10万打&銀の月4周年 Wアニバーサリー御礼小説

 

なぜ“重衡”は“重衡”でなく“銀”と呼ばれるようになったのか?

 

 

望美は平泉で銀をGETすると、「ちょっと待ってて」と言っていったん消え、どこからかもう一人、敵として戦ったはずの知盛を連れて戻って来た。

そして、「連れ帰ることが出来るのは先着1名のみだ」と強硬に言い張る白龍を神子パワーで何とか強引に説き伏せ、望美は知盛と重衡の二人をともなって元の世界へと帰って来たのである。

白龍のはからいか、望美たち三人と譲の合わせて四人は、京に残ると“自ら申し出た”将臣を一人京に残して(一説によると「将臣くんがいなければあっちの世界に帰る人数の数合わせのつじつまが合うから将臣くんは京へ残ってくれる〜?」という有無を言わせないプレッシャーがあったとかなかったとか…)、三人が京へ召還されたまさにあの日にちゃんと戻って来ることが出来た。

クリスマスとかお正月とかバレンタイン・デーとかホワイト・デーとかこれから楽しい行事がどんどん続くこの時期にこの世界に帰って来れたことを望美がどれほど白龍に感謝したことか!

 

 

そして、今日はクリスマス…

 

そのころ重衡はまだ本名の“重衡”で呼ばれていた…

 

 

*  *  *

 

 

「あっ…神子さ…望美さ〜ん」

重衡は雑踏の中に望美の姿を見つけると嬉しそうに手を振った…だが…

望美の後ろからかったるそうに歩いて来る人物に気づくと途端に眉を寄せた。

「兄上…」

そんな重衡にくったくなく笑いかけながら望美が言った。

「あっ、さっき偶然そこで知盛と会ってv

「偶然?」

訝しげに重衡が聞き返した。

そんな重衡の横に並ぶと知盛は重衡の耳元でそっと囁いた。

「クッ 神子殿と二人っきりでなくて残念だったな。」

「!」

重衡はパッと顔を赤くした。

「どうしたんですか、重衡さん?」

望美は重衡の顔を覗き込むようにして聞いた。

「い…いえ、何でもございません。」

「今日の買い物だけど、知盛も一緒でいいよね?」

「神子様がお望みならば…」

「あーっ! また“神子様”って言った!」

望美は頬をぷぅ〜と膨らませた。

「いつも名前で呼んでって言ってるのに…」

「も…申しわけございません、み…望美さん。」

「うん、それでよし!」

望美は満足そうに微笑んだ。

「じゃあ、行きましょう♪」

望美は二人の腕に自分の腕をからませると元気よくそう言った。

重衡は望美にわからないように小さくため息をついた…

 

 

*  *  *

 

 

「えっと、これで買い残しはないよね?」

メモを見ながらそう言う望美の後ろには両手に持ちきれないぐらいの荷物を抱えた二人の男が控えている。

「知盛も来てくれて本当によかったわ〜♪」

メモとハンドバッグ以外何も手にしていない望美は後ろを振り返るとそう言った。

「俺は…来たことを少し後悔しているが…女の買い物のお供は本当に面倒…だな。」

知盛がボソッと言った。

「えっ? 何か言った?」

あまりにもボソッとした声すぎたため本当に聞き取れなかったのか望美はキョトンとした顔をして聞き返した。

「いや…神子殿のおともが出来て光栄だな…と言ったんだ。」

「ほんと!?」

望美は目を輝かせてそう言うと知盛の首に抱きついて、その頬に軽くキスをした。

「ありがとう。知盛ったらこういうこと嫌いそうだから、てっきり嫌がってると思ってた。」

「ふふっ、こういうのもたまには悪くない。」

そう言いながら知盛は重衡の方をチラッと見た。

案の定、重衡は望美の今の行動を見て、少し固まっている。

それを見て知盛はクックッと笑った。

 

――兄上ばかり…ずるい…

 

