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12月24日の夕刻、陰陽寮の仕事から帰って来た泰明に急に「出掛けるぞ」と言われ、 あかねはあわただしく身支度をした。そして、今、わけのわからないまま、泰明に手を 引かれて北山に向かっているところである。 雪はすでに止んでいたが、この季節に北山というのはかなり寒い。 「泰明さん、どこに行くんですか?」 と聞いてみたが、 「着けばわかる。」 とのみ返答が返って来ただけで、それ以上何も聞くことはできなかった。 やがて… 「着いた。」 泰明はそう言って、あかねの手を離した。 すでに頂上付近ではないかと思う。 が、あたりはもう暗くて何があるのかさっぱり見えない。 「ここに何があるんですか、泰明さ…」 そう言いかけた時、あかねの目に突然光の洪水が飛び込んで来た。 「わぁ〜っ!!」 あかねは思わず声をあげた。 あかねの目の前にある一本の形のよい杉の大木。 その周りを無数の小さな明かりが、らせん状に取り巻いて、ゆっくりゆっくりと 回っていた。 「きれい…」 あかねは一歩その木に近づくと、それを見上げて声を漏らした。
「気に入ったか?」 あかねの後ろから泰明が声をかけた。 あかねは振り向き 「泰明さん、これ!?」 と聞いた。 「この前、あかねが教えてくれた“くりすます・つりー”というものを私なりに真似て みたのだが…。」
「あっ…」 あかねは思い出した。5日ほど前、クリスマスのことを泰明に聞かれた時、クリスマス・ ツリーを絵に描いて説明したことを。
あかねの目には思わず涙があふれてきた。 それを見て泰明はびっくりして、オロオロしながらあかねに話し掛けた。 「き…気に入らなかったのか? 似ていなかったのだろうか、“くりすます・つりー”と…」 そんな泰明の首に突然あかねは飛びついた。 「あ…あかね!?」 「嬉しいの。泰明さんにこんなにも愛されていることが。とってもとっても嬉しいの!!」 泰明はそんなあかねをいとしそうに抱きしめた。 そして、ふたりは長い長い口づけを交わした。 「めりー・くりすます、あかね!」 「メリー・クリスマス、泰明さん!」 そう言葉を交わすと、再びふたりは唇を重ねた…
そんなふたりの上で、提灯を持って木の周りをぐるぐると飛んでいた小天狗たちが聞いた。 「紅牙沙さまぁ、僕達いつまでこうしていなきゃいけないんですかぁ?」 「まあまあ、今夜はこのままあやつの気がすむまでつきあってやれ。」 「エーッ、一晩中ですか〜!?」 「もしかすると、な。」 「そんな〜っ」 と言いながらも律儀な小天狗たちは結局一晩中泰明達につきあってくれたのである。 「ふぉふぉふぉ、泰明、この貸しは高くつくぞ〜っ」 紅牙沙はひとりそうつぶやいた。 泰明は次の朝、一瞬背中に寒気を感じたが、きっと再び降り始めた雪のせいだと自分で 納得したという。 この後に何が待ちうけているか…それは神のみぞ知る。 いずれにしてもふたりが幸せならばそれでよい。 みんなにメリー・クリスマス!
Rui Kannagi『銀の月』 http://www5d.biglobe.ne.jp/~gintuki/
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