たかが式神、されど式神

 

「あれ?今日は、泰継さんはお仕事ででかけてるよ?」

泰継に用事がある、と部屋にやってきた陰陽師に花梨は首をひねる。

「そうですか、では、伝言していただけるとありがたいのですが・・」

「うん、いいよ」



龍神の神子としてりっぱに京を守った花梨は、美しい陰陽師である安倍泰継と婚儀を挙げた。皆に祝福された幸せな結婚を経て、今は甘いとろけるような新婚生活の真っ只中だ。

安倍の屋敷の一角を借り受けて、泰継とともに暮らしているのである。

泰継の性格や能力などから、安倍家の者は頼りにはしても打ち解けようとはしなかった。泰継もそれを当然として受け入れ、北山の庵で1人で暮らしていたのだ。

互いに連絡を取るのに、式神を使うほどに・・・

しかし、妻を娶った泰継は、花梨のことを考えて北山の庵より出て安倍の家で暮らし始めた。同じ家にいる相手に連絡を取るのに、文ならともかく式神を使うというのは、さすがに憚られる。となると、当然「誰か」が直接、話に行かなければならず・・・



「あれれ〜?あなた、本当に運が悪いね。今日も泰継さんはいないよ?」

「それは、残念です。本当に、運が悪いなぁ」

ちっとも残念がってない口調で陰陽師は言うと、いつものように花梨に泰継への伝言だけを頼んで戻っていった。

「う〜〜ん。いつもいつも、悪いよなぁ」

心なしか嬉しそうに戻って行く陰陽師の後ろ姿を見ながら、花梨はつぶやいた。



「ふぅ〜・・これで7日分の用事は伝えたな。どうせ明日には泰継殿への用事を、本家から言われるに違いない。また、次の泰継殿の出かける日を調べておかなくては・・・」

そして、泰継と花梨の住んでいる方を見るとため息をつきつつ、眠りにつくのだった。





それから、5日後・・・



「失礼します。今日は・・」

いつものように泰継が外出するのを見計らったように、陰陽師がやってきた。

「あ、いらっしゃい」

奥で手習いをしていた花梨が迎えに出てくる。

「泰継さん、いないんだけど・・・」

「では、あの、伝言を・・」

そう、言いかけた陰陽師に花梨はにっこりと笑って言う。

「ちょっと待ってね。今、お願いするから」

「??お願い?」

「うん!」



何が起きてるのかわからない陰陽師に微笑みかけると、花梨は奥へと消えていった。

そしてすぐに戻ってきた。

「すぐに、来ると思うからね」

「・・来る?」

「うん」

「何が?」

「泰継さん」

「・・??」

「お願いしておいたの。だって、いつも泰継さんに会えないでしょ?だから・・」

「!!!!」



「そ、そんなに気を使っていただかなくても」

すぐにでも退出しようとする陰陽師の言葉を花梨の声が遮る。

「あ、来た!」



花梨の目の先には、泰継がフクロウを肩に止まらせて立っていた。

「や、泰継殿・・もう、戻ってきたんですか?」

動揺しまくりの陰陽師の問いに、泰継が眉をひそめる。

「お前は本人と式神の区別もつかないのか?」

「式神・・」

「花梨から、私が留守の時に限ってお前が来ると聞いた。だから、お前が来たら、これを使って呼ぶようにしてもらったのだ」

そう言うと、泰継は花梨の腕の中で甘えているフクロウを見た。

「だって、いつも会えないなんて、なんか悪くて」

花梨は、泰継にとっては天使の微笑みを、そして陰陽師にとっては悪魔の微笑を浮かべた。



「それで、何用だ?」

花梨に向けている顔とは180度違う顔を向け、泰継が向ける。

「えっと、ですね・・・」





「・・・・以上か?」

「はい」

「では、さっさと行け」

「(言われなくても・・)はい」

やっと解放されたとばかりに出て行こうとした陰陽師。

「ちょっと待て」

「え?」

「話がある」

「・・・え?(汗)」

「花梨・・お前は少し外してくれ。今なら西の花壇が美しい。見てくればいい」

「泰継さん?」

「頼む」