「重衡さん…」

望美が重衡の名を呼んだ。

“今度は自分の番だ!”と重衡は内心喜んだのだが…

望美は重衡のところへ辿り着く前に突然パタと足を止めた。

「あーっ!! いっけない!! あれ、買い忘れてた! 二人ともついてきて!」

望美は急に思い出したようにそう叫ぶと、違う方向に一目散に駆け出した。

重衡は大きなため息をつくと、仕方なく望美の後を追った。

隣を歩いている知盛はさも面白そうにクックッと笑っている。

 

――時空を越えてこちらの世界に来たのは私も兄上も同じなのになぜか兄上の方がひいき

  されているような気がする…

 

要領や運がいいと言ったらそれまでなのだが、何かそれ以外でもそう感じてしまうのはなぜだろう? 前にさりげなくお聞きした時神子様は兄上も私も同じぐらい好きだとお答えになったので、条件はまったく同じはずなのだが…

 

「…衡…重衡!」

一人考え込んでいた重衡は自分が呼ばれていることに気づきハッと顔を上げた。

「どうした? 神子殿がお前を呼んでいるぞ?」

「えっ? 神子様が私を?」

「ああ。」

それを聞いて重衡は目を輝かせた。

「み…望美さん、どんなご用でしょうか?」

重衡はすぐさま望美のそばへ駆けつけた。

「ねえ、ちょっとこれ、合わせてみて?」

「えっ?」

「う〜ん、なかなかいいかな?」

そして、今度は知盛に声をかけた。

「知盛!」

「なんだ?」

「知盛もこっち来て!」

「…たるいな…」

「そんなこと言わず、早く早く!」

ゆっくりした足取りで知盛がやって来ると望美は知盛にも同じものを合わせてみた。

「うん、知盛もよく似合う♪」

望美が二人に合わせてみたのはかわいいトナカイとサンタがあしらわれたセーター。重衡が緑色のもので、知盛が赤色の同デザイン色違いのものである。それは一般的常識から考えると子どもや女性ならともかくとてもとても大人の男に似合うとは思えない代物だった。

セーターを持って

「これくださ…」

と言いかけた望美の肩を知盛がつかんだ。

「おい!」

「えっ? なぁに?」

「俺たちにこれを着ろと?」

「うん!」

望美は明るく笑いながら答えた。

「・・・・・」

不機嫌そうな顔をしている知盛を見て、望美は顔を曇らせた。

「え〜っ、ダメかな〜? 似合うと思ったのに…」

望美はうるうる目をして二人を見た。

「うっ…」

その目を見て二人とも一瞬詰まった。

「重衡さんもそう思いますか?」

今度は重衡の方に振った。

「そ…そうですね…」

「せっかく私から二人にプレゼントしようと思ったのに…」

「“プレゼント”…でございますか?」

二人の平家人は京にいたころ還内府こと有川将臣にたくさんカタカナ言葉を習っていた(?)ので、こういう言葉には聡かった。

「神子様が私たちに?」

「うん。」

望美はますます涙目になりながら頷いた。そして

「あっ、また神子様って言った…」

と付け足した。

「申しわけございません。」

重衡はすぐにそう謝った。

「で、望美さんが私たちにそのセーターをプレゼントしてくださるのですか?」

「そうだよ。クリスマスプレゼントに二人に何かあげたいと思って…」

重衡は望美に向かってにこっと微笑んだ。

「そういうことでしたら、喜んで頂戴いたします。」

「えっ、ほんと!?」

それを聞いて望美は一転目を輝かせた。

「重衡!」

知盛が驚いた目で重衡のことを見た。

「はい。み…望美さんが私にくださるというのでしたら、喜んで。」

「ありがとう、重衡さん!」

望美はそう言うと嬉しそうに重衡に抱きついた。

重衡は心の中で

 

――やった!

