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〜アンジェクロス セイネ〜

 

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天に張り巡らされた地図は

白き胡蝶の群に呑まれ

地に積み上げられた指標は

西の狂風に吹き散らされる

気づけば砂平原

砂礫に埋まった金の檻

過ぎて逝く

蜃気楼の影法師

願いを叶えたくて

諦めたくなくて

約束を守りたくて

青年は

少女と旅に出る

砂漠の蜃気楼

眠る意識の裏側に

刹那瞬く

白い片羽根

手を伸ばせば

そこは・・・

水煌く

忘却の都

 
 

忘れられた都には

禁じられた噂

uwasa

それは昔々の物語

領主の息子の物語

アンジェクロスの物語

片翼の翼の天使が

どこかで笑っている

街外れに幽霊

領主の館に魔獣の娘

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忘れられた都で

赤銅の鳥を連れた旅人が

歌っている

金の森へ

果てなしの砂漠を超え

忘れられた都を目覚めさせ

記憶の呼び声は

この体の奥から

本能の如く湧き続け

生きる道標を目指し

あなたに会いたくて

「金の森」

記憶のKey word

あの銀水晶の墓場で

いつも僕は目を覚ました

 
 

記憶を失った森の奥

蔦に覆われた

銀の鳥篭

貴方の影は何処へ消えた

金の森のその奥で

指きり交わした小さな約束

必ず帰ってくるからと

信じた僕は待っているのに

今も変わらず待っているのに

貴方の姿をみつけられないまま

今日も遠い空に鳥の啼く声

暖かい寝床

湯気の昇るスープ

貴方の居ない幸せな牢獄

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舞降る花弁

金色の雪模様

どこまでもどこまでも

絶えることなく永遠に舞う

循環回廊

金の森

記憶の底で呼ぶ声がする

導かれて

たどりついた場所

ずっと昔

僕はここに来たことがある

銀の光は煌々と

辺りを冷たく照らしだす

無機物と化した生物は

長い長いまどろみの中

そこはツバサ有る者の聖地

銀水晶の墓場

 
  城は森の最奥で

誰かが来るのを待っている

ひっそりと

けれど確実に

消えない誰かの思い出を

長い溜め息と共に吐き出しながら

森の奥でみつけた古城

鍵の開けられた図書館

白い羽根と赤銅の鳥が舞う

誰かが僕らを見ている?

願いの扉は開かれ

埃だらけの図書館に

置き去りに去れた古書が1冊

金緑に縁どられた題字

『魔獣の書』

その1ページ目に刻まれた言葉

アンジエクロス

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遥か古の書物

「魔獣の書」

魔錬術士カインは印せり

アンジエクロス

アンジェクロス

空を翔ける有翼生物

その姿は魔獣にして

その心は人と違わず

我が子を呼んで

咽の千切れるまで

母なる鳥人

アンジェクロス

獣の記憶

人の定め

狭間で迷う小さき者たちよ

 
  本を読んで僕は泣いた

本を読んでセシルは泣いた

夕日だけが僕等を照らした

思い出は温もりを

僕の為に歌う擦れた声

細くて固い腕

錆びた藍の瞳

遠く懐かしい

母の面影

何が幸福かなんて

僕等にしかわからない

僕自身にもわからない

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朱の夕暮れ

空の燃えた日

進入者は森を焼き

焔が天地を駆け巡る

人と獣は引き離され

啼き声だけが空に響く

侵略と攻防

傷から流れた貴方の血

あの日も朱い空だった

僕を抱きしめた見知らぬ手

冴えた泉に浮かぶ

銀水晶の女神が祈る

歓喜と慈悲と幸

彼らの至福は

獣の犠牲を踏み台に

 
  突然に

静寂の帳は切れて

羽ばたき

ハリハリハリ

白い羽根

降り積もる

密かに

声を押し殺して啼く

羽音

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耳慣れた音に僕は走り出す

あの人が待っている

僕をずっとまっている

駆け出した森は緑

樹木は人と馴れ合わず

道行く者を傷つける

彼らが守るは森の守護者

癒えない傷を抱え

狂気にとりつかれた赤銅の鳥

貴方の元へたどり着く

必ず僕はたどり着く

約束を果たしに

 
  森に隻眼狩人

暗き獣道をひた走る

太陽に光る青銅の猟銃

纏わりついた火薬の匂い

その開いた目が見る獲物

赤銅色の狂気の鳥

狩人は復讐に燃えていた

仲間を奪われ

片目を奪われ

生きる道を奪われ

その出会いは偶然か

それとも必然か

赤銅の鳥と狩人の死闘

その場に届いた1つの声

自分を呼んで泣く子の声

瞳が焦点を結ぶ

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ソシテ イッパツノ ジュウセイ  
  手負いの鳥が空を行く

朱の夕日はぎらぎらと

鳥の背中を焼き

南の風が翼を揺らす

堕ちた鳥はそれでも飛ぶ

行く先を決めているかのように

死に場所へ

白い旅人が

母さんを手招きしてる

獣の声が消え

鳥の羽ばたきも消え

森は沈黙して

何も言葉を語らない

心臓の音だけが

不必要に耳に届く

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死んだ鳥は化石になる

積もり積もった銀水晶

アンジェクロスの亡骸

銀水晶の墓場

赤銅の墓守は見守る

今は化石化した

無数の仲間達

銀水晶になって

きらきら、きらきら

墓守の幽霊

1人ぽっちの幽霊

彼女を慰めるのは銀水晶

 
  銀水晶の墓場で

あの人は僕に言った

最後の言葉

言葉は身体を

銀の月の下

遠くなって逝く貴方

長い長い溜め息の後

囁きを胸に

愛していると

今はいない貴方へ

約束は果たされ

僕等はやっと

この冷たい巣を飛び立てる

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誰もいなくなった墓所

くすくすくす

旅人は笑う

アンジェクロス

それは

カインが創りし最初の魔獣

やがて

白き片翼の旅人は

翼をはためかせ何処かへ

 

 

長すぎて死にそうになった連作詩。ストーリーは「子供のときに魔獣に拾われて育てられていたが、後に人間に救出され

(本人達はそう思ってない)たという生い立ちの青年。彼が母親に会いに行くという親子の再開物語」です。が、私の思い

入れは主人公の青年(セイネという名前)より「片翼の天使」だったりします。(このストーリももちろん気に入っているけど)

 

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