第4章 朝の観光 〜不吉な前兆〜

 

〜 泰明スタンプの失敗と何故か後ろを向くチビあっきー 〜

 

 

 

ここは私チビあっきーが案内する。

このレポートは基本的にノンフィクションだが、この部分に関しては神子の推測と想像

による記述も多少入っていることを先にお断りしておく。

 

 

朝ご飯食べるのにすごく並んでるよ〜

 

いよいよプレミアムツアーの朝が来た。今回は“ネオロマンスフェスタ終了後宿泊プラ

ン”を申し込んだ神子たちには午前中『晴明神社 一条戻り橋 船岡山』の観光が

セットになっているそうだ。一応自由参加とはなっているが、参加しないわけがない。

前回のツアーで、我が神子はよりによって晴明神社で貴重な“泰明”と“泰継”という

一番大切なふたりのスタンプを押し忘れてしまったので、リベンジに燃えていた。

 

前回のツアーの出発時間は朝の7時30分という信じられないような早さであったが、

今回のツアーでは出発時間は朝の9時。なのでかなり余裕がある。そこで、神子たちは

目覚ましを7時にセットしておいたが、実際にはそれよりも早く6時30分ごろ起床し

た。ゆえに準備はかなり楽勝のはずだったが…

 

朝食の場所は洋食レストランと和食レストランの2箇所から好きな方が選べるというも

の。“コーヒーが飲める”という理由で二人はその日は洋食レストランへと向かった。

しかし、着いてみてびっくり! そこにはズラッと並んで待っている人の列。どうやら

ホテルのレストランの意地か相席なしの一家族1テーブル…なんて無駄なことをしてい

るために座席としては空いている席がたくさんあるにもかかわらず中に入れる客はごく

僅かとなってしまっているらしい。しかも7時半にもまだなっていない、こんな早い時

間にも関わらず、中年の団体客が入っていてさらに混雑していた。

みんなゆっくり食べているのでなかなか列は進まない。

「和食の方に行ってみた方がいいかな?」

「でも、きっと向こうも同じだと思うよ。」

というわけで、やはりここは動かず、辛抱して待つことにした。

「こんなことで集合時間に間に合わなくなったらどうしよう…」と神子たちは心密かに

思っていたという。

ようやく順番が来て、席に着いた時はホッとした。バイキング式の食事を取り終えると

神子たちは部屋へ戻り、コートを着て、用意してあったハンドバッグを持って集合場所

へと向かった。

 

バスは2台来ていて、もう何人かの神子たちが乗り込んでいた。バスの窓には『PS2

版遙か2』のポスターが貼ってあったので、そのバスがツアーのバスだとすぐにわかっ

た。ここでは、出席チェックとかは一切なかったから、もし、宿泊してない神子が紛れ

込んでいてもきっとわからなかっただろうと思う。

前回のツアーとは違って今回は集合時間に遅れてやって来る神子たちが意外と多かった。

もしかしたらあの朝食の列のせいやも知れぬ。

我が神子とご友人神子は“1号車”と書かれている方へ乗り込んだが、何故か“2号車”

の方が先に発車した。思えばこの時からすでに運は徐々に悪い方へと進んでいたのかも

しれない…

 

 

チビあっきーお師匠の啓示を受ける!?

 