 

と思った。

望美は今度は知盛の方を見た。

「知盛は?」

それ以外の言葉は発しなかったが、その目には物言わぬ強制力が込められていた。

知盛はふぅ〜と大きく息を吐いた。

「好きにするんだな…」

知盛はそう言うと後ろを向いてしまった。

「うん、ありがとう、知盛v

そう言うと望美は嬉しそうに2枚のセーターを持って、レジに向かった。

 

知盛は重衡のそばまで歩いて来ると小声で言った。

「お前は本当にあの“セーター”を着るんだな?」

「えっ…? は…はい…」

「お前が言ったんだ。責任はとれよ。」

それだけ言って、自分のそばから離れて行く知盛を見送ると重衡は心の中で思った。

 

――もしかして、私ははやまったことをしたのだろうか?

 

いくら心の中でそう思っても後の祭りである。

 

 

*  *  *

 

 

買い物も無事終わり、三人は望美の家のそばの公園にさしかかった。

その時、空から白いものがひらひら落ちて来た。

「わぁ〜、雪… 初雪だ!」

望美は嬉しそうに空を見上げた。

「はい。確かに綺麗でございますね。いつか平泉でみ…望美さんと一緒に見たあの雪のように…」

そう言いながら重衡も空を見上げた。

「ふん、こんなところで立ち止まっていると風邪をひくぞ。」

「うん、もう、知盛ったら情緒がないんだから〜」

望美は不満そうにそう言ったが、さりげなく自分の首にかけられたマフラーを見て、びっくりした。

「あ…ありがとう。」

「宴の前だ。こんなところで風邪をひかれては困るから…な。」

「宴? ああ、クリスマスパーティーのこと? 何か知盛が“宴”と言うと別のこと想像しちゃう。」

望美はくすくすっと笑った。

何だかいい雰囲気になって来た二人の間に強引に重衡が割り込んだ。

「み…望美さん。大分降り方も激しくなってまいりました。そろそろ歩き始めませんか?」

「うん、そうだね。」

そう言ってから望美は数メートル駆けて行くと、そこでクルッと回れ右して後ろを振り返り、二人に向かって笑顔を見せた。

「知盛、重衡さん、今日は買い出しにつきあってくれて、本当にありがとう。すごく助かった。」

「いえ…」

と言い掛けて、重衡は何か違和感を感じた。

 

――知盛…重衡さん?

そうか! 今までずっと私が感じていたことの原因はこれだったのか!

 

「神子様!」

重衡は叫んだ。

「だから…神子さ…」

「今はそういうことはどうでもいいです!」

重衡の勢いに望美は途中で言葉を切った。

「なぜ兄上は呼び捨てで呼んで、私は“さん”付で呼ばれるのですか!?」

「えっ? えっ?」

急にそんなことを言われたって、今まで無意識にずっとそう呼んで来たので、自分でもなぜかなんてわからない。

「だって、知盛は知盛でしょ? それでもって重衡さんは重衡さんだし…」

望美はしどろもどろしながらそう言った。

重衡は苦渋に満ちた顔をした。

「私が“銀さん”から“銀”と呼ばれるまでに神子様はあれだけ抵抗なされたのになぜ兄上は最初から…」

「クッ それは神子殿が俺をそれだけ思っているということだ。」

追い討ちをかけるように知盛が言った。

「!」

「知盛!」

そんな知盛を望美がたしなめた。

「神子様」

もう訂正することなく、そう名を呼ばれると望美はすんなり重衡の方を見た。

「私のことも“重衡”と呼んでください。」

「えっ? でも…」

望美はちょっととまどった。

「だってもう私の頭の中で“重衡さん”で定着しちゃってるし、今さら呼び捨てなんかに出来ないよ。」

重衡はいつも自分には呼び方を変えろとうるさく言うのに…とちょこっと心の中で矛盾を感じたがそれを口に出しては言わなかった。

それならば、私にも最終手段がある。

「では…」

重衡はボソッと言った。

「・・・・・“銀”とお呼びください…」

「えっ?」

「“銀”とお呼びください!」

今度は顔をキッと上げて、望美にも聞こえるぐらいの大声で言った。

「えっ…でも…」

「“銀”なら神子様も呼びなれていらっしゃいますし、何も問題はございませんよね?」

「そうだけど…」

「神子様が“銀”と呼んでくださらなかったら私も今後一切“望美さん”とは呼びません。これからもずっと“神子様”とお呼びいたします!」

重衡なりの脅迫だった。

 

