四本のロウソク

 

 

「なんだ!? これは。」

部屋に入るなり、妙なものが目に飛び込んで来て、泰明は思わず声を発した

 

お膳の上にあるものは…

巨大な餅のかたまりが何段にも積み重ねられたもの。

そして、その上には何やら果物がいくつか乗っている。

餅の間にも果物らしきものが見える。

そこまでは何とかわかるものの

何よりも解せぬのはその上に乗っている四本のろうそく…

 

「新種の呪いか何かか?」

あかねは笑いながら言った。

「やだーっ、呪いだなんて。今日は泰明さんの誕生日でしょ?

 だからバースディ・ケーキですよ。」

「ばーすでぃ・けーき? ばーすでぃ・けーきとはいったい何だ?」

「本当はスポンジケーキに生クリームたっぷりつけて作るんですけど、

 この世界にはないし…似てるもので代用しちゃいました!」

泰明は首を傾げながら言った。

「すぽんじけーき? なまくりーむ? ますますわからん。

 それにこの面妖なろうそくはいったい…」

あかねはフフッと笑った。

「私たちの世界では年の数だけロウソクを立てて、主役の人、

 つまり今日誕生日の人がそのロウソクの火をフゥーッと吹き消して

 お祝いするんです。」

泰明は怪訝な顔をした。

「年の数? ろうそくは4本しかないようだが…」

「だって、泰明さんの本当の年は4才でしょ? だから4本…」

「私は23だ!!」

あかねは急に大声をあげた泰明にびっくりした。

「でも…」

泰明はプイッと横を向くと、小さな声でぶつぶつとつぶやいた。

「たったの四つでは、あかねとつりあわないではないか。」

 

−− すねちゃった。

   こういう泰明さんもかわゆいのだけど…主役をいじけさせちゃ〜ね。

 

「はい、はい、わかりました。じゃ、こうしましょう。」

あかねはそう言うと、1本のロウソクを手に取り、それに紅でキレイに絵を描き始めた。

 

−− 確か“はーと”とか言うのだったな。あの絵柄は…

 

泰明は横目でチラッチラッとあかねの描いているものに目をやった。

 

「できた!」

そう言うとあかねは絵の描かれたロウソクを泰明の前に差し出した。

「このハートを描いたロウソクは1本で20才。そして、他の白いロウソクは3本で3才…と。

 ね、これで23才! いいでしょ?」

 

泰明はあかねのその無邪気な行動があまりにもかわいかったので、思わず顔がほころんだ。

「なんだかうまくまるめこまれたような気がするが…」

「いいえ。私たちの世界でもこんなふうにすることはあるんです。

 そうじゃないと70才のおばあちゃんなんてケーキが穴だらけになっちゃうでしょう?

 だ・か・ら これは正しいんです!!」

あかねのすさまじい勢いに押され、

「み…神子がそう言うなら…」

思わず昔の呼び名が出てしまう。

 

あかねはそれを聞いてニコッと笑って

「じゃあ、パーティーを始めましょう!」

と言った。

「ぱーてぃー? 今日はわからない言葉ばかりだ。」

「お祝いの宴のことですよ。では、行きます。」

そう大声で言うとあかねは明るく元気な声で歌い出した。

 

Happy Birthday to you

 

−− 異世界の歌だな

と泰明は思った。

−− だが、何と明るく心地よい旋律だ。まるであかね自身のようだ。

 

Happy Birthday Dear 泰明さん

Happy Birthday to you

 

歌い終わるとあかねは泰明に言った。

「じゃ、ロウソクを消してください。」

「ああ、おまえの言う通りにしよう。」

泰明がロウソクを吹き消そうとするとあかねがそれを止めた。

「あっ、待って!」

「何だ?」

「あのね、消す前に目をつぶってお願いをして。」

「お願い?」

「そう、そういう決まり。」

「………わかった。」

泰明は素直に従った。

「あかねがいつまでも私のそばにいてくれるように。私を愛していてくれるように!」

「泰明さん…」

それを聞いて、あかねは思わずボーッとなった。

 

「それでは、消すぞ。」

泰明は一息で4本のロウソクを吹き消した。

するとあかねはパチパチパチと拍手をしながら、

「泰明さん、お誕生日おめでとう!!」

と叫んだ。

そのあかねを見て嬉しさがこみあげて来た泰明だが、

ふとお膳の上を見ると例のものが目に入った。

 

「あかね…」

「はい?」

「で、これを食すのか?」

「ええ、ふたりで。」

「………そうか。」

あかねは一切れ切って、ニコニコしながらそれを泰明に差し出した。

泰明は無言でそれを受け取ると、ひと口食べてみた。

見た目とは違い、それは非常に美味で、みるみる口の中に果物の甘酸っぱさと

餡の甘さが広がって行った。

それに餡の中には何か入っている。くるみ?

 

「あかね、これは?」

あかねは自慢げに答えた。

「ふふっ。私たちの世界の月餅というお菓子を思い出して、中に栗とかくるみとか

 いっぱい入れてみたんです。あっ、ごまのペーストも入ってるんですよ。」

泰明は今までに味わったことのないその味とそれを作りながら無意識に込められた

あかねのあたたかい気を感じた。

そして、もくもくとそれを口に運び続けた。

「どうですか、泰明さん? もしかして、おいしくないんですか?」

黙ってしまった泰明の目を心配そうに覗き込みながらあかねはたずねた。

その問いに泰明は

「いや。今まで食したどの食べ物よりも美味だ。」

と笑みを浮かべて答えた。

「よかった。」

その言葉にあかねは極上の笑みを見せた。

 

−− だが、おまえの微笑みの方が、私には何よりもごちそうなのだがな…

泰明は心の中でそう思った。

 

「ありがとう、あかね。こんな誕生日は初めてだ。とても嬉しい。」

「去年はまだこっちの世界に慣れてなくて、たいしたことできなかったから、

 今年はずっと前から準備してたんだ。泰明さんが喜んでくれてよかった。!」

「泰明さん、いつまでもこうしてふたりで誕生日を祝いましょうね。

 来年はロウソクが5本、再来年は6本と…」

「ああ。」

 

泰明はあかねをそっと抱き寄せ、その唇に自分の唇を重ねた。

その口付けはいつもにもまして甘く、その甘さはやがて体中に広がって行った。

 

新婚2年目。まだまだラブラブのふたりであった。

 

 

実はこれには後日談がある。

 

次の日、4分の3は残っていたそのケーキ(?)をあかねはほかの八葉のみんなにおすそわけ

しようと提案したのだが

「あかねが私のために作ってくれたものだ。誰にもやらない。」

と言い、泰明はあかねの心配をよそにひとりですべてたいらげてしまったのである。

 

その結果…

その後、三日間別の意味でふたりだけの時間を過ごすことになったのは言うまでもない。

まあ、それはそれでいいのではないかい?(笑)

 

   

Rui Kannagi『銀の月』
http://www5d.biglobe.ne.jp/~gintuki/

 

 

[あとがき]

2001年の泰明さんのお誕生日にBirthday記念作品として書きました。

だから、ゲームの発売から2年目…すなわち新婚2年目ということで。

う〜ん、やっぱり「ギャグって…」に入れた方がよかったのかな…

なんて思ってしまいますが…。でも一応甘〜いお話だからな。

まっ、いいか。

ちなみにここで出てくるロウソクは「八つ○村」とか映画「陰○師」

に出てくる頭につけている“あれ”のようなものだと思ってください。

普通の大きさのものじゃ、きっとあの驚きはないだろうから。(^o^)

 

 

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