スタンプラリーの旅路 1日目 前編

 

今日はいよいよ京へ旅立つ日。我が神子がそろそろ出掛けようとしていたところ

神子の母上がテレビを見て言った。

「中央線、高尾から東京まで止まってるってよ。」

「えっ? ホントに!?」

「きっと各駅の方も止まってると思うよ。」

我が神子はJRを使って行くつもりであったので、慌てた。東京駅へは地下鉄で

行くこともできるのだが、その方が時間がかかる。すぐに家を出なければ…

今回とってもらった切符は普通の切符とは違って、指定の電車に乗れなかった時

は、一切振り替えができないという特別のもの。だから、出発時間に間に合わな

かったらたいへんなことになる。

我が神子は急いで旅行鞄を手にすると駅へと向かった…

 

我が神子が待ち合わせ場所である“東京駅新幹線南のりかえ口”に着いたのは

待ち合わせ時間ジャストの午前6時50分!

「はぁ〜、遅れるかと思った。」

すでに待ち合わせ場所に到着していた神子ミズキにそう言うと、二人はホームへ

と向かった…

 

あまりにも急に京都行きが決まったがためにまだ散策ルートを決めていなかった

二人の神子は行きの新幹線の中で『京 旅の手帳』を片手に回る箇所を決める。

今回行くところはもちろんまだスタンプを押していないところとそれに加えて押

し直しをしたいところ、すなわち12月のプレミアムツアー1でのみ行ったとこ

ろである。「ぜひ押し直しをしたい」という神子ミズキのたっての希望で、それ

も今回のルートに加えたのである。

二人で決めたのは

1日目が

  伏見稲荷⇒清水寺⇒大豊神社⇒若王子神社⇒下鴨神社⇒糺の森⇒

  上賀茂神社⇒神泉苑

そして、2日目が

  神護寺⇒松尾大社…そして行き損ねたところ

というものであった。

 

午前9時37分。京都駅へ着くと二人の神子は取りあえず荷物を預けにホテルへ

向かうことになった。そして、迷わず八条口へ…

まだ10時前なので、店はほとんど開いておらず、シャッターが閉まっている商

店街の中を通って八条口へと向かった。

「あれっ? 京都タワーないね〜」

宿泊予定の京都第3タワーホテルは名前の通り京都タワーのすぐそば。

「いやだ! 反対側だよ。いつもの癖でついこっち側に…」

二人の神子は顔を見合わせて苦笑した。

思えば、プレミアムツアー1もプレミアムツアー3も集合場所は八条口。

ゆえに二人の神子は無意識にこちら側に足を運んでしまったのである。

 

――神子〜 おまえときたら、もう…本当に思慮が足りぬ…

 

二人の神子は間違いに気づき、慌てて反対側へ。するとちゃんと京都タワーが目

の前に。こちら側の方がいかにもメインという感じである。

 

地図通り進むとすぐにホテルに着き、フロントへ。

ツアーで宿泊した京都国際ホテルに比べるとはるかにこじんまりとしているが、

かえって個人旅行にはふさわしいかもしれぬ。

神子たちは荷物だけ預けるつもりだったが、一部屋だけもう掃除も終わっている

部屋があるということで、幸いにもすぐに部屋に入ることができた。

 

旅行鞄を置き、散策に必要なものだけをバッグにしまうと二人の神子はフロント

に鍵を預け、最初の訪問地へと向かった。

 

 

 

伏見稲荷

 

最初の訪問地の伏見稲荷へはJR奈良線を使うことに。すでに新幹線の中でも盛

んに咳をしていた我が神子を気遣い、ご友人神子が飲み物を買うことを勧める。

そして我が神子は奈良駅のホームで500mlのペットボトルを1本買う。

ちなみにここの自動販売機には○ろ茶はなかったので、間違って買ってしまうこ

とはなかったぞ。(笑)

 

JR稲荷駅に着いて、改札を出ようとすると目の前に多数のきつねのポスターが…

「わあ、かわいい〜!!」

我が神子がそう言った。それは鳥居と拝んでいるポーズのきつねがデザインされ

ているもの。それがハタハタと何枚もはためいていたので、我が神子はとっても

気に入ったようである。

 

これがそのきつねのポスターだ。写真ではちょっと分かりにくいが…

この反対側の面にはこれがたくさん貼ってあった。

 

駅から伏見稲荷へ向かう。伏見稲荷は本当に駅の近くで、すぐに着いた。我が神

子とご友人神子は入口の大鳥居を写真に収めようとしたが、鳥居の下から次から

次へと車が出て来てなかなか撮ることができない。

「車が入っちゃうとな〜」

神子は嘆いていたが、仕方なくシャッターを押す。

これがやがて我が神子の創作小説「願い橋」に登場するきっかけとなった光景で

ある。

 

 

だが、やはり車抜きの写真が撮りたいということで再びカメラを構えたまま待つ。

待つことしばらく。やっと車の列が途切れたのでようやく車が入らない写真を撮

ることができた。

 