――クッ こんな馬鹿らしい脅迫にあの神子殿が乗るわけがない。

 

知盛は心の中でそう思ったのだが…

望美は重衡の言葉を聞いて眉間に皺を寄せて何やら考え込んでいる。

「う〜ん…」

 

――おいおい、まじ…か!?

 

知盛はそんな望美の様子を見て驚いた。

 

望美はしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると重衡に言った。

「うん、わかった。じゃあ、これからは“銀”と呼ぶよ。だから、銀も私のことちゃんと“望美”って呼んでね?」

「はい、ありがとうございます、望美さん!」

重衡…改め銀は嬉しそうに微笑んだ。

 

――呼び名が変わったぐらいでは何も変わらぬと思うが…な。

 

知盛は苦笑いした。

 

その時、何気なく時計に目をやった望美がその文字盤を見て叫んだ。

「いっけなーい! もうこんな時間だ!! 譲くんのごちそう冷めちゃう! 知盛、銀、帰るよ!」

「はいv

“銀”と呼ばれて銀は満面の笑みを浮かべて望美の後ろにしたがった。

その嬉しそうな弟の様子を見て知盛は心の中で

 

――まあ、たまにはいいか… 今日は“クリスマス・イヴ”とかいうやつだからな…

 

そうつぶやくとクッと一つ小さく笑った。そして、二人の後に続いた。

 

降り続ける雪がやがてそんな三人の後ろ姿をかき消して行った。

 

 

メリー・クリスマス…

 

 

 

 

Rui Kannagi『銀の月』
http://www5d.biglobe.ne.jp/~gintuki/

 

[あとがき]

当サイトの10万ヒット&サイト開設4周年の御礼

作品として書き下ろした作品です。

と同時に当サイトとしては本当に久々にUPした

小説でもあったりします。このところ創作関係は

同人誌優先で活動していたので、本当に長いこと

新作を上げてなかったですからね。(^-^ゞ

さらに言えば『十六夜記』作品としてはこれがサ

イトに上げた最初の作品…ということになります

ね。(*^.^*)

 

今まで同人誌に書いた『十六夜記』作品はみんな

ド・シリアスばかりでしたが、こちらでは初めて

ちょっと軽めのギャグ作品を書いてみました。

季節に合わせてクリスマスものです♪ どちらか

というとこの作品のタッチの方が私らしいかな?

泰明さんと泰継さんもそうですが、何かついつい

弟をいじめちゃう傾向にあるようで…まあそのへ

んは愛情があればこそと温かい目で見てやってく

ださいませ。

 

ここで出て来た呼び捨てについてですが、あ

る日私自身が「あれ?そういえば何で神子ちゃん

は知盛を最初から呼び捨てにしてたんだろう?」

という素朴な疑問から始まりました。よく考えて

みたら何のことはない、知盛だけじゃなくて清盛

にしろ惟盛にしろとにかく敵キャラに関しては皆

呼び捨てにしていたんですけどね。(^-^ゞ

でも、そんなことをまったく知らない重衡は自分

だって同じ平家の一員なのに自分一人だけ何で?

と思ったかもしれません(笑)

神子ちゃんは今のところまだ二人とも同じぐらい

好きで、どちらも選んでおりません。最終的にど

ちらを選ぶかはこれからの二人の働きかけ次第で

すね、きっと!

久々の創作物。少しでも楽しんでいただけたら嬉

しいです。

 

この作品は2006年2月末日までフリーとして

配布しておりました。

 

 

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