『行かないでくれ〜〜〜』という陰陽師の心の声も届かず、花梨は大きくうなずくと、フクロウを連れて外に出て行った。



・・・・・・・・・

「陰陽師さん同士の大事な話なのかな。邪魔しちゃ、悪いよね」

腕に抱いてるフクロウに語りかける花梨は全然、気づいていなかった。

自分が泰継に伝えた言葉が、あらぬ誤解を彼に与えたことを。

そして、それが今の部屋の中での状況を生み出していることも。



『あのね、泰継さんがお出かけするときに限って、あの陰陽師さんが来るの』



やがて、やつれた顔で出て行った陰陽師と入れ替わるように、泰継が帰ってきた。

「泰継さん!お帰りなさい!!」

「ただいま、花梨」

いつものように固い抱擁をすると、2人は部屋に入った。

「でも、式神さんって本当に便利だね。私のそばに、いつでも置いておいてほしいな」

「駄目だ」

「え?」

「式神は所詮、式神でしかない。お前に触れるのは、私本人がいい」

「泰継さん」



暖かく、甘い夜。

2人の部屋で、フクロウが小さく鳴いた。

「あ、そういえば・・・」

「何だ?」

「あの陰陽師さんとのお話って何だったんです?」

「お前が気にすることはない」

「でも・・」

「これから、私のいないときに、あいつと会うな」

「泰継さん?」

「おそらく、来ないだろうがな」

「・・え?」

「私たちの大切な生活のために、話をしただけだ」

そう言うと、いつものように花梨に優しい接吻をねだった。



「・・・・・・はぁ」

そんな2人の部屋から離れた場所で、陰陽師はため息をついた。

『お前は陰陽師のくせに、私の不在も分からないのか?』

『なぜ、4日も前のことを今、言うのだ?』

というようなことから始まった泰継の話を、半日も聞かされたのだ。

『私のいないときに花梨に会うな。私のいないときに用があるなら・・・』



「・・・・・・はぁ」

本日、何度目かのため息をつくと、陰陽師は部屋の隅を見た。

そこには、泰継の姿をした式神がいた。

『決まった時間に私の式神をお前のもとに送る。用があるときは、それに言え』

(・・・式神とわかっていても・・・)



花梨と泰継の甘〜い新居から、フクロウの鳴き声が聞こえたような気がした。


おりん様『FANTASY PLANET〜幻想曲〜』

http://members.jcom.home.ne.jp/orin/index.html

[涙の一言]

おりん様のサイトで5000HITを踏んで、いただきまし

た。しかも初めておりん様のサイトにお邪魔した際に偶然踏

んでしまったという、昔からのファンの方々には申しわけな

く、そして、私としては超ラッキーで、おいしすぎるシチュ

エーションでありました。実はまじん様のところで、泰継さ

んと花梨ちゃんと陰陽師さんの爆笑ギャグ小説を読んで、

いっぺんで大ファンになっておりましたもので。(^-^ゞ

そこで、今回も「泰継さんと花梨ちゃんのお話を一発お願い

いたします。できたら、ギャグバージョンで新婚の二人って

な感じで!」とリクエストしたのです。そうしたら、またま

た陰陽師さんが素敵に登場してくれるこんな素晴らしい作品

となって返ってまいりました♪ やっぱりこのテーマでお願

いしてよかったわvv

花梨ちゃんの小さな親切大きなお世話って感じですね!
私だったら泰継さんの姿をした式神が定期的に来てくれたら

めちゃ嬉しいけど、陰陽師さんには災難だね。でも、陰陽師

さん、新婚の奥さん一人だけの時を狙っておうかがいするの

は理由が理由でもちょっと無謀過ぎるよ。誤解した泰継さん

に殺されなかっただけましかも!(^。^) 半日話を聞き続け

るだけで済んでよかったね。

おりん様、ステキな創作をありがとうございました。

 

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