想うが故に・・・ 後編

 

依頼主の元から京へ戻ってきた泰明は、あかねの気を読み始めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」泰明の眉間に皺が寄る。
「北山・・・・急がねば。」泰明は馬を北山へと走らせた。
(あかね・・・・今行くから・・・・)
今にも消えてしまいそうなあかねの気に泰明は不安を覚えていたのだった。



一方あかねは北山の奥にある滝へと向かっていた。
若草色の瞳から止めどもなくこぼれ落ちる涙・・・それを拭おうともせずに、ただ滝壺へ向かうあかね。
(もう・・・疲れちゃった・・・待ってるだけ・・・・・待ってても来てくれない・・・・一人ぼっちは・・・もう)
あかねの足はゆっくりと滝壺の中を進んでいく・・・・。



馬を降りると泰明は全力疾走で北山を登っていく。
(あかね・・・・どこにいる・・・私を一人にするのか・・・)
気ばかり焦り、思うように前に進めない泰明、そのとき気が弾け霧散していくのを感じた。
「あかね!!」
泰明は気が霧散したであろう場所を探り、そちらへと方向を変えた。
北山の奥にある滝へと・・・・・。




思い詰めたあかねは一歩また一歩へと滝壺へと向かっていく・・・。
あかねの身体は腰から肩と水の中へと沈み始めていた、やがて・・・・。
(さよ・・・なら・・・・・泰明・・・さん・・・・)
あかねの身体は青い北山の滝壺へと消えていった。



「あかね!!!」
泰明が滝に着いた時に、すでにあかねの姿はなくかろうじて気が残っていた。
泰明は躊躇せずに滝壺の中へ飛び込んでいく、そしてその目に飛び込んできたのは、沈みゆく
あかねの姿だった。
(逝かせない!!あかね・・・お前は私の・・・・・)
精一杯手を伸ばす泰明に、まるで待っていたかのようにあかねの手が動く。
そして泰明があかねの手を取った瞬間・・・・。



気がつけば泰明はあかねを抱いて、真っ白な世界にいた。
「ここは・・・・一体?」
不思議と恐怖は無かった・・・むしろ温かさに包まれている感じがした。
するとどこからともなく声が聞こえてきた『地の玄武よ・・・・』
「その声は・・・龍神か」泰明は声がしてきた方角へ目を向ける。
『まったく・・・・私は神子に寂しい思いをさせるために、主に返した訳ではないのだぞ。』
龍神の言葉に反論の余地はないという表情を浮かべる泰明。
『神子を返してもらうぞ・・・・地の玄武よ』
「それは出来ぬ!!」龍神の言葉に泰明はあかねの身体をぎゅっと抱き締める。
『神子の淋しさをぬぐえない主に、何が出来るというのだ・・・。』
静かな怒りを込めている龍神の言葉に、泰明は唇を噛む。
「確かに・・・あかねにはいつも待っていてもらった・・・・それは私が・・・完全な人ではなかったから。
あかねの気持ちに気づいてやれなかった・・・・。」
腕の中で気を失っているあかねを、切なげな瞳で見つめる泰明。
「あかね・・・・すなまかった・・・・。」



『泰明さんだけが・・・・悪い訳じゃないよ・・・・』
気を失っているはずのあかねの声が、泰明に聞こえてきた。いや、頭に直接響いてきたと言っていいのかも
しれない。
「あかね?」
『私も・・・我慢ばかりして・・・・泰明さんに気持ち伝えなかったから・・・・人は完全じゃないもの
言葉にして伝えなくちゃ・・・・わからないもの・・・・』
あかねの言葉が泰明の心に染みこんでいく、いつでもこうしてあかねに救われる・・・。
泰明の瞳から涙が落ちる、あかねの頬に・・・。
「あかね・・・・あかね・・・・。」
涙で濡れる泰明の頬に白く小さな手が触れた・・・・あかねの手が。
「泰明・・・・さん。」
泰明の腕の中で微笑むあかね、愛おしさが泰明の胸にこみ上げてくる。
「すまなかった・・・あかねの淋しさに気づかなくて・・・・。」
「もういいの・・・こうして泰明さん・・・・助けに来てくれたから・・・・。」
泰明の胸にすり寄るあかね、泰明の存在をその体温で確認するかのように。
『神子よ・・・よいのか?』二人の様子を黙って見てた龍神が口を開いた。
「はい・・・やっぱり泰明さんと一緒にいたい・・・・泰明さんの体温を傍で感じていたい・・・この先いろんな
事があっても・・・」
『神子が望むのならば・・・・地の玄武よ・・・・心しておけ。また同じようなことがあれば・・・』
「二度も同じ過ちは繰りかえさぬ。あかねと共にあることが私の望みなのだから・・・。」
あかねの思いと泰明の決意に龍神は静かに答えた。
『お前達の思い、確かに受け取った。さあ・・・帰るがよい』
泰明とあかねは真っ白な光に包まれた・・・龍神の最後の言葉を聞きながら。
『幸多かれ・・・神子そして地の玄武よ』





泰明とあかねは元の北山に戻っていた。
「戻ってこられたな・・・あかね。」
「うん・・・くしゅん。」
「いかん、このままでは風邪を引いてしまう。あかね、近くの庵に行くぞ。屋敷まで戻っている時間は
なさそうだ。」
あかねを抱き締め直す泰明、あかねもしっかりと泰明の首に腕を回す。
「はい・・泰明さん。」
「今宵は・・・冷えるかもしれん・・・あかね、良いか?」
泰明のいわんとしていることにあかねは顔を真っ赤に染めていく。
「えっと・・・・(///)・・・いいですよ、泰明さんなら。」
最後の方はかき消えそうな小さな声で呟いたあかねに、泰明は破顔した。
「今まで触れあえなかった分・・・・あかね、愛している。」
真っ赤になっているあかねの頬に口づける泰明、あかねは嬉しそうに微笑む。
「あの・・・優しくしてね?泰明さん。」
泰明に抱きかかえられながら庵に向かうあかねは、可愛らしいお願いをそっと囁いた。





思うが故にすれ違った二人の気持ちは、夜の北山で一つに昇華していった。




asato様『運命の時を越えて』

http://www.fuki.sakura.ne.jp/~sei-lan/index.htm

 

 

≪asato様コメント≫
大変お待たせしましたm(__)mペコ・・涙様
キリリクの続編です。
切なくて最後はハッピー・・・
というかかなり危ないやっすんになってしまいました(^^;;;

[涙のひと言]

asato様のサイトで幸運にも60000HITを踏ん

で頂戴いたしました「想うが故に」の後編です!

ふふふっ、前後編の長いお話をもらってしまうなんて私っ

てばラッキーですvv

間一髪のところで、あかねちゃんを見つけられてよかった

ですね。でも、龍神様は神子であるあかねちゃんをとても

愛していますから危なかったわ。でも、泰明さんは二度と

あかねちゃんを淋しがらせるようなことはないでしょう!

そして、ラストは…泰明さんったら!(//▽//)

もう注文通りらぶらぶですわvv

asato様、素敵なお話をどうもありがとうございまし

た!

 

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