忍ぶ恋

 

ねえ、知ってますか?

私がこんなにあなたを好きだってこと。



ねえ、気付いてくれてますか?

あなたのその微笑みに、私が一喜一憂してるってこと。



いつもあなたを・・・・・目で追ってる私がいます・・・・・・・・・・・












「悪いけど、キャラじゃないんだよな〜。」

「キャラ?」

澄み渡った朝の空を見上げ、腕組みをしたままそう言う天真をあかねは不思議そうに見た。

「忍ぶ恋・・・っての?俺の持ってるお前のキャラじゃ・・・」

「なんでよ!」

言葉途中で、あかねはぷぅっと頬を膨らませながら、天真の唇を力いっぱい指で抓る。

「いてっ!!」

思わず顔を逸らし抓られた唇を擦りながら天真は恨めしそうにあかねを見た。
睨みつめるあかねに、上半身を引きながらも、天真は言葉を続けた。

「だってよ、あいつの周りってキレ〜な姉ちゃんばっかなんだろ。あいつも目が肥えて・・・」

「もう!天真くん、うるさい!」

怒ったように背を向けたあかねに、天真は肩を竦める。
天真の言ってることはわかっている。それが事実だということも。彼の周りには綺麗な大人の女性ばかりで、そんな人たちと気軽な恋愛を楽しんでいることも。
でも、それでも止める事の出来ない想いというものがある。わかっていても止められない想い。
16歳で、見た目も考え方も子供で、容姿だって敵うはずがない。それも全部わかっていても、この気持ちは止めることが出来ないのだ。

背を向けたまま俯くあかねに、天真は軽く息を吐いた。

「まあ、”隣の芝生は青く見える”って言うだろ。」

そんなことを言い出した天真を、あかねは怪訝そうな視線でゆっくりと振り返る。

「日頃、キレ〜な姉ちゃんばっか相手にしてたら、お前みたいなのがよく感じることもあるんじゃねぇの?たまには色の違うやつが良く見えるんだよ。」

「天真くん、”隣の芝生・・・”ってやつはさ、人のものが良く見えるって意味だよ。」

そんなあかねの言葉に、天真は軽く2度ほど咳払いをした。

「まあ・・・どっちでもいいんだよ。とにかく、毎日ステーキばっか食ってると、たまにはカレーも食べたくなるだろ。」

わかりやすいのかわかりにくいのか、微妙なところの天真の意見に、あかねはため息をつく。
でも、こうやって励ましてくれるそんな天真の気持ちがありがたかった。

「そうだよね。」

にっこりと微笑んでそう答えるあかねに、天真はほっとしたかのように表情を明るくさせる。

「そうだろ、な。」

そんな天真が可笑しくて、あかねはつい噴出してしまった。

「おや、楽しそうだね。」

渡殿から聞こえてくるその声に、あかねは視線を移す。
そして、そこには天真曰く、あかねの”忍ぶ恋”の相手、友雅の姿があった。
友雅から微かに香る侍従の香が、風に乗りあかねの鼻腔を擽る。最初は『呉服屋さんの匂いだ・・・』などと思ってしまっていたこの香りも、今では心地よいものに感じてしまう。
艶やかな笑みを浮かべながら御簾を軽く捲り部屋の中へ足を踏み入れる友雅を、あかねは嬉しそうに微笑みながら見つめた。

「おはようございます。友雅さん。」

そんなあかねを天真はチラリと見、そして勢いをつけて腰を上げる。

「んじゃ、俺、ちょっと頼久んとこ行ってくるからよ。」

「え?そうなの?」

気を利かせた天真の行動を、何も気付いてない風のあかねに、天真は苦笑を漏らしながら見下ろした。
鈍くて、さらに天真に言わせると天然さえも入っているあかねは、実際見ていて飽きない。

