安田しん二レコーディング日記
私、安田しん二のスタジオ、FAB ROCKS REC. HOUSEでの奮戦記です。
FAB ROCKS REC. HOUSEはNon DIGITALにこだわった、
ANALOG専門のレコーディング・スタジオです。

2000年5月17日水曜日〜5月19日金曜日
 私は自宅で朝4時に目を覚まし、FAB ROCKS REC. HOUSEへ行く為に朝6時に家を出て来ました。朝の6時は私達ミュージシャンには凄く早い時間(逆に「遅い時間」と言う言い方もあります)だとは言うものの、普通、会社勤めをしてる人達にはこんなの当たり前の時間ですよね。こんなに早く起きて家を出たのには「スタジオには何が何でも午前中に着きたい」と言う思いからですが、これは実は17日が大安で、何でもいいからその大安の日の午前中にレコーディングをスタートさせて、ゲン良く始めたいという思いからであります。その甲斐あって、私達は(チンパンと私の2人)は伊豆のスタジオに8時に到着。前日の夜中に来て、当然まだ寝てるよすおさんを叩き起こし、玄関前に塩を盛り、3人でお神酒を飲んで、さてレコーディングのスタート!!と、ところが、このお神酒が効いたのか、身体が急に怠くなり(朝早かったせいもあるけど……)、なんだか、段々やる気を失なって行くのでありました。
 さて、今回このクールで録音しようとしてる楽曲は2曲あります。普通は家でデモ・テープを創って来るのが通常なのですが、今回はそれを行わず演ろうかと思ってます。そこで私は、この2曲の簡単なコード譜を家で書いて来ました。因みに、この段階ではまだ詞は書いてません。と言うことは、当然曲のタイトルもないわけです。ですから先ず1つの方の曲を「M−1」、そしてもう一方を「M−2」と、とりあえず書いてきた譜面にはその様にメモっておきました。
 「M−1」の方はミッド・テンポのバラードで、私達のナンバーで言うならば、「朝日を見に行こうよ」のようなタイプの曲です。だったら仮題で、「夕日を見に行こうよ」にでもしておこうか、とそんな具合に仮題が決定!!以後は詞が完成して、ホントのタイトルが決まる迄は、我々の間ではそう呼ばれるわけです。そして、もう一方の「M−2」の方なんですが、こちらはアップ・テンポで、A&Mサウンドのイメージで書いた曲ですので、私の大好きなポール・ウイリアムスのアルバム、『サムデイ・マン』をちょっと変えて、「サムデイ・ウーマン」にでもしておこうかなと思います。これについては「A&Mサウンドだ」なんて簡単に言ってますが、ところが毎度の事なのですが、私の楽曲というのはアレンジ、レコーディングしていくうちにドンドン方向性が変わっていってしまい、その結果、都合の良い事にそれが我々のサウンドになってるのです。
 「夕日を見に行こうよ」と「サムデイ・ウーマン」の2曲ですが、当然他の2人にはまだちゃんと聴かしておりませんので、ここでミーティングがてら、3人でセッションする事となりました。よすおさんがヘフナーのヴァイオリン・ベース、チンパンがエピフォンのアコースティック・ギター、そして私がDX−7(め、め、めずらしい〜!ウチのバンドにシンセが登場するなんて!しかし、それはリハの時だけで、実際のレコーディングになれば、その様なデジタル・シンセは絶対に登場しませんが…………)でセッション開始します。先ずは「夕日を見に行こうよ」の方からです。この曲は元々、昨年のミラクルシャドウのライヴの時に、「朝日を見に行こうよ」の序曲として作曲したものなのですが、今回はそれにサビと大サビの2つをプラスしてビルド・アップしました。