バレンタイン・リベンジ ≪前編≫

 

このお話の前提

このお話の中には泰明さんと泰継さん、それに花梨ちゃんが登場します。

泰明さんはあかねちゃんと、泰継さんは花梨ちゃんとそれぞれラブラブ・エンディン

 グ済みで、どちらも二人を現代にお持ち帰りしています。

泰継さんは泰明さんより2年近く後に現代へ来ました。

そして、どういうわけだか泰明さんと泰継さんは現在東京にて一戸建ての家で同居中

 です。(そのへんのMY設定は原案はあるのですが、まだ創作発表していないので、

 ここでは詳しくは語れません。ごめんなさい。)

そして、このお話はさりげに「ちょこっとチョコ騒動」の続編でもあったりしますし

 その後の「それぞれのクリスマス」につながるお話だったりします。ですので、それ

 らを先にお読みになりますと、より一層お楽しみいただけるかと思います。(^^)

 

「神子からのチョコだけは受け取る、神子からのチョコだけは受け取る、神子からのチョコだけは受け取る…よし!」

泰継は呪文のように何度も同じ言の葉をつぶやくとそのたびに頷いていた…

今日、何度同じ行動を繰り返しているのだろうか?

それを見ていた泰明がうんざりしたように言った。

「おまえは一度聞いたことは忘れることがないのだろう? なぜ同じ言の葉を繰り返す?」

泰継は一度泰明の方をチラッと見たが、また視線をそらすと同じ言の葉をつぶやき始めた。

それを見て、泰明は「はーっ」と長いため息をついた。

 

泰継がこのような行動を繰り返すのにはわけがある。

そもそもは昨年の…泰継がこの世界に来て初めてのバレンタイン・デーに端を発する。泰明の忠告を半ばまで聞いて、すっかり間違った思い込みをしてしまった泰継は、せっかく花梨が作って来てくれた手作りチョコの受け取りをこともあろうに断ってしまったのだ! その結果、花梨は泣き出すし、さらに間違いに気づいてすぐに謝りに行ったものの、その後1ヶ月近くも彼女から面会を拒否されるというかなり手痛いめにあってしまったのだった。

 

泰継はもう今年は絶対泰明の言葉を聞くまいと思っていた。

思えば、先日のクリスマスの時もうっかり彼や彼の神子の言の葉を信じてしまったがためにまた花梨を激怒させてしまい、その信頼を取り戻すのにこちらの方も一ヶ月近くも時間を費やしてしまった。

だから、今回こそは絶対に…

そう固く心に誓っていたのだが…

 

それはふとした泰明のつぶやきから始まった。

「あかねはまた手作りのあれを持って来てくれるだろうか?」

泰明が昨年のバレンタイン・デーを思い出しながら一人つぶやいた。

「神子の手作りのあれは市販のものとはまるで違う。神子のように甘く、神子の気が満ちていてあれほど神子の愛を感じるものはない。あれは私に対する神子の愛の証なのだ。」

つぶやきと言っても結構大きな声だったので、泰継はついそれに耳を傾けてしまった。

 

――“あれ”とは何だ?

“神子の愛の証”となれば私だとてそれが欲しい。

 

そう思って、泰継は思わず泰明にそれをたずねてしまった。

「泰明」

「何だ?」

「“あれ”とは何だ?」

「き…聞いていたのか!?」

泰明は思わず頬をポッと赤らめた。

「聞いていたも何もあれだけ大きな声で話せば聞こえぬわけがなかろう。“あれ”とは何だ?」

泰継は再度同じことを聞いた。

「チョコだ。」

「チョコ?」

「ああ。神子の手作りチョコは本当に特別なのだ。ほかの何物にも変えられぬ。神子の私に対する最高の愛の証なのだ。」

泰継は昨年の忌々しい出来事を思い出した。

自分があの日ドーンと落ち込みきって家に戻ると泰明が何やら嬉しそうに食していた。

その両手で支えているものは、見たこともないような超巨大サイズのハート型のチョコレート。あれを食していた時の泰明の至福の笑顔は忘れようと思っても忘れられない。

というか、もとより泰継には忘れること自体不可能なのだから…

自分はと言えば花梨と何とか仲直りをした後もすでに食してしまったと言われて、昨年はとうとう花梨からチョコをもらうことが出来なかったのだ。

 

――神子の作ったチョコというのはあのような至福の気分をもたらすものなのだろうか?

