麻 呂

 

今宵も暑い。
月は煌々と輝き、麻呂に光を与えてくれる。
そして目の前で待ってくれる蛍が酒の肴になってくれよう。
夏の長い夜もお主のことを考えると一瞬のように過ぎ去ってしまう。

思い浮かぶのは今この文を読んでいるお主。
そう、『ぱそこん』の前にいるお主じゃ。

お主は麻呂には決して笑顔を見せてくれないな。
他の奴には見せるのに。
あの憎き「らいばる」橘少将や永泉様にならまだわかる。
しかし、あの赤髪の坊主や鬼に笑顔を見せるのは許せん!!!
――だがそれでも麻呂はかまわない。
その笑顔が麻呂へのものではなくでも。
遠くからでもいい。お主の笑顔が見たいのじゃ。
いつから芽生えたのだろう、この熱い想いは。

小娘よ――
つい、きつくまってしまう麻呂を許してはくれないか?
お主の前では素直になれんのじゃ。
杯の中で麻呂の顔が揺らめいた。
こう見ると哀愁に満ちた麻呂の顔もなかなかのものではないか?!
橘少将には負けておらんぞ!!

しかし、最近わかったのじゃ!
お主が麻呂に笑顔を向けてくれることを発見したのじゃ!

それは麻呂が転ぶ時。
お主は麻呂の転ぶ姿を見て笑ってくれるのだ!
お主の笑顔が見れるなら、いつでも何度でも転ぼう。
この高い高級な着物が破れ、この端正な麻呂の顔が傷ついても、
お主の笑顔の為なら厭わない。

だが――
明日は素直に優しく接してみようと思う。
麻呂が転んだ時とは違う笑顔が見れるかもしれない。

溜息を一つつき、杯を置いた。
杯の中の酒は月を映す。

今宵はもう寝るとしよう。お主の笑顔を思い浮かべて。
お主が麻呂の夢路に来てくれることを星と月に願いながら。

夏の夜は今日も更けゆく――。

 

 

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