この曲のメロディーの持つ優しさと美しさは、「朝日〜」に匹敵する出来栄えだと自負しております。曲のテンポも初めは“4分音符=90”位に設定してたのですが、3人でセッションをしていくウチに“4分音符=87”に落としました。そして同時に、曲の構成を固め、ベースのフレーズの確認、チンパンには「こーゆーふーに、ギターを弾きなさい」とレクチャーし、2人(よすおさんとチンパン)の役割も決定していきます。イントロも、チンパンのアコースティック・ギターをフューチャーする形に決め、エンディングに関しても、イントロのフレーズにまた戻る様にと、方向性をドンドンまとめていきました。間奏に用意していたフレーズがあったのですが、そこにもやっぱり歌をのせる事にし、この時ここの部分はチンパンに歌わせようかとも思いましたが、「こーゆー曲はコロコロとヴォーカリストが替わらない方が良い」と言う事になり、結局私が歌う事にしました。そして、この部分へのブリッジがなんとなく不自然だったので、そこの部分のコードをちょっと変えました。いよいよ、ちゃんとした譜面をおこすわけです。譜面が出来上がれば、レコーディング準備はほぼ完了です。しかし、私はギターやベースにもかなり細かく注文をする方なので、今すぐレコーディングをするよりは、「各自家で完全な形になるまで予習してきてもらってから、レコーディングに入ろう」と言う事になりました。
 今度は、もう一方の「サムデイ・ウーマン」の方です。こちらの楽曲は、私は初めからアルバムの2曲目に収録しようと決めてました(機が早い!)。曲調は、曲中で何度もリズム・チェンジをする変則的なポップ・ナンバーで、リズム・チェンジと言っても決してプログレチックなそれとは違うのです。曲の最初のAにあたる部分では、チンパンに歌い始めを任せ、よすおさんにも一節歌わせることにしました。そこで私は、彼らにちょっと複雑なこれらのメロディーを完全な形で伝えなくてはなりません。歌う時のちょっとしたコブシや、強弱やシンコペーションの有る無しで、そのメロディーの持つ良さが無くなってしまうからです。そして、彼らがこの曲のヴォーカル部分をマスターする事で、これで念願のバンド全員がリード・ヴォーカルをとる曲が誕生するわけです。今回のレコーディングから、ギタリストが「歌が歌える」チンパンに代わり、彼の持ち味を活かす意味でも、このアルバムでは随所にチンパンの歌が聴ける様にしたいと思っているのです。私の彼に対する期待は大きいです。若い彼は、実はまだアマチュア・ミュージシャンなのですが、ここを乗り切れば念願のプロ・ミュージシャンの仲間入りが出来るはずです。大変かとは思いますが、是非、挫けずにかんばってついて来て欲しいと思います。私もよすおさんも皆、プロになる直前やなりたての頃は苦労しています。がんばれ、チンパン!!俺達がついてるぞ!
 「サムデイ・ウーマン」の構成決めは次回から演るつもりだったのですが、結局最終日にチンパンにギターを弾いてもらい、残りの構成も全部仕上げてしまう事が出来ました(よすおさんは風邪で寝込んでます。しっかりせんかーい!!)。
 皆さんは大体セッションを始めると、一体どの位の時間演るの?とお想いでしょう。私達は一度始めると4〜5時間位は平気で集中してしまいます。もちろんメンバーもその位は平気で対応してくれます。今回も3日間で大体12〜16時間位はセッションしたのでしょうか?と言うわけで、次のクールからはリズム・トラックの録りに入れそうです。今回のクールは、音を1つもレコーディングしませんでしたが、レコーディングの出だしとしては、とても順調だったのではないでしょうか?……と思い込む事にしましょう。