大鳥居をくぐって順路にしたがい、本堂らしきところへと進む。その景色には違

和感があった。伏見稲荷は確かプレミアムツアー1で来たはずなのだが…

「あれっ? こんなところ来たっけ?」

「来た覚えないよね〜」

「でも、ここ正門だよね。」

どうやらツアーの時はこの本殿に寄らず、横道からいきなり奥の院へと出たらし

い。今回は二人の神子はちゃんと本殿を参拝してから千本鳥居の方へ向かう。

 

 

見慣れた千本鳥居を見て、

「そうそう前に来たのここだよね。」

と言っていた。

二人の神子はその鳥居をくぐり奥の院へ。やはりこの鳥居の下の空気はひんやり

として清浄な気を含んでいる。外界とはちょっと違った特殊な空間だと我々は思

う。

 

鳥居を抜けて、奥の院へ。勝手知ったるということで、二人の神子はすぐにスタ

ンプ設置場所へと向かう。ここのスタンプは頼忠。そこに置いてあるスタンプ台

を見て、我が神子が言った。

「あれっ? ここ青のスタンプ台が置いてある。」

最初に訪れた時にあったJTBのシールが貼ってあるスタンプ台もあるにはあっ

たが大分薄くなっていた。そこで、我が神子は念のためにと持っていってあった

Myスタンプ台でスタンプを押す。よく拭き取ったのだが、1枚目はちょっと青

色が混ざってしまった。今回は待っている人もいないし、二人の神子は時間をか

けてスタンプ帳と葉書に何枚かスタンプを押していた。何人か他の神子たちに出

会うかもとも思っていたのだが、この場所には神子らしき人物は一人もいなかっ

た。

 

帰り、店屋が並ぶ前を通った時、我が神子が言った。

「うちの母に神棚に供える花器を買って来るように頼まれてるんだ。」

「いいよ。見て行こう。」

そして二人の神子は神具店へ入って行った。

我が神子は金で稲荷印が描かれている花器を一目で気に入り、それを一対求める。

そして、待っている間にふとそばの平台を見て、ある物を見つけた。それは1冊

の経本であった。その表に書かれていた文字は『九字護身法』。我が神子は中を

パラパラと見ていたが、その中には呪いの言の葉以外にも九字の手の組み方も図

解入りで書いてあった。また、その経本は神主が使うように折りたたみ式の装丁

でとてもいい雰囲気をかもし出している。

二人の神子は顔を見合わせてニヤリと笑い、すぐに店の人に言った。

「これもください♪」

小さい頃から神事に慣れ親しんで、大祓えの神事を欠かしたことのない我が神子

はもう1冊『神道大祓 龍神祝詞(ここがまたポイント!)般若心経』と書かれ

たものも買っていた。

神子、飾って置くだけではなく、ちゃんと陰陽の勉強もするのだぞ。よいな。

 

伏見稲荷を出て、再びJRに乗り、一旦京都駅へ戻る。ここからはバス移動。

我が神子は割れ物である花器を持ち歩くことが少し心配だったのでホテルに置き

に行ってもいいかと神子ミズキにおそるおそる聞いた。タイムロスになるにもか

かわらず神子ミズキは快く承諾してくれたので、一旦ホテルへ戻り、花器を丁寧

に旅行鞄にしまい、再び駅へと向かう。

 

ここで二人の神子は下調べしてあった2000円の“京都観光二日乗車券”とい

うのを買う。格安の市バス専用乗車カードというのもあったが、これだと地下鉄

では使えない他、使える地域が限られるので、翌日行く予定の神護寺や松尾大社

では使うことができない。だから、迷わず二人は“京都観光二日乗車券”にした

のである。乗車券売り場で、京都のバスのガイドMAPもくれた。これがこの後、

非常に役に立つことになる。この乗車券はSFメトロカードのようなカード式に

なっているので、持ち運びにたいへん便利だ。二人の神子はさっそく定期入れに

しまっていた。

 

 

 

清水寺

 

次に目指すところは清水寺、すなわち音羽の滝だ。

バスに乗る時、また別の詳しいバスのガイドMAPをくれた。本当に京都はこの

へんはいたれりつくせりだ。

清水寺へ行くバスは何本も出ているが、中は超満員であった。本当に身動きが取

れず、通勤時の都心の地下鉄のようだ。我が神子は我々をかばうのに必死だった。

もし、途中で落としたらと一生懸命かばってくれた。何てやさしいのだ神子…

 