最初に行ったのは“晴明神社”。つぐっちは自分の生みの親でもあるお師匠に会うのは

初めてなので、ドキドキしているようだ。

我が神子とご友人神子がここに来るのは、前回に引き続き二度目。

晴明神社に着くと「えっ、ここが?」というほど、様変わりしていた。どうやら前回来

た時にはまだ着工予定となっていた改修工事が始まったようだ。入り口にあった鳥居は

なく、前に見た一条戻り橋の昔の石柱もそこにはなかった。

「改修前に来ておいてよかった。」

と神子たちは言っていた。

どうやら本社に関しては一応前のままである。絵馬も前の通りかかっている。ちょっと

一安心して、まずお参りをする。

お参りをすませてスタンプを探すと、そこは神子たちの長蛇の列。我が神子とご友人神

子もその後ろに並ぶ。やはり噂通り“泰継スタンプ”は取っ手のところが壊れているら

しい。「直してもまたすぐに壊れちゃうんですよね。」とJTBの人が言ってた。

時間が経ってもちっとも進む気配がない。どうやらもうじきスタンプラリーも終わると

いうことで、他の者の分も押してくるように頼まれた神子が多いらしい。一人でスタン

プを泰明10個、泰継10個なんて押している神子もいた。それでは列が進むわけがな

い。ここでの拝観終了予定時刻は刻一刻と迫っている。

それでも何とか我が神子たちに順番が回って来て、ちょうど我が神子が“私”のスタン

プを『京 旅の手帳』に押そうとスタンプを手帳に載せた時、JTBの人が

「はい。もう時間になりましたので、次に移動します!」と叫んだ。

それで、思わず「えっ?」と言った我が神子は力の加減を誤ったのであろう。私のスタ

ンプを押すのを失敗してしまったのだ。しかも“顔の部分”だけが出ていない…という

最悪な状態に。

「あ〜ん、泰明さんのスタンプ失敗しちゃったよ〜」

我が神子はご友人神子に泣きついた。他の紙と違って旅の手帳の方なので、やり直しが

きかない。ご友人神子は泰明スタンプが綺麗に押してある貴重な自分のハガキを我が神

子にくださった。何てやさしいのだ! 我が神子は本当にいい友人を持ったものだ。

 

だが、後から思えば、この一見ただの“スタンプの押しそこない”という事象こそがこ

れから神子の身に降りかかる災難を暗示していたのである…

 

 

 

神子とともに神社を出ようとした時、急にお師匠の声がした。

「“チビあっきー”こと泰明よ…」

どうやら我が神子たちにはその声は聞こえていないらしい。

「何だ、お師匠。」

「神子に危険が迫っている。」

「なに!?」

「泰明、おまえの力で神子を守れ!」

「・・・わかった。」

とは言ったものの我が神子にもご友人神子にもまるで我らの声は聞こえていないようだ。

ふたりは話ながら次の目的地一条戻り橋へと向かっている。

私は泰明の形をとってはいるもののしがない一体の人形。

どうやって神子にこのことを伝えればいい…

私は考えた。そして

「そうだ。」

私は一つの方法を見つけた。

それは、“後ろを向く”こと。

神子、気づいてくれ。そして、身を守ってくれ!

 

「あれっ? あっきー後ろ向いてるよ?」

ご友人神子が私を見てそう言った。

「えっ? ほんとだ。つぐっちのスタンプ成功して、あっきーのスタンプ失敗したから

 いじけちゃってるのかな?」

そう言って我が神子は私を前に向けた。

だが、私はすぐにまた後ろを向いた…

 

 

 

一条戻り橋ふたたび

 

一条戻り橋…ここも前回のツアーで来たところだ。前に来た時は橋単独の写真がなくて、

自分も一緒に写っているものしかなかったので、合成とやらにかなり苦労したとかで、

今回は我が神子は無人の橋の写真を何枚も撮っていた。橋の下を覗き込んで、お師匠が

式神を隠していたと言われているところも写真に撮っていた。

 

 

「あれっ? またあっきー後ろ向いてる〜」

私に気づきまた神子が私を前に向けた。

 

一条戻り橋での滞在時間はかなり長かった。

「何だ、こんなに時間があるなら“晴明神社”の方にもっと時間とってくれればいいの

 に。そしたらスタンプも失敗しなかったのにね〜」

神子たちはそうつぶやいていた。

 

しばらく滞在した後に、神子たちはまたバスに乗り、午前の観光最後の目的地“船岡山”

へと向かった。

 

バスの中で我が神子が言った。

「あれっ? さっき前に向けたのにまた後ろを向いてる。バッグ動かしてないのに変だ

 よね。」

 

――いいぞ、神子。気づいてくれ!

