記憶の断片(3)
written
by ジン
第3章〜咆哮〜
辺りが暗くなっていく中で、その人影はいやにはっきりと目に映った。
今でも瞼の裏に焼きついている、その人影。
何者か理解した瞬間、背筋が凍りついた。信じたくない。そう思った。
目の前に現れたその生き物は、もう人とは呼べない生物だった。
身体中に鱗があり、更にその上に苔がびっしりと生えている。
元が人だったとは判る体型だったが、体中が爛れてぬらぬらと光り、歩くごとに不快な音をたてた。
生き物の腐敗臭を撒き散らしながら、自分の方へ近づいてくるその生き物・・・。
もう何も考えられなかった。わけのわからない、ありえない出来事・・・。
頭の中にはただ一つ、黒い猛獣の咆哮があった。
人間の恐怖の全てだろう狂気をぶちまけた。
「うあぁぁっおああぁああぉっぁぁぉああああ!!!!」
いつまでも叫び続ける。前が見えない。見たくなかった。あの生き物を。
頭のどこかで狂ってしまった方が楽だ、という考えがあったのかもしれない。
気を失うことを望んでいた。
薄闇のぼやけた意識の中にあの、「生物」が浮かんだ。
「何だったんだろう・・・あれ・・・」
当然の如く沸き起こると思っていた恐怖が消えていた。冷静に考察している自分に驚いた。
「・・・これ・・・精神世界・・っていうやつか・・・?」
さっきから何も見えない。自分の肉体さえ。「色」というものが存在していないようだった。
意識だけが浮いているような感じがした。
「俺・・・どこにいるんだ・・・・?」
この異常な世界から抜け出して、早く眠り込んでしまいたかった。楽に・・・なりたかった。
そう思った瞬間、意識が飛んだ。そう、ついこの前と同じように。
「・・・・・この前?・・・なんだ・・・?_この前って・・・?そんなのあったっけ・・・?」
現実と意識の狭間で自分の中から湧き出る覚えのない記憶。
時間は考えるような猶予は与えてくれない。
それが悪夢の始まりだった。
〜第4章へ〜