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音楽は「ノクターン」からお借りしました。
夏祭りの夜は騒々しい。 チカチカするネオンも、囃子たてる太鼓の音も、癇に触る。 お腹の底がむかむかする。 奈津美は怒りに任せて人ごみをずかずかと歩いた。 人にぶつかろうが、蹴飛ばそうがおかまいなしだ。 (せっかく浴衣を着て、髪まで結ってもらって来たのに。) 「誰のためだと思ってんのよ!」 突然、叫び声をあげた浴衣の少女に人々は不信そうな目を向けた。 奈津美は気にしなかった。 ますますスピードを上げると御参りの人で賑わう社から遠ざかった。 目じりから涙が滲んで、視界を曇らせた。
「柚彦、あの人…」 最初にその女に気づいたのは奈津美だった。 鳥居の脇の暗がりに1人の女がうずくまっていた。 神社は参拝客でごった返している。 祭りに浮かれる人達が女の傍らを通り過ぎていく。 けれども、誰も女には声をかけなかった。 「どうしよう。具合が悪いのかな」 奈津美は隣にいる柚彦の腕を掴んだ。 女はこちらに背中を向けて俯いていた。 顔は長い髪に隠れて見えなかった。 奈津美は柚彦を見上げた。 首を30度傾けた辺りで柚彦と目があった。 柚彦はぽんぽんと奈津美の頭を軽く撫でた。 それから、 「大丈夫ですか?」 そう声をかけた。 奈津美はホッと息をついた。 柚彦の腕を掴んでいた手の力が抜けた。 「具合が悪いんですか?医者を呼びましょうか?」 柚彦が重ねて尋ねた。 ゆっくりと、女が顔を上げた。 綺麗な人だった。 肌の色が透き通るように白かった。 隣で柚彦が息を飲むのがわかった。 その瞬間、奈津美は声をかけさせたことを少しだけ後悔した。 「すみません、気分が悪くて。どこか休める場所はないですか?」 女が言った。 声も綺麗だ。 「ああ、ならあっちに休憩所があります。送ってきますよ」 柚彦はそう言うと奈津美を見下ろした。 「すぐもどるからな。ちょっと待ってて」 「やだ」 間髪おかずに言葉を返した。 何度も首を横に振る。 「はぁ?病人だぞ。聞き分けのないこというなって」 「でも、やだ」 奈津美は繰り返した。 どうしても、この綺麗な人と柚彦を行かせるのは嫌だった。 今日は2人で初めての夏祭りなのに…。 「私も行くよ」 「ダメだ」 今度は柚彦が即答した。 「なんでぇ」 奈津美は泣きそうだった。 柚彦はそんな奈津美の頭を撫でた。 「大丈夫から、すぐ戻るって」 そして女に肩を貸すと奈津美の側から離れていった。 |
M-Satomiさんに頂いた暑中見舞いのお礼でした。 BGMに鳴ってるのは「4羽の白鳥」です。 |