神子様のお心

 

この日、私は朝から藤姫ちゃんのお父さんに呼ばれた。
どうやら京に残る事にした私を色々と心配して気を使ってくれたみたい。
その時、藤姫ちゃんのお父さんから効果絶大♪の縁結びの神様の事を教えて貰った。

「ええ〜!?か、必ず効果がある神様!?」

私は、早速すぐに御参りに行く事にした。
そうしたら…私の思いが上手く伝わったら、自分の娘として応援するよって言ってくれて…。
いい人だなあvやっぱり藤姫ちゃんのお父さんだけ有るよv

「えっと〜、誰かに付き合ってもらわなきゃね」

龍神の神子でなくなった今も、やはり無用心だからと外出には必ずお供を付けるように言われている。
確か、女房さんが八葉の誰かが来てるって言ってたっけ。控えの間に行ってみよう。

控えの間に着いてみると驚いた事に元八葉全員が集まっていた。
しかも……なんだか皆ヘンなムードだった。け、喧嘩…じゃないよね。
どうしちゃったの〜?恐いよ;;;外出に付き合って――なんて、切り出しにくい感じ……。

でも、縁結び…お願いして来たいし…!!!よーし!勇気を振り絞るぞ〜っ

「あの〜。御参りに行きたいんですけど…誰か付き合ってくれるかなあ…」

私が全部言い終わらないうちに、全員が「自分が!」と言ってくれた。
その表情が、なんか鬼気迫るものが有るような気がしたのは…きっと私の気のせいよね;;;;
誰かひとりなんて選べるムードじゃなかったので、私は皆で一緒に行く事にした。

「あの〜。神子…先日傷めた足首はいかがですか?」

永泉さんの心配そうな顔で思い出した。
この前怨霊と戦った時、挫いた足首…。
そう言えばまだ長距離を歩くと痛むんだっけ;;;

「もし神子さえよろしかったら……」

永泉さんが今日は牛車に乗って来たので使わせてくれるって言ってくれた。ラッキーv
一度牛車って乗ってみたかったのよね。

外は天気もいいし空気も美味しかった。
ここの所、家の中ばっかりだったからなんとなく心が弾む感じ。
しかも、帝仕様と思われる牛車は、時折京の街中で見かけるものよりずうっと豪華だった。
……こういう時にだけ、永泉さんってすごい!って思ってしまう自分がちょっと悲しいけど;;;

乗ってみて初めて解った。牛車ってあんまり乗り心地が良くない。
酷く揺れる上に地面の固さがお尻にダイレクトに伝わってくる。
でも、色々と気を使ってくれる永泉さんに申し訳ないので、私は精一杯平気な顔をする事にした。

そう言えば…泰明さんのお師匠様…晴明様も時折牛車に乗ってるっけ。
泰明さんも将来、こんな風にして出かけたりするのかなあ。
一緒に乗っている自分の姿を想像すると思わず顔がニヤニヤしてしまう。

「神子…楽しそうですね」
「え?え、あ、はい。とても素敵です……」

やだ〜私ってば…;;;

その時何処の隙間から入り込んだのか…薄紫色の蝶がふわりと私の肩に止まった。

「うわぁ〜綺麗な蝶」
「本当に。藍白とは珍しい色合いの蝶ですね」
「何時から居たんでしょうね」

私の大好きな色。指に止まらせてそっとキスすると、蝶は楽しそうに私の上を2〜3度舞い、何処かへ飛んで行ってしまった。

牛車は段々と道の悪い所に差し掛かっているみたいだった。
がくんがくんと揺れるたびに天井に頭をぶつけそうになる。
揺れがますます激しくなり、とても耐えられないと思った時。

ガタガタガタンッ

と、車が大きく傾いて私は思いっきり壁に叩き付けられた。
次の瞬間に永泉さんも、同じように私の足の上に叩き付けられた。

ぎゃっっっ
傷めていた足が〜〜〜〜;;;;
もう、今日は歩けないかも…。

顔を顰めて車から這い出し、ふと永泉さんを見ると、永泉さんは涙を流しつつ呆然としていた。
ま、マズイ;;;これは……。

「私など……私など……」
「え、永泉さんの所為じゃ無いってば」

私は必死に慰めたが、永泉さんの気持ちを上向きにさせるには到底及ばなかった。

それから後は、何故か皆とても親切にしてくれた。

鷹通さんは応急処置をしてくれた。とても手際が良くてビックリ!
薬は携帯してるし、何でも知ってるし。ホント、こういう人って一家に一台必要だわ!うん。

友雅さんは……。やっぱり手際よく私を抱き上げて運んでくれた。
ここの所少し太っちゃったし、結構重いはずなのに、ふらつきもしない。わりと力有るんだ。
見直しちゃった。………でも、こう言う事に手際が良いって言うのもね…。

そして天真くんにイノリ君に頼久さんに詩紋君……。

………やっぱり…今日は皆ヘンだ。皆が争うように私を運んでくれるって……。
あの控えの間に居た時からずっと変だと思ってたけど。一体どうしちゃったって言うの〜!?