2000年5月28日月曜日〜6月1日木曜日
 前回のクールは、ミーティングとセッションだけで終ってしまった私達のレコーディング(まだレコーディングとは言わないっかぁ?)。今回は最低でも、2曲程はリズム・トラックを完成させるつもりでおります。なにしろ、ほとんどの曲がデモ・テープなし、リハーサルなしのぶっつけ本番レコーディングですので、打ちあわせを丹念にやっておく必要があるのです(言訳っぽい?)。チンパンも家で相当練習して来た様で、スタンバイ・OKになりました(えらいぞ!)。
 私は月曜日の朝10時に伊豆のFAB ROCKS REC. HOUSEに到着し、他のふたりは前日からの前乗りで既に着いてるはずです。私は着いたらすぐレコーディングを始められる様にと、ふたりに「8時には起きててよ!!」と言ってありましたので、到着時間の10時は結構良い時間です。前回の様に御神酒などを呑んでからですと、またやる気をなくす可能性が大なので、今回は「さ、演るぞ!!」と、これだけでスタートしました。

 先ずはマイクのセッティングをして、クリックとチューニング用のロング・トーンを入れます。これを“A(アー)トーン”といいますが、最初に録る曲のキーに合わせ、“A(アー)”ではなく“C(ツェー)”を入れました。最近のレコーディングでは普通、“A=441”と言うのが多いのですが、私達は“A=440”に設定します。家庭用のピアノのチューニングですと“A=442”がポピュラーです。昔の楽器が多い私達のレコーディングでは、やはり“A=440”が最も都合が良い様です。午前中にこの様な作業的な部分を済ませ、食事を充分とってから、いよいよ音を創って行きます。

 このFAB ROCKS REC. HOUSEには私達バンドのメンバーだけしか人がいません。ですから、普通アシスタントがやる様な事や、雑用も含め、全てメンバーだけで行います。私達の場合、エンジニアリングはほとんど私がやりますので、私がドラムを叩く場合の音創りは最も大変です。そして、マイクのセッティングの前に絶対に忘れてはならないのが、ドラムのチューニングです。ドラムの生の音を丹念に創った後は、録音機材のセッティング(マイクを立てたり、セレクトしたりします)をして、それから誰かにドラムを叩かせ、大まかに録音される音のイン・プットを私がチェックし、ある程度音を創ります。楽器は何でもそうですが、特にドラムは叩く人間によって全然音が変わりますので、ここはもうホントに大まかにです。今度は一度私自身のプレイでちょっと録ってみます。そして、そのプレイ・バックを聴き、ドラムのチューニングを微調整したり、マイクの位置を微妙に動かしたりします。今度は、マイク・プリ・アンプやコンプレッサーのつまみに印を幾つか付け、私がまたドラムを叩きます。その時私は先ずはリズム・パターンを刻み、次にオカズを叩いたらそれを合図に、つまみを幾つか付けた印のところに動かす様にチンパンに指示します。これのプレイ・バックを再度聴き、段々と音の焦点を絞って行きます。これを何度も何度も繰り返し、音を創って行くわけです。そうこうして、楽器のセレクトとチューニングが決定したら、最後に今更ながらもう一度、録音機材(マイク、マイク・プリ・アンプ、コンプレッサー等)の方のセレクトが適切かをチェックします。特に自分がプレイしながら録る場合、エンジニアがいないとかなり大変ですが、その反面、「自分のプレイを自分がエンジニアリングする」と言うのはよくプレイヤーとエンジニアとの間に生じる垣根が無い訳で、それが強みにもなる事も有ります。

 レコーディングでは集中力と言うものがとても重要です。プレイしてる時に少しでも雑念が入ると、必ずといって言いほど演奏が歪みます。さすがにレコーディングは何度経験していても、つい力が入ってしまうものです。レコーディング初体験のチンパンも、今はとても緊張してる様ですが、彼の集中力があれば、自分の持ってる実力を出す事が出来るでしょう。

 今回は予定の2曲を上回り、結局全部で4曲のベーシックを録りました。先週リハをして煮詰めた「M−1/夕日を見に行こうよ」と「M−2/サムデイ・ウーマン」(いずれも勿論仮題)の他、「M−3/ラッタタ〜〜」と「M−4/モーさん出来ちゃった」(これらも勿論仮題です)という曲も録りました。軽快で明るくアメリカンな曲調の「M−3」は先週もセッションしましたが、このクールが始まる前日に大サビをもう1つ追加して、更により良い曲になったと思います。「M−4」は一度、昨年の夏前にデモ・テープを創った5曲のウチの1曲です(チンパンは、まだバンド加入前)。アコースティック・ギターのスリー・フィンガー奏法をフューチャーした曲で、ちょっとカントリー調かと思い気や、以外とアレンジしてレコーディングをしていくと、そうでもなくなりそうです。実は、以外とスリー・フィンガー奏法でテンポを正確にキープするのは難しのですが、チンパンは練習熱心で難なくこなせてる様です。
 ギターと言えば、私達はいつも昔の古いギターを沢山使いますが、この楽器の調整にも相当手間取ります。普段は腕のいいリペアマンに調整・修理を御願いしてますが、しかし、この職人さんが中々ギターを仕上げてくれない事があって、ギターが出来上がるまで、そのパートを録る事が出来ないという事もあるんです……(ちょっと愚痴です)。ですから、自分達で出来る範囲の事は自分達でやります(と言ってもほとんどよすおさんの仕事…)。
 実は今回は、昨年からいくつかの古いギターを入手しましたので、これらのギター達のデビューも兼ねております。私自身、そう言った意味でもとても楽しみです。それらのギターを使ったレコーディングは、いよいよ次のクールから始まるでしょう。


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