モータウンの男性シンガーと女性シンガーの頂点にいた2人、マーヴィン・ゲイとダイアナ・ロスが1973年9月に発表したデュエット・アルバム、『ダイアナ&マーヴィン』です。ダイアナ・ロスにとっては初めてのデュエット・アルバムで、マーヴィン・ゲイはダイアナ・ロスが4人目のデュエットのパートナーです。
マーヴィン・ゲイは1964年にメリー・ウェルズと、1964年と1967年にはキム・ウェストンと、そして1967年から1969年までは、タミー・テレルと3枚のアルバム、9枚のシングルをリリースしました。タミー・テレルは1970年3月16日、脳腫瘍の為亡くなりましたが、倒れたのはステージの上で、それもマーヴィン・ゲイの腕の中へ倒れたと聞いています。マーヴィンはタミーの事を愛していたので、タミーの死後、ショックのあまり引き籠ってしまい、1年間近い隠遁生活をおくってました(タミーはテンプスのデビッド・ラフィンの事が好きでしたが、女癖の悪いラフィンに随分と傷つけられたと聞いています)。
そんなマーヴィン・ゲイは、もう二度と誰ともデュオを組まないだろうと言われてましたが、その沈黙を破って発表したのが本アルバムです。
アルバムの幕開けはスタイリスティックスのカヴァーで1971年のヒット曲、「ユー・アー・エヴリシング」から始まります。プロデュースはハル・デイヴィス、作曲はフィリー・サウンドの重鎮のトム・ベル、アレンジはデイヴ・ブラムバーグと言う人物が担当してます。エレクトリック・シタールなどもアレンジに活かされていて、大元のフィラレルディア・サウンドのイメージを損なうことなく、良いアレンジだと思います。そして、イントロの淫靡な怪しさ、マーヴィンの“Oh
darling, I want....”と言う甘いささやきにダイアナが“You are everything, Ooh......”と答えて行きます。テンポもオリジナルのスタイリスティックスのヴァージョンとほぼ同じです。オリジナルのスタイリスティックスのヴァージョンがコーラス・グループらしい調和のとれたヴォーカル・スタイルと言うのに対し、こちらは男女ヴォーカルの絡みが全面に押し出されてます。1番はダイアナの歌から、2番はマーヴィンの熱唱から………。本来、高音部を柔らかく粋に歌い上げるマーヴィンのヴォーカル・スタイルですが、ここでは少し張って歌ってます。その張った男らしい感じの歌唱と、ダイアナの艶っぽい声の絡みが素晴らしいです。アドリブ・メロ(普通フェイクって言いますが……)も素晴らしいです。流石!
2曲目は「ラヴ・トゥインズ」はマリリン・マクロードとメル・ボルトンによる書き下ろし作品で、ウーリッツァーのエレピとクラヴィネットのイントロから始まるファンキーなナンバーです。ここでは「ユー・アー・エヴリシング」の時とは対照的な、マーヴィンのファルセット・ヴォイスが聴かれます。
3曲目は何故か志村けんを思い出しますが、ウィルソン・ピケットの1971年のヒット曲、「ドント・ノック・マイ・ラブ」です。
4曲目はベリー・ゴーディ・ジュニアのプロデュースによる「噂の二人」で、シング・ヒットしたナンバーです。ここでもエレクトリック・シタールがちょこっと出て来ます。それからグロッケンもストリング・アレンジと調和してます。ブラスとストリングスにはホルンやハープもプラスされていて、それがとてもフィリー・サウンドっぽいです。
5曲目の「プレッジング・マイ・ラブ」は、1954年にジョニー・エース(プロレスラーのではありませんよ)、1958年にはイ・ハミルトンがヒットさせた8分の6拍子のバラードです。最後の方のマーヴィンのアドリブ・ヴォーカルがたまりませんです。
そして、アナログ盤ではB面の1曲目にあたります、「愛のひとこと」はマーヴィンとタミー・テレルのデュオやダイアナ・ロスにも多くの名曲を提供してたオシドリ夫婦、アシュフォード=シンプソンの作曲、プロデュースもアシュフォード=シンプソンが担当してます。
7曲目もスタイリスティックスのカヴァー・ナンバー(勿論、トム・ベルの作った曲です)、「ストップ・ルック・リッスン」です。プロデュースは「ユー・アー・エヴリシング」と同じ、ハル・デイヴィスですが、アレンジャーがジーン・ペイジになってます。こちらはダイアナとマーヴィンの歌のせいか、オリジナルよりはメリハリがある様に思えます。
8曲目の「アイム・フォーリング・イン・ラブ・ウイズ・ユー」はマーガレット・ゴーディーの作品で、プロデュースもマーガレット・ゴーディーとマーク・デイヴィス(アレンジも担当)となっております。
9曲目は「マイ・ミステイク」。ハーモニカが印象的です。
10曲目の「イン・ユア・ライフ」もマリリン・マクロードとメル・ボルトンによる書き下ろし作品で、4分の3拍子のバラードで、ドラムスがスイングしていてジャジーな雰囲気があります。
このアルバム、聞いた話ですと、実はダイアナとマーヴィンは同時にはスタジオ入りしてないとの事、つまり別録りってやつです(しかし、レコード・ジャケットや中の写真はちゃんと二人で写ってますし、因みにダイアナ・ロスのショーにマーヴィンが飛び入りしたりして、仲が悪いってわけではないようですね)。しかし、それがかえってお互いに張り合わず、クールなデュオとなってる気がします(マーヴィンの方が後からレコーディングしたのかなぁ?)。