桜風

 

早朝の、まだ少し肌寒いとも感じる空気の中を、桜の香を含んだ風が通り抜けていく。
儚い花びらを空へと舞い上げる様は夢の中の光景ではないのかと錯覚させられる。
そんな中、天真はただじっと佇み空を仰いだ。木々の間からわずかに見える小さい空は透けるように青い。
こんな風に穏やかな気持ちになれる日がくるとは思わなかった。
ただ苛立つことしか出来ずにいた日々。蘭を助けることができなかった苛立ち。
誰かと打ち解けることも、受け入れることももうできないのだと、そう思っていた。
失うことへの恐れしかない。前へ進むことなど忘れていた。
(そんな時、あかねと会ったんだ・・・)
そう、それが変わったのは、あかねに出会ったからに他ならない。
気が付けば傍にいて、その言動に振り回されていた。
知らず知らず手を貸している自分がいた。
「でも悪くないよな」
心地よいと。不思議なほどそう感じてしまう。
ふと、天真はそのあかねが息を切らせて走ってくる姿を目の端に捕らえた。
遠くから天真を見つけて走ってきたのだろう。息を切らせているものの、それでもあかねは楽しそうな笑みを浮かべている。
開口一番、あかねは真剣な顔で天真を見つめたまま尋ねる。
「もう誰かに言われた?」
「何をだよ?」
天真のその様子にあかねはにっこりと笑みを見せた。
「お誕生日おめでとう天真くん。絶対、一番最初に言いたかったんだよ」
心底うれしそうな様子で、だから早起きしたと付け加えるあかねに、天真は口元をほころばせる。
「ああ、サンキュ」
言いながら天真は、あかねの肩にこつんと額を預けた。
「え?て、天真くん?」
慌てるあかねに、天真は静かに告げる。
「ありがとな、あかね。おまえのおかげで俺は変われたんだと思う」
あかねに出会ったおかげで自分は変わった。
こんな風に暖かい気持ちで、素直に自分の心を語ることなど以前の自分にはできなかった。
誰かを信じること、背中を預けられること。それができるようになったのはあかねの存在があればこそだ。
自分の力で何かを成すことと、全てを一人で背負い込むことは違う。
仲間の差し伸べてくれた手をとることと、誰かに頼りきりになることは違う。
それをあかねの行動が自然に気づかせてくれる。
ためらうことなく他人の心の中に飛び込んでくる。
「私、何もしてないよ」
天真の言葉に、あかねは両手を振って答える。
何もしていない。ただ自然体でその場に在ることのできる存在。全てを受け止め吸収し、自分の強さとできる存在。
「いいんだよ、おまえはそのままで」
顔をあげて、天真はあかねの頭を軽く叩いた。
自分を救ってくれたあかねを、今は自分が守りたい。他の誰でもない自分が。
これから続く長い時間も、隣を歩んでいきたい。
辛いときには助けられるように。悲しいときには抱きしめてやれるように。
あかねを幸せにするのは、自分だけであるとそう思うから。
桜の木が風に吹かれてさわさわと揺れる。
潮騒のような、静かな音をたてて――
「京でまた桜が見られるなんて思わなかったね」
桜の木を眺めて、あかねはふと口にした。
言いながら両手を差し出して、桜の花びらを受け止める。
生き物のように手のひらで踊っていた桜は、やがてどこかへ運ばれていく。
「あかね」
天真は静かな声でその名を呼んだ。
振り返るあかねに、天真は首から無造作にペンダントをはずすと、そっと両手にのせた。
「こっちの世界じゃ関係ねぇけど・・・」
天真が一番大事にしているもの、いつも身に付けているもの。渡されたあかねは驚いた様子で天真を見つめた。
「・・・結婚してもいい年なんだろ」
呟くように、早口でそう言った天真は照れているのか、すぐに視線をそらした。
「ええ!?」
肌身はなさず身に付けているものを渡される。
言われて初めてその意味を理解して、あかねは思わず声をあげた。
「・・・」
少し不機嫌にも見える顔のまま、天真はその場を立ち去ろうと踵を返した。
「待って!」
その天真の衣を思わず両手でつかんで、あかねは慌てて引きとめた。
「えっと・・・」
顔を赤くしてうつむいたまま、あかねは小声で言葉を紡いでいく。
「あのね、天真くんとだからこの世界に残りたいって思って、力になりたいって、でも友達だからってことじゃなくて・・・えっと」
言葉がまとまらない様子のあかねに、天真は笑みを見せる。
つたない言葉の中からも、あかねの想いは十分に伝わってきて知らず口元が緩む。
そして天真はそのままぐいっとあかねの手をとって歩き出した。
「わわ、天真くん?」
「いいんだよ、おまえのペースで」
首だけあかねの方を振り返り、笑いながら口にする。
自分達の時間は、自分達だけのもの。だからきっと焦る必要はない。ゆっくりと自分達のペースで何かを見つけていけばいい。
少し驚いた様子を見せていたあかねは、やがて満面の笑みを浮かべる。
「うん」
そして、頷きながら天真の腕に飛びついた。
こうやってずっと並んで歩いていきたい。
同じ目線でいろいろなものを見ていきたい。知っていきたい。
「でもね。天真くんと一緒にいたいって思うのは変わらないよ」
口にして、あかねはほんの一瞬、天真の頬に唇で触れた。
目を見開いて動きを止める天真に、頬を染めうつむきながらも笑顔で告げる。
「一番、大好きな人だから、ね」