やけにムキになってるもんだから、押し合いへし合いで友雅さんの手元が怪しくなって来た。
こんな階段の途中でぐらぐら揺れるのはとっても恐いんだけど〜;;;

「ちょっと〜みんな、やめてよ……きゃ!」

ゆらっと空が揺れたような気がした。
と、次の瞬間に私が見たものは、まるでスローモーションの映画のようだった。

イノリ君に押された詩紋君が足を踏み外し、イノリ君と絡まり合うようにしてバランスを崩した。
その二人を助けようと頼久さんが咄嗟に腕を伸ばす。
そこにワンテンポ遅れて同じように二人を助けようとした永泉さんの腕が伸びる。
でも運の悪い事にその腕は、二人を助けに入った頼久さんの背中を押す形になってしまった。
頼久さんの(大きい)身体が落ちながら永泉さんと鷹通さんをも巻き込んで行く。
鷹通さんは慌てて避けようとして天真くんにぶつかった。
よろめいて、落ちていく天真くんは、……その前からずっと友雅さんの袖を握ったままだった……。

グラリ――――ッ

私も落ちる!

友雅さんがバランスを失った時、私は思わず目を瞑った。
が、覚悟していた衝撃は私を襲わず、私の身体はふわっと一瞬宙に浮いた。

え?どうして?

恐る恐る目を開けてみると、私の目の前には翠と琥珀の真っ直ぐな瞳が有った。

「や、やややや泰明さん」
「大丈夫か?神子」
「は、はい…っ」

こんなに近くで泰明さんの顔を見てしまって…自分の顔がみるみる真赤になるのが解る。

「全く…皆、修行が足りぬ」

わ、私もしかして泰明さんにお姫様抱っこされてる〜〜〜っ
う、嬉しいけど…恥かしいかも……。

「神子、しっかり掴まっていないと今度は本当に落ちるぞ」
「は、はいっ」

私は泰明さんの首に両手を回してしっかりと抱きついた。
風に煽られてサラサラの髪の毛が私の頬を撫でて行く。
ずっとこうして居られたらなあ……。

「神子。着いた」

泰明さんはそっと私を境内の前に降ろしてくれた。

「お前の望む事をすると良い」
「あ……はい」

そうだった。私はここに縁結びのお願いをしに来たんだった。
でも泰明さんや他の皆に聞かれるのは嫌だったので、皆に階段の所まで戻っていてくれるようにお願いした。
あそこなら聞こえないよね。

「え〜っとぉ……縁結びの神様。どうぞお願いします。私の思いを叶えてください…」

その時また薄紫色の蝶がひらひらと飛んできて境内の格子の所に止まるのが見えた。
さっきの蝶かな〜???それともこの辺にはああいう色の蝶が多いのかな。

「いつも私を守ってくれた八葉のひとり……安倍泰明さんとどうか結ばれますように」

はぁー。無事にお願いを口に出来た!
私は心を込めてパンパンと2回手を叩いてから皆の居る所に戻った。

あれ…?そう言えばさっき階段の方で何だか大きな音がしたような…?何だったんだろう…。
まあいいや。
帰りは喧嘩にならないように二人ずつ順番に肩を貸して貰って、ゆっくり歩いてお邸に戻る事にした。







その夜――――
私の願いは縁結びの神様によって(かどうかは解らないけど…)早速叶えられた。

「神子…」
「泰明さん?」

私を呼ぶ声に痛む足を庇いつつ部屋の外に出てみると、泰明さんが月明かりの中に立っていた。
真っ直ぐに私を見つめる瞳が、何だか優しかった。

「神子……もっと早くに告げるべきだった。遅くなってしまってすまない」

泰明さんが私の方に歩み寄ってくる。
昼間、私の頬を撫でた髪の毛が今また風になびいていた。
泰明さんは、静かに手を伸ばすと私の足に負担がかからないように手を貸してくれた。
私に触れた泰明さんの手は……とても温かかった。

「ずっと…私と共に居て欲しい」
「あ………」

夢…じゃないよね?
私の心臓がものすごい音をたてていた。
庭で煩いほどに鳴いていた筈の虫の声さえも、何処か遠くから聞こえてくるみたい。
返事…返事しなくちゃ……。

でも、上手く声が出なかった。

代わりにコクンと頷いた私を泰明さんが抱き寄せた。

「お前が愛しい……」
「うん。私も……」

そう答えた私を――――
泰明さんの香りがしっかりと包み込んだ。




          終






by安樹
「月の光」http://homepage2.nifty.com/anje/

 

≪安樹様コメント≫

「その人の名は」の神子様バージョンと言ったら良いのでしょうか。

「その人〜」を書いてみて、私にしてはちょっと甘さが足りない気がしたので、この「神子様のお心」を書いてみました。
これだけでも楽しめるように書いたつもりではあったのですが…やっぱり「その人〜」の補足的な感じになっちゃったかなあ…^^;;;
改めまして…あけましておめでとうございますm(__)m 皆様素敵な初詣をされましたか?(笑)

 

[涙のひと言]

こちらも『月の光』の安樹様のサイトで、年賀状代わりのフリー創作と

して期間限定で配布していたものをいただいて参りました。

『その人の名は』の神子SIDEのお話です。

はい!実はあかねちゃんはあの時、こんなことを考えていたんですね。

泰明さんもさりげ〜にずっとあかねちゃんの動向を探ってるあたり…

そして…ふふふふふっ、泰明さんにお姫様抱っこ+プロポーズですよ!

やっぱりこうでなくっちゃ!!p(≧▽≦)q

もうもう新年からいいものを見せていただきましたわ!!

安樹様、ラブラブの素敵なお話をありがとうございました!

このお話はもう一つのいただき物「その人の名は」と対になっておりま

すので、まだ読んでいらっしゃらない方はぜひぜひそちらも読んでみて

ください♪

 

八葉全員が登場する方のお話も読む?

その人の名は

 

安樹様のサイトへは『リンクのお部屋』からどうぞ

 

 

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