意地悪く知盛は笑うとゆっくり立ち上がり望美をその腕の中に治める。
「目を逸らすなよ。ちゃんとおれだけを見…」
ふいに言葉が途切れ、望美はベッドにどさりと投げ出された。
「きゃっ何すんのよっ」
抗議して起き上がろうとした瞬間、キィーンという金属音が耳を打つ。
どこからとりだしたのか知盛が太刀で重衡の方天戟を受けていた。
「…ご挨拶だな重衡」
「兄上、寝ぼけるのもたいがいになさいませ。姫君が困っておられましょうに」
力が拮抗しているのか得物は動かない。
やがてにやりと知盛が笑み、重衡もにこりと微笑んだ。
申し合わせたように武器を収める。
「せっかく姫君が作ってくださった汁が冷めてしまいました。さ、お早う」
「やめておいたがいい。おまえの口には合うまいよ」
「何を仰います。姫君が私のために作って下さったとあらば、どんな代物でも私は食してみせますよ」
「ちゃれんじゃーだな。おまえも」
望美にとっては悔しいことにそのカタカナ英語のイヤミをこめた使い方に間違いはない。