しかも神子の最高の愛の証…今年こそ何としもそれを受け取らねば!

 

泰継の中で“チョコ=神子の愛の証”という構図がすっかり出来上がってしまった。

そして、まずいことに昨年も今年もバレンタイン・デーの本当の意味を泰継に教えるものは誰もいなかった。昨年泰明から聞いた言葉は「女人が男にチョコレートというものを渡す日」ということと「ほかの女人からのチョコはすべて断って“神子からのチョコだけは受け取る”」ということだけ…

だから、泰継が誤解してしまったとしても無理はない…

 

 

*  *  *

 

そして、バレンタイン・デー当日…

花梨はいつもの公園に泰継を呼び出した。クリスマスといい、泰継はこの公園にものすごくこだわっているような気がしたから…

ベンチに座る花梨の膝の上には大きな袋が乗っている。

 

――昨年のチョコは食べてもらえなかったけど、これなら…

 

泰継の喜ぶ顔を想像すると自分まで嬉しくなってくる。

 

――ふふっ、泰継さん、気に入ってくれるかなぁ?

 

「花梨!」

「あっ、泰継さん、ここ、ここ!」

花梨は手を振りながら泰継を呼んだ。

泰継はすぐに花梨の方へと駆け寄って来た。

「おまえがこのような早朝に呼び出すとは…いささか驚いた。」

泰継と花梨はこの日、会う約束はしていたが、何時に会うという約束は明確にはしてはいなかった。それは花梨が何時になるかわからないので、行けるようになったら電話をすると言ったからだ。むろん、花梨の願いを泰継が断ろうはずがない。その日はもともとすべて花梨のために空けていたし、何時に呼び出されてもいいと思っていた。だが、いつも休みの日は寝坊をしている花梨からこんなに早く呼び出されるとは思ってもいなかったのである。

「座って」

花梨は自分の隣に座るように泰継を促した。

泰継はその言葉にしたがって、素直に座った。

花梨はいくぶん頬を赤らめながら言った。

「今日はバレンタイン・デーですね。」

「そうだな。」

泰継も微笑みながらそう答えた。

「だから…ハイ!」

そう言って、泰継に自分の膝の上に乗っていた大きな包みを手渡した。

「ありがとう、花梨。」

泰継は花梨に向けて極上の笑みを浮かべた。

花梨はそれを見て、ますます顔を赤らめた。

 

――うわ〜っ、泰継さんのこんな微笑みなんて久々〜

 

「開けてもよいか?」

「はい、もちろんですv

泰継はいそいそと結んであったリボンをほどき、袋の口を開けた。

だが、その中に入っていたのは…

「泰継さんのために頑張って作ったんです。」

花梨が照れながら言った。

泰継は中に入っているものを引っ張り出すと袋の中を覗き込んだ。

「これだけか?」

泰継が複雑な表情で聞いた。

「えっ?」

「チョコが入ってない。」

「チョコ?」

花梨が聞き返した。

「こんなものよりチョコはどうした?」

「こ…こんなもの〜!?」

 

袋の中に入っていたのは手編みのオフホワイトのセーター。

花梨がいく晩もいく晩も徹夜してやっと編み上げたものだ。

実は花梨は花梨でトラウマがあった。

後で事情はわかったものの花梨としては泰継が昨年チョコを受け取ってくれなかったことが深い傷となって心に残っていたのだ。

もちろん今年もそれでも一度はやっぱり手作りチョコを…と思って、何度か試みはしたのだが、どうしても昨年のことを思い出すと上手に作ることが出来なくて、それで急遽手編みのセーターに切り替えたのだった。

一生懸命頑張ったが、バレンタイン直前で方向転換したため、そのセーターが何時に仕上がるかわからなかった。だから、泰継にお願いして、待ち合わせ時間の方もアバウトにしておいたのだ。しかし、愛の力というものは侮れない。もしかしたら夕方になってしまうかもなどと思っていたセーターが泰継に早く会いたい一心で明け方にはもう完成してしまったのだから…

