決戦の朝−泰継

 

神子…おまえは私を“人”にしてくれた。

以前の私なら何よりも望んでいたもののはずなのに…

だが、私の心にうずくこの気持ちはいったい何なのだ。

 

私が眠りについた時、おまえは私の身を案じてくれたという。

私の目覚めの時、もしかしたらおまえがそばにいてくれるのではないかと思った。

だが…私が目覚めた時、おまえの姿はどこにもなかった。

ただ白い白い雪が私の身体に降り注いでいただけ。

私は今まで人でない時には感じたことのない“寒さ”というものを初めて知った。

だが、それは降り積もる雪のせいだけだったのだろうか…

心臓が凍り付いてしまいそうな激しい痛み…

その痛みの名が何というのか私にはわからない。

きっとこれもおまえが私に与えてくれた感情なのだろう。

おまえは私に私がそれまで知らなかったさまざまな感情を与えてくれた。

だが、そのおまえは今…私のそばにいない。

 

「人になった」とおまえに告げた時、おまえはとても嬉しそうに笑ってくれたな。

だが、その微笑みは私にだけ向けられるものではない。

不可触の女神。慈愛に満ちた龍神の神子…それがおまえだ。

 

最後の戦いに出掛けるおまえの後姿をずっと見つめながら、私はふいに後ろから

おまえを強く抱きしめたい、この腕の中に閉じ込めてしまいたい…そんな激しい

衝動にかられた。

京が救われるか、それとも滅びるか…それが決するこんな重大な時にこんな愚かな

ことを考えてしまうとは…まるで私が私でないようだ。

私は人間になると同時にどこか壊れてしまったのだろうか?

 

もうすぐすべての決着が着く。

すべての戦いが終わったら、おまえはどうするのだろう?

おまえは元いた世界に帰ってしまうのだろうか…

それともこの京に…だが、その時にはおまえは私のそばにいない。

嫌だ、ほかの男がおまえのそばにいるのなど、とても耐えられない。

私にはおまえしかいない。

長い長い年月、たったひとりで生きてきた。

私の周りにいた者どももみんな私を残して老いて、そして死んで行った…

おまえは私のすべてだ。

おまえと出会って、私は初めて生を与えられたような気がする。

だから、おまえがいなければ私の生きている意味などない!

なぜおまえは私を人間にしたのだ?

こんな感情を持つぐらいなら“人”でないままでよかった。

私にこんな狂おしいほどの感情を与えたままおまえは私を置いて行ってしまうと

いうのか…

 

 

◇◇◇

 

 

その時、私は知らず知らずのうちにかなり苦しげな表情をしていたらしい。

それに気づいた神子が私の方にパタパタと駆け寄って来た。

「大丈夫ですか、泰継さん?」

急に目の前に現れた大きな瞳に私はとまどいながらつぶやいた。

「神子…」

神子は私の両の手をその小さな手で包みながら言った。

「昨日までずっと具合が悪かったんですから無理しないでくださいね。

 ごめんなさい。泰継さんが体調がすぐれないこと知ってたのに、今日の最終決戦に

 選んでしまって。でも、私、最後の戦いでどうしても泰継さんに一緒に戦ってほし

 かったんです。」

 

その言葉に私は一瞬目を瞠った。

 

――最終決戦で私と共に戦いたかったと…神子が…

 

「具合が悪いんだったら他の人に変わってもらった方がいいですか?

 もし、泰継さんが…」

「いや、問題ない。神子とともに戦う。神子が私のことを選んでくれたのだ。

 神子の役に立ちたい。」

それを聞くと神子は私に向けてこぼれるような笑顔を見せた。

「よかった。それじゃあ、今日は一緒に頑張りましょう!」

そう言うと、またパタパタと走り去って行った…

 

その後姿を見送りながら、私はこの身に温かなものが満ちてくるのを感じた。

私は八葉だ。八葉としての勤めを全うする。

そして、ひとりの男として全身全霊をかけて神子を守り、戦おう。

それが私の意志でもあるのだから…

 

「泰継さ〜ん」

神子が声をかけた。その声に思わず笑みが浮かんだのがわかる。そして、私は答えた。

「今、行く。」

私が行くのを待っていてくれる神子…

この神子とめぐり合わせてくれたことを龍神に感謝しよう。

今はただそれだけでよい。

神子といるこの時間、それが今の私のすべてなのだから。

 

 

泰継はキッと顔を上げると、神子のもとへ向かって歩き始めた。

そんな泰継に木々の間から漏れる細い太陽の光が降り注いでいた。

 

 

◇◇◇

 

 

その決戦の後、花梨は京に残ることを選んだ。

その本当の理由は微笑みだけが知っている…

 

 

 

Rui Kannagi『銀の月』
http://www5d.biglobe.ne.jp/~gintuki/

 

[あとがき]

BBSキリ番914を踏んでくださったまじん様に捧げるため書きま

した。まじん様のリクエストは“思いっきりっっ!! シリアスな

胸キュン泰継さんストォリーで読んでて切なくて泣いちゃうレベル”

という難題でしたので、ご希望に添えるものであるかどうかちょっち

不安〜(*_*;)

この後はどうなると思います? ふふふっ、きっとあなたの予想通り

でしょう。

私が「遙か2」で今度は急展開恋愛を狙おうと院側を選んで初プレイ

した時、想う心も信じる心もMAXだったにもかかわらず泰継さんと

恋愛イベント第三段階起こらなかったのですよ〜。こんなに私が思っ

ているのに何で!?って思ったものです。  思い出して(TOT)

最初はどこか選択誤ったのかと思いましたが、後で発売された攻略本

見て、たまたまあの方を連れて出掛けたのが原因だとわかりました。

その時、最終決戦の朝(だよね?)泰継さんが「ひとになった…」と

だけひと言、言いにきたのです。てっきりその後、何かイベントにな

るかと思ったのですが、ただそれだけでした。条件は満たしていたの

で恋愛イベントは起こらなかったけど“人”にはなれたみたいです。

長くなりましたが、今回のお話はその状況をふと思い出して書いてみ

ました。泰継はこの段階では、当然花梨が他の八葉を選んだと思って

います。でも、同じ微笑みでもこぼれるような微笑みを見せるのは、

あなたの前だけ…。花梨が本当に思っているのは…もちろんあなただ

。そうすると本当のエンディングは自ずと…ねっ!

それにしても異様に長いあとがきだ〜(滝汗)

 

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