「そうなんだよ。」

天真はそう言うと、チラッと友雅を振り返り、そのまま部屋を後にした。




「君達は本当に仲が良いね。」

微笑みながら友雅はあかねのもとへと歩み寄る。
春爛漫のこの季節、素足に感じる冷たい木の床の感触が心地よい。円座の上へと腰を降ろし、友雅は再びあかねに優しく微笑んだ。





そんな彼の微笑みに、一喜一憂させられて・・・・・・・・・





「いや・・、仲がいいって言うか・・・・」

友雅の微笑みを直視することが出来ず、あかねはつい視線を泳がせる。

「そういえば、神子殿は”忍ぶ恋”をされているのかい?」

「何でそれを!!」

驚きのあまり、声が裏返るあかねに、友雅は珍しく声を上げて笑った。
しかし、当のあかねとしては、笑い事ではない。

「実は先程、神子殿と天真が話しているのが聞こえてね。立ち聞きするつもりはなかったんだけど、ついつい声を掛けそびれてしまったんだよ。」

顔が赤く染まっていくことが鏡などを見ずともわかる。
微笑みながら見つめる友雅の視線を感じながらも、すでにもう視線を合わすことさえ出来ない。

「いや・・あの・・・なんて言うか・・・・・」

何度も何度も瞬きをして視線を泳がせ、すでに何と言っていいのかその言葉さえも見つからない。いや、別に友雅に自分のこととは気付かれてはないのだから・・・と必死に自分に言い聞かせながら、話題を変える言葉を探す。

「うらやましいね。」

「は?」

友雅のその言葉に、あかねは不思議そうに顔を上げた。

「神子殿にそんな風に思われてる男がうらやましいと言ったんだよ。」

口元に笑みを湛えてそう言う友雅をあかねは不思議そうに見つめ・・・・・

「・・・・・友雅さんも、やっぱりたまにはカレー・・・なんですか?」

「かれー?」

聞き慣れない言葉に、不思議そうに聞き返す友雅に、あかねは慌てて首を振った。
京の世界に、カレーライスという食べ物があるはずがない。なんだか馬鹿馬鹿しい質問をしてしまった自分にあかねは慌ててしまう。

「ううん、何でもないです。」

落ち着きを取り戻そうと大きく深呼吸するあかねを、友雅は目を細めながら見つめた。

「本当に、君といると楽しいね。私がこんなことを思うのは初めてのことだよ。」

「本当・・・ですか?」

友雅の言葉に、あかねは恐る恐る問いかける。
女性を喜ばせるような言葉を言ったり、楽しませることが友雅は得意だとよく人から聞く。嘘をついてると疑うつもりはないが、ついそれは本心かと不安になってしまったり・・・・・・・

「おや、神子殿は私の言うことを信じてはくれないのかな?君に嘘など言ったことがあるかい?」

「いや・・・そうじゃないけど・・・・・」

再び視線を逸らし、俯くあかねに友雅は優しく微笑んだ。

「本当だよ。」





そんな彼の言葉が、嬉しくて・・・・・・・・・・





ねえ、知ってますか?

私がこんなにあなたを好きだってこと。



ねえ、気付いてくれてますか?

あなたのその微笑みに、私が一喜一憂してるってこと。



いつもあなたを・・・・・目で追ってる私がいます・・・・・・・・・・・



いつも、気付けば・・・・・・・あなたの姿を探してる・・・・・・・・・・

■□ 終 □■

 

ひっちゃん様
Angel Heart:http://hiro.st/angel/

 

[涙のひと言]

こちらの作品もひっちゃん様が“10万HITお礼フリー創作”

としてUPしていたものをいただいてまいりました。本当はこち

らの方が第1作です。

当初は泰明さんのものだけをいただいて来ようかなと思っていた

のですが、まだ恋人未満の初々しさがとても気に入っていただい

てきちゃいました。

友雅さん相手だとたいへんだろうけど頑張って!と思わずあかね

ちゃんを応援したくなっちゃう作品です。

ひっちゃん様素敵な創作をありがとうございました。

 

ひっちゃん様のサイトへは『リンクのお部屋』からどうぞ

 

戻る