SAK様『Aerial beings』

http://amdsak.hp.infoseek.co.jp/

≪SAK様コメント≫

HAPPY BIRTHDAY 天真!!(≧▽≦)
本日4月2日は、私にとっては一年で最も重要な日!!最愛の天真の誕生日です!

話としては、いわゆるプロポーズですねv
誕生日が来ても18歳かぁ・・・(遠い目)と考えていたときに思いつきました。
いえいえ、遠い目をしてはいけませんね(笑)
18歳といえば、日本国憲法じゃ男性が結婚できる歳!?っていう感じで。

そして、一つ大人になるということで、天真の大人っぽい面を意識しながら書きました。
大人っぽい面と、子供っぽい面と両方持ち合わせているのも天真の魅力のひとつかなぁと思います。
例えば、詩紋とかイノリとかといるときには、お兄ちゃん気質みたいなのが出ている気がします。
逆に友雅さんの場合は、からかわれて切れちゃったり♪
あー、もうあの勢いのある切れっぷりは大好きですねvv
某恋愛イベント三段階目の「あったまきた!」ってセリフが好きだったりします(笑)
ああ、これぞ天真!友雅さんありがとう〜〜って(笑)

・・・あれ?作品解説していたはずなのに・・・?

[涙のひと言]

SAK様が天真くんのBirthday企画として期間限定

でフリー配布していらしゃったものを頂戴してまい

りました。

さすが地の青龍神子のSAK様! もう天真小説を

書かせたら、右に出るものはおりません!

桜の季節に誕生日…っていうのはホントいいですよ

ね〜

いつもはいっぱいいっぱいでちょっと子どもっぽ

見える天真くんですが、今日の天真くんはちょっと

違います。あかねちゃんのおかげで変われた自分…

それをそのまま相手に伝えられるようになった今の

自分…天真くんの心の成長が見てとれます。

そして、あかねちゃんへのプロポーズ! そのプロ

ポーズの仕方がまたいかにも天真くんらしくてよい

ですね。
あかねちゃんもめちゃめちゃかわいいです〜vv

一番最初にお誕生日おめでとうと言いたかったとい

うだけでもかわいいのに最後の一言なんて…(^。^)

もう天真くんはあかねちゃんがかわいくてかわいく

て仕方ないでしょうね。このあと天真くんがあかね

ちゃんを思いっきり抱きしめたこと請け合い!?
本当に天真くんにとって、最高のお誕生日になった

んじゃないでしょうか?
SAK様、素敵なお話をどうもありがとうございま

した!

 

 

SAK様のサイトへは『リンクのお部屋』からどうぞ

 

 

 

戻る