混乱は、1920年代中期から1940年代中期までの約20年にわたり続いたのだが、英国海軍では、速力重視と防御力重視の対立による混乱を第一次世界大戦前後にも発生させており、このような混乱も英国海軍の伝統と言うべきものであろう。
 また本級は、英国が世界に先駆けて実用化していた電子捜索システム(RDF)を使用する電子戦に対応した中央戦闘指揮所(CIC)の設置を英国戦艦で初めて設計時から盛り込む等、新世代技術を多数盛り込んだ高性能戦艦として完成していた。
 加えて、インコンパラブル級と同様に艦橋や煙突により主砲爆風や波浪から保護される艦中央構造物の中部に偵察および弾着観測用水上機を運用するための露天格納施設とカタパルトやクレーンが設けられていた。
 これらの新装備により本級の戦闘力は、攻撃力こそ16inSHS弾を使用する米国のアラバマ級より若干劣るものの、防御力はアラバマ級やミズーリ級より優秀で、総合性能ではアラバマ級に優るとも劣らないものと高く評価されている。
 本級は当初5隻の建造が予定されたが、続々と建造が開始される米国長砲身16in砲搭載戦艦群に対抗して切り札であるライオン級の建造が優先されたため4隻までで建造計画が打ち切らた。

 基準排水量 40、000トン 満載排水量 45、000トン
最大速力 30.3ノット 航続距離 20ノット/7、000海里
 武装 16"V×3 5.25"U×G 2pdrMG[×E/W×C
艦載機×3 カタパルト×2 他

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