そんな自分が頑張って仕上げたセーターを“こんなもの”呼ばわりされて、花梨はわなわなと震え出した。

 

「チョコもあるのだろう? チョコをくれ。」

花梨の気持ちなどまったく気づかずに無神経に泰継が追い討ちをかけた。

「これ…仕上げるのたいへんだったのに…」

花梨がうつむいたまま震える声で言った。

「ん?」

花梨の様子がおかしいことにやっと泰継が気づいた。

「泰継さんのために一目一目心をこめて編んだのに…」

花梨の目に涙が滲んで来た。

「花梨?」

さすがにこれには泰継も大いにうろたえた。

「どうしたのだ、花梨? 私はまた何か間違ったことをしたのだろうか?」

オロオロしながらそう言う泰継に花梨はいつもの決めゼリフを言った。

「泰継さんの

「泰継さんのバカ〜ッ!!!」

そう言って、泰継の手からセーターをひったくって走り出そうとした花梨だったが、泰継はとっさに寸でのところでそのセーターを反対側に避けた。

そのため、花梨は空手のまま大声で泣きながら、走り去って行った…

三度呆然とした泰継をそこに残したまま…

 

泰継は自分の手の中に残ったセーターをジッと見つめた。

そのセーターからは花梨の溢れるばかりの自分を思う気持ちがしんしんと伝わって来る。

なぜ自分はこれを手にした時、そのことに気づかなかったのか?

泰継は激しく自分を責めた。

泰継はコートを脱ぐと、シャツの上からそのセーターを着た。

まるで花梨の気に包まれているような温かさが体中に満ちて来る。

それがかえって泰継に罪悪感をつのらせた。

「私にはこれを着る資格がない。」

そうつぶやくとそのセーターを脱ぎ、もとのようにたたんで、袋に戻した。

そして、とぼとぼとその袋を持ったまま公園の門から外に出た。

 

いつもならそれでそのまま家に帰るところなのだが、なぜかこの日に限って泰継は何となく名残惜しくなって、公園の方を振り返った。

振り返った泰継の目に今まで特に意識して見たことがなかった公園の表札が飛び込んで来た。

「ん?」

自分のよく見知った文字に泰継は眉を寄せた。

「泉水(もとみ)公園?」

いつも電話では“せんすいこうえん”と聞いていたし、確か反対側の出入口にはひらがなでその名称が書かれていたような気がする。

だが確かにこの字は“泉水(もとみ)”だ。そうとしか見えぬ…

「そうか! わかった! 名は呪となる。この公園の名前が悪いのだ! だから、気が沈むようなどこか後ろ向きになるような災いばかりが起こるのだ!!」

はたから見ればただの八つ当たりにすぎないのだが泰継はその時本気でそう思った。

「ハーッ!!」

泰継は呪符を1枚取り出すとその表札をものの見事にふっとばした。

「これでよい。」

こっぱみじんになった表札を見て、泰継は満足そうに頷いた。

「誰だーっ!!」

その音を聞いて、公園の管理室から管理人が飛び出して来た。

泰継は慌ててその場から逃げ出した。泰継の脚力からすれば誰にも見つからないように風のごとくその場から走り去ることなどたやすいことだ。

あまりにも一瞬のことだったので、おそらく見ているものさえいなかったろう。

 

自宅に向かって走りながら

 

――これで少しは私の運も上向くかも知れぬ。

 

不謹慎にも泰継はそんなことを考えていた。

 

≪後編へ続く≫

 
Rui Kannagi『銀の月』
http://www5d.biglobe.ne.jp/~gintuki/
 

[あとがき]

2004年のバレンタイン作品です。

やっと何とかギリギリすべりこみセーフでバレンタインに

間に合いました!!\(^◯^)/

今年のバレンタイン作品は、昨年のバレンタイン作品であ

る「ちょこっとチョコ騒動」の続編です。

昨年のバレンタイン、昨年のクリスマスと現代に来た泰継

さんには受難が続いております。そして、今年こそはリベ

ンジなるかと思いきや、またまたこんな結果に

でも、今年はここで終わりません。まだ続きがあります♪

どうぞ続けて後編の方もお楽しみくださいvv

 

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