祝 声

 

「えっっ、そうなのっ?」

北山で響く少女の声。
普通なれば、好んで人が入ることのないこの場所に訪れるものなど限られている。
ましてここに来る少女といえば、もう、あかねぐらいのものだろう。


「本当?本当の本当に今日なの?」


再び響くあかねの声。
彼女が話しているのはこの地の木精たち。

『龍新の神子』だからだろうか?
いつのころからか、そういった『声』を聞くようになっていた。
何の疑問も持たないあたり、もともと素質もあったのだろう。

木々もそんなあかねを好いていて、よく語りかけていた。

そして今もあかねに一つ、あることを告げた。
木々が好きなもう一人の・・・・・そしてあかねが気にしているある人のことを。

驚いているあかねに枝をさわさわと鳴らして肯定の意を示した。


「そう・・・・なんだ。うーーん」


困ったように考え込んでしまったあかねに対して何事かと木々たちはささやきを交わす。
そして風も・・・・・不思議そうにあかねの髪を揺らした。
その優しい風にあかねは顔をあげた。


「あのね、知らなかったから何も用意してないの」


どうしよう、とあかねは木々に語りかける。
しかしそんなあかねに対して、木々は不思議そうに枝を揺らした。

なぜそんなことを気にするのかわからない・・・・・と。

あかねはかえって不思議そうにそれに答える。


「だってお祝いしたいじゃない。・・・・・・・その、大切な人だし・・・・」


そういってあかねはまた考える。だけど何も思い浮かばない。
そんなあかねの様子に木々たちも考え込む。
やがてある木がささやいた。そしてまわりもそれに賛成しあかねに語りかける。


「えっ・・・なにっ?」


何の説明もなく、ただあかねを促すそれに疑問符を浮かべながらもあかねは足を踏み出す。
枝が、まるで道を開ける様に開いていく。

こっち、こっちと呼ぶそれに、まるでせかされるようにあかねの足が速くなる。
ついには走り出したあかねの目の前が急に開けた。


「わぁ」


秋の野に咲き乱れる一面の花。
思いがけないその多さにあかねは目を輝かせる。

「きれい、秋でもこんなに花があるんだ」


あかねは花に手を伸ばす。
だけど・・・・・・・少し戸惑った。


「とってもいいの?」


あかねのその言葉に、花たちは背を伸ばす。
自分を採っていってというように。
我を我をと皆精一杯背伸びをする。


あかねはお礼を言ってそれらを少し摘んだ。
花を大切そうに手に包み、あかねは山道をさっきとは反対に進んでいく。



今は、ただ泰明に会いたくて・・・・・・。
お祝いをいいたくて。










「神子」


目の前に望んだ人が現れてあかねの顔がパッと輝く。



「神子、お前はいったい何を」
「泰明さん」


何か言おうとする泰明の目の前に分けてもらった花を差し出す。
突然のことで泰明は言葉を止めてしまった。
花とあかねを見比べる。


「お誕生日おめでとう」
「たんじょうび?」


うれしそうに笑うあかねに少し目を細めながら、でもなぜあかねがそんななのか泰明にはわからない。


「木々が教えてくれたんです、今日は泰明さんが生を受けた日だって」
「・・・・・・」
「私のいたところでは生まれた日を祝うんです、だから、これ」


泰明はしばらくじっとそれを見ていたが、あかねの手から花をとった。


「なぜ・・・?」


手に取りながらそれでも疑問が口をついて出る。

あかねは不思議そうに泰明に答えた。


「だって、3年前の今日がなければ泰明さんはいなかったんでしょう?だから生まれた日を祝うんです・・・・・祝いたいんです」


その存在をもぞまれ他ことなど泰明には・・・・・・・・ない。
こんなことをされるのも初めてのことだ。
どうすればいいのかがわからない。

だけど泰明のそんな姿をあかねは違うふうにとった。


「あの・・・・知らなかったから、何も用意できなくて・・・・・あ・あのね、でも花たちも祝ってるの・・だから・・・」


どこかすまなさそうなあかねに泰明はその顔を見る。


「お前の・・・・想いが入っている。十分だ」


そういってやわらかく笑う。
その顔に・・・・・・あかねは引き込まれる。
より強く心に入っていく。


「来年も、祝ってくれるか?」
「!!・・・・はいっ」


泰明はどんなつもりでそういったのだろう、とあかねは考えた。
でも、今は喜んでくれただけで十分。
だから来年も・・・・・。



来年はもっと近い位置にいれるかな。
あかねはふとそんな想いが浮かび上がった。








来年の誕生日はどうなっているか・・・・・それはこれから作られる。

 

 

桂華様『水晶の華』
http://homepage3.nifty.com/suisyoubana/

 

≪桂華様コメント≫

お誕生日おめでとう、です。

いろんなものに慕われるあかねちゃんと祝われる泰明さん。

[涙のひと言]

桂華様のサイトで泰明さんのBIRTHDAY作品としてUPし

ていたものをチビたちの作品と交換ということでいただ

いて参りました♪ ラッキーvv

木々や花々、いろいろなものに慕われているあかねちゃ

ん。泰明さんの誕生日を聞いて、お祝いしたいと思うあ

かねちゃんに我先にと自らを摘んでくれと申し出る花た

ち…きっと自然の木々も花たちも泰明さんもあかねちゃ

んも両方とも愛してるんだね。

そして、ゆっくりとやわらかく愛を育んで行く二人…

来年はもっと近い距離になってるかな?

泰明さん、お誕生日おめでとう!

桂華様、やさしさが伝わって来る素敵なお話をどうもあ

りがとうございました!

 

 

桂華様のサイトへは『リンクのお部屋』からどうぞ

 

 

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