ストーカーな泰明さん

 

 

今日は姿の見えない頼久さんを追って、墨染めに来ていた。やっと見つけた頼久さんは、

ここが頼久さんのお兄さんが亡くなった場所であること、そして、そのお兄さんが亡く

なった時の様子と最期の言葉を私に話してくれた。それを思い出すことができたのは

私のおかげだって頼久さんは言った。初めて見る満面の笑顔…

その笑顔を見た時、思わず私の胸は高鳴った。

「頼久さん…」

「神子殿…」

 

その時だった。そんな私の目の前に一匹の蛇がニューッと顔を出した。

「ウギャ〜ッ!!」

私は思わず、妙な悲鳴をあげてしまった。

するとその蛇から聞き覚えのある声が発せられたのだ。

「神子、気が乱れている。大事無いか?」

「えっ!? や…やすあきさん!?」

私は思わずすっとんきょうな声で叫んでしまった。

「ど…どうしてここに!?」

「神子の気が著しく乱れたので気を飛ばして来てみたのだ。問題ないか、神子?」

「はぁ〜、問題ないですけど…」

「そうか、それはよかった。それでは、失礼する。」

そう言葉を残すと蛇は地面を這ってどこかへ行ってしまった。

 

その様子を呆然と見ていた頼久はコホンと一つ咳払いをすると

「……戻りましょうか、神子殿」

と一言。

「……そうですね。」

さっきまでの甘〜い雰囲気はどこへやら…

いっぺんにどこかに吹き飛んでしまった。

 

 

そう言えば、数日前にも同じようなことがあった気がする。

あれは、友雅さんに誘われて、随心院に行った時のこと。

百夜通いの悲恋の話をして…

そして…何とあの友雅さんが、私のことを愛しいって言ってくれて…

無論私の胸は早鐘を打つように高鳴った。

 

その時、ふいに私と友雅さんの間を一羽の鳥が飛びぬけた。

もう辺りは暗いというのにである。

「えっ!?」

鳥はふたりの回りを一周すると私の肩に舞い降りた。

「神子、気が乱れている。何かあったのか?」

「その声は…やっ…泰明さん!?」

「そうだ。私だ。どうした?神子。」

「い…いえ、何でもないです。」

「そうか、問題ないのだな。それでは、私は失礼する。」

そう言うとその鳥はどこへともなく飛び去って行った。

 

そして残された友雅さんと私の間には…ひたすらしらけたムードが漂っていた。

「…神子殿」

「…はい。」

「…帰ろうか。」

「…そうですね。」

その日もその後、ふたりとも一言も話さず、家路についたのであった。

 

 

翌日、玄武の解放に向けて呪詛を浄化するため、泰明と散策に出掛けた時、

私は思い切って聞いてみた。

「泰明さん…あれって…もしかして、わざとやってるんですか?」

しかし、私の問いかけに泰明はきょとんとして首を傾げた。

――か…かわいい…でも…

「“あれ”とは、何のことだ?」

泰明は逆に私に聞き返してきた。

「ほら、鳥になったり蛇になったりして、私のところに気を飛ばして来たことですよ。」

「ああ。」

と泰明は合点が行ったのか、うなずくと答えた。

「大事な玄武の解放の前に神子に何かあったらたいへんだ。常に神子の気に心を配り、

 神子を守ること。それが、八葉としての私の務めだ。何か問題あるのか?」

そう真顔で言い終わると、ニコッと必殺の満面の笑顔を私に向けた。

 

「ウッ」

と私は思わずつまってしまった。

 

――わざとやってる…こ…これはきっとわざとに違いない。

 

私はその時、そう思ったのだが、泰明はそのあとも平然とした顔で、子猫のような

つぶらな瞳で私を見つめている。その視線があまりにも真っ直ぐなものだから…

 

――わざと…じゃないのかな? 本当に八葉として私を守るため?

 

なおも私の顔をじっと見続けている泰明を見ているとますます頭が混乱して来た。

 

――わざと? それとも本当に守るため? ど…どっち何だろう?

  あ〜ん、わかんないよ〜

 

 

そして、その後もやっぱり神楽岡、松尾大社、伏見稲荷…と

ある時はうさぎ、ある時は狸、そしてある時は狐となって要所要所で泰明は現れた。

 

いつしか、次は何で来るのかな? と密かに心待ちにしている自分に気がついた。

――すっかり彼の術にはまっちゃったのかな?

そう思ったけど、

――思い出してみれば、誰よりも早くラブラブイベントを迎えたのは彼だったんだもんね。

  浮気しちゃって、ゴメンネ、泰明さん。

 

あかねは月にむかってそっとそうささやいた…

 

 

と言いつつも、次の日、いそいそと鷹通と一緒に上賀茂神社へ向かって歩いて行くあかねの姿が

そこにはあった。

 

Rui Kannagi『銀の月』
http://www5d.biglobe.ne.jp/~gintuki/

  

[あとがき]

すみません。これまたすごい駄文になっちゃいました。(*_*;)

コミックス3巻の“ねずみになって来てくれた泰明さん”ネタで

思いつきました。赤い花の屏風を見て、アクラムを思い浮かべた

だけでああだったら、恋愛イベントではさぞかし気が乱れてるん

じゃないかと思いまして…。

本当は4コマ漫画で描きたかったのですが、画力がないもんで。

しかし、このイメージを文章化するのはやっぱり無謀だったかも。

でも、せっかく書いたので載せちゃいます。

おつきあいくださってありがとうございます。

 

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