中も一杯であったが、道も大渋滞。ほとんど進まない。中には途中で降りて歩き

出す者もいた。確かにその方が早いかもしれないという進み方。

通常よりかなり時間をかけてようやく清水寺のそばまで来た。本来は清水道で降

りるはずなのだが、清水寺に行く人は一つ前の停留所で降りた方がいいというア

ナウンスがあった。

二人の神子は相談した上、その五条坂の停留所で降りた。降りても人だらけ。

目の前に信号があっても人の波が途切れず渡ることもできない。

「この混み方は何事?」

と我が神子がちょっと驚いていた。交通整理の警官が何とかその人波を整理して、

かなり待った後、ようやく道を渡ることができた。

看板には“清水寺へ”と書いてあり、露店なども出ているが、何だか見慣れた参

道とは違う。実は我が神子は今までに何度も清水寺には詣でていて、参道はよく

知っている。

「でも、清水寺って書いてあるし、近道かもしれないし行ってみよう!」

というわけで、二人の神子はその細道を行くことにした。

細い坂道を登って行くと、徐々に人が少なくなっていって、横には山いっぱいに

墓地が…

そこは西大谷墓地というところで、本当に見渡す限りお墓が広がっていた。女人

なら夜には絶対に来たくはないというところだ。

「そうだ。今日は春のお彼岸の中日だもんね。だから余計人が多いんだよ。」

我が神子が言った。我が神子の家は儀礼を重んじる家で春と秋の墓参は欠かした

ことがない。まっ、今回は特別母上と兄上に一任してそちらを辞して来たのだが…

「そうなんだ。うちのお墓遠くてめったに行けないから、気がつかなかった。」

神子ミズキはそう言った。

 

本当に着くかと半信半疑で墓地の横を歩くこと十数分。やっと清水寺に到着した。

ちょうど到着したころ雨がポツポツ降り始めていた。

二人の神子は階段を上がり、清水寺へと入って行った。清水寺では奥に進むには

拝観料が必要。拝観料の300円を払い、本堂へ。

 

諺でも有名な清水の舞台だ

 

本堂をお参りして、二人の神子は音羽の滝を目指す。音羽の滝の3本の流れは、

とても“滝”とは呼べないほどか細いもの。

我が神子が

「豊かだった流れがこのようなか細い流れに…ああ、ここにもひどい穢れがある

 のですね…」

と永泉の真似をして言った時である。それを待っていたかのようにザァーッとそ

れこそバケツをひっくり返したような大雨に…

「涙があんなこと言うからだよ〜 きっと永泉様がそれならと大雨を降らせたん

 だ〜」

その雨の中を音羽の滝の待ち行列の方へ。下でも人が多かったが、ここでも人は

とても多い。音羽の滝の水を飲むのにかなりの行列が出来ていた。

音羽の滝は長いひしゃくのようなもので水を飲む。3本の滝はそれぞれ不老長寿、

縁結び、学問となっているはずなのだが、どれがどれだかわからない。説明書き

には『どの水も全く同じですからどれか一つをお飲みください』と書いてあった。

確か昔はちゃんと説明書きがあったはずだが、みんなが選んで飲んで混んでしま

うので、わざとわからなくしてしまったらしい。

 

 

ひしゃく置き場の飲み口のあるところには一応消毒光のようなものがあててあっ

た。だが、これほど出し入れが頻繁ではおそらくあまりその光は役に立っていな

いのではないか…。

やっと我が神子の番が巡って来て、我が神子は空いていた真ん中の水を飲んだ。

後で見たところによるとどうやら真ん中が恋愛成就の水で当たりだったらしい。

私と同じ水を飲んだと我が神子はとても喜んでいた。

 

音羽の滝の水を飲んだ後、二人の神子はその向いにあるお守り売り場の横の屋根

付の休憩所(?)に置いてあるスタンプを押す。ここのスタンプはもちろん永泉。

雨で何もかも濡れているので、にじませないようによく手を拭いてからスタンプ

を押す。ここでも二人の神子はスタンプ帳と葉書に何枚か押していた。途中待っ

ていた神子らしき人物に場所を譲る。その者は1枚だけ押すとさっさと去って

行った。どうやら神子ではなく頼まれて押しているだけのようだ。

 

音羽の滝の裏にぬれ手観音像があるとのことだが、それらしきものは見当たらな

い。そこで、神子ミズキがお守り売り場の人に聞くと奥の院の方にあると教えて

くれた。

「聞いてよかったね。」

二人の神子は喜んで奥の院へ向かう。奥の院の横の方の小さな通路にこれまた小

さく“ぬれ手観音”の文字と矢印が書いてあるのを見つけた。多くの神子が音羽

の滝まで来てもぬれ手観音に対面できなかったと聞く。確かに聞いてみなければ

非常にわかりにくい場所だ。

二人の神子はやっとぬれ手観音に対面することができた。ぬれ手観音は思ってい

たよりもとても小さい像だ。だが、とてもいい顔をしている。二人は喜んで、お

参りをした後、それを写真に収めていた。

 

これが多くの神子がお会いし損なったというぬれ手観音だ!

 

清水寺を出る頃には、雨はほとんど止んでいた。やはりあの先ほどの大雨は永泉

が降らせたものなのかもしれぬな。

帰り、参道で神子ミズキが母上に頼まれていた慶事用と弔事用のふくさを買った。

その店でとてもかわいいお茶の筒を発見。我が神子は喜んでそれを買っていた。

 

 戻る  1日目 後編へ