 

「つけ方が悪いのかな。つけ直そうっと!」

神子はそう言うと、私のキーホルダーをはずし、裏返しにつけ直した。

 

――違〜う!! そうではないのだ、神子。気づいてくれ!!

 

そう言う私の声は神子には届かなかった。仕方なく私はまた後ろを向いた…

 

 

 

船岡山登山!でも、神護寺よりは楽勝な…はず…だけど?

 

バスは建勲神社の前で止まった。どうやらここがゲームでいう船岡山らしい。大鳥居を

入って左に折れると、目の前に見えて来るのは延々と続く階段。そこをどんどん上がっ

て行く。プレミアムツアー1で行った神護寺よりは遥かに段数は少ないのに我が神子も

ご友人神子も息を切らしている。どうやら二人ともあの時よりも体調が悪いので、これ

ぐらいの階段でも結構堪えるらしい。

ようやく頂上にたどり着くと我が神子とご友人神子はまずスタンプを押しに行く。ここ

でのスタンプはイサトと勝真。晴明神社に比べればかなり空いていた。やはり晴明神社

では我らの人気のためあれだけの列になったのやもしれぬ。

 

「またあっきー後ろ向いてる。さっきつけ変えたのにおかしいな…」

我が神子はまたそう言いながら私の向きを直した…

 

JTBの人やバスガイドさんが「こちらがゲームに出て来る場所ですよ〜」と案内して

くれたので、そちらの方へと行ってみる。そこには基準点を示す石組みと『三等三角点

船岡山』という金属製のプレートが立っていた。そこから京の町が見渡せる。だが、そ

こから見える人工的な町は少し淋しい。

その時、どこからともなく笛の音が聞こえて来た。永泉か?とふと思ったのだが、ほど

なく、近くの東屋で一人の老人が横笛を吹いているのを発見した。老人のほのかな笛の

音がより遙かの世界に神子たちを導いてくれたようだ。礼を言いたい。

 

 

いわゆる“ゲームに出て来る場所”を堪能すると神子たちは本社の方へと向かった。そ

こには“お払い串”と呼ばれる。御幣のついた串があった。それを振って魔を払ってか

らお参りをするのだという。我が神子もご友人神子も書いてある通りにお祓いをして、

参拝をした。

下りの階段は少し斜め下に段が傾いているので慎重に下りる必要がある。神子たちは一段

一段気をつけながら下りた。そして、ようやく入り口の鳥居のところへたどり着いた。

 

船岡山を出て、バスに乗り、一行はプレミアムツアーの集合場所である“京都駅八条口”

へと向かった。

 

集合場所へ向かうバスの中でもチビあっきーは後ろを向いたままだった…

 

[あとがき…と言うのもおかしいけれど]

ここでひと言、言っておかないと「何だフィクションか」と思われる方もいるかもしれ

ませんので、旅行記の途中ではありますが、第4章のあとがき…というものをつけさせ

てもらいました。

もちろん、冒頭のあっきーとお師匠様の会話は私の想像の産物です。

しかし、この日のチビあっきーの動きは明らかにおかしかったのです。それは同行者の

ミズキに聞いていただいてもわかると思いますが、つぐっちは別にいつも通り前を向い

ていましたが、あっきーの方は本当に何回前を向かせても気がつくと後ろを向いている

のです。キーホルダーのつけ方が悪いのかと直したのですが、それでもまた気がつくと

後ろを向いている…という感じで。本当に不気味なほどに。原因はさっぱりわかりませ

んが、後の出来事を考えますと、やはり何かを予感させる忠告であったとしか思えない

のです。ですから、ここではあえてそんなふうに書いてみました。その出来事とは…

第5章へ続きます。

 

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