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〜アンジェクロス セレスタ〜

 

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窓を叩く雨音に

浮上してくる記憶の些末

背中の痛み

ツバサの痛み

雨の音で眠れない

背中の痛み

ココロの痛み

赤褐色の皮と透明な骨でできた

小さなツバサが叫ぶ

真実を知りたくて

忘れたくなくて

約束を守りたくて

少女は

青年と旅に出る

過去に眠る

不可視の標

砂に揺れる

逃げ水の軌跡

明滅する意識を探って

瞬く赤銅の残像

抹消した故郷の迷夢

記憶の傍流が

緩やかに目を覚ます

 
 

忘れられた都には

禁じられた噂

uwasa

それは昔々の物語

領主の息子の物語

アンジェクロスの物語

片翼の翼の天使が

どこかで笑っている

街外れに幽霊

領主の館に魔獣の娘

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忘れられた都で

幽霊を連れた旅人が

歌っている

雨の降る夜は嫌い

背中の痛みが

埋葬したはずの言葉を

意識の水面に引きずり出す

投げつけた言葉は返らず

貴方の心を引き裂いて

流された血は何処へ流れた

何が悪かったのか

何処で間違えたのか

全ての悲劇を飲み込んで

それでもいつも

貴方は微笑む

「銀水晶の墓場」

記憶のKey word

いつも彼女が語った

安息の果ての地

 
 

記憶を失った森の奥

蔦に覆われた

銀の鳥篭

貴方の影は何処へ消えた

金の森のその奥で

指きり交わした小さな約束

必ず帰ってくるからと

信じた僕は待っているのに

今も変わらず待っているのに

貴方の姿をみつけられないまま

今日も遠い空に鳥の啼く声

暖かい寝床

湯気の昇るスープ

貴方の居ない幸せな牢獄

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金色の雨が降る

柔らかな雫を

優しい抱擁に代えて

停止した時間軸

永遠の午睡み

安息と終焉の果てる

金の森

記憶の底で呼ぶ声

導かれて

たどりついた場所

ずっと昔から

私は貴方を知っていた

銀の光に透ける

赤銅色の幻

今は生存しない

ツバサ持つ聖者の群れ

眠れる聖地

銀水晶の墓場

 
  森の最奥

緑に覆われし巨大建造物

人に捨てられた楼閣には

密やかな秘め事

真実の傷跡

時の彼方に置き忘れた

残酷な現実

森の奥でみつけた古城

鍵の開けられた図書館

白い羽根と幽霊の足音

誰かが私達を見ている?

部屋を埋め尽くす紙束

消えかけたインク文字

机の上に開かれた

『魔獣の書』

見知らぬ文字に埋もれて

残された言葉

「アンジェクロス」

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遥か古の書物

「魔獣の書」

魔錬術士カインは印せり

アンジエクロス

アンジェクロス

空を翔ける有翼生物

その姿は魔獣にして

その心は人と違わず

我が子を呼んで

咽の千切れるまで

母なる鳥人

アンジェクロス

獣の記憶

人の定め

狭間で迷う小さき者たちよ

 
  本を読んで私は泣いた

本を読んでセイネは泣いた

夕日だけが私達を照らした

微笑みは祈りより

私を見つめる

夜色の瞳

慈母と哀愁の斑

近くて遠い

母の面影

何が幸福かなんて

私にはわからない

貴方にもわからない

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白い雪の降る夜

獣は街を追われた

人に石打たれ

子供を取り上げられ

残された小さな獣

啼き声だけが夜に響く

本当は知っていた

身体に流れる貴方の血

私はアンジェクロス

街外れの幽霊

私をみてる幽霊

アンジェクロスの幽霊

白い雪降る冬の日

彼女は突然消えた

 
  突然に

静寂の帳は切れて

羽ばたき

ハリハリハリ

白い羽根

降り積もる

密かに

声を押し殺して啼く

羽音

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耳慣れた音に私は走り出す

貴方が待っている

私をずっと待っている

森は迷宮

隠された邂逅の道

人も獣も緑に飲まれ

聖なる森は眠る

その内側に

今も眠れぬ幽霊を抱いて

貴方の元へたどり着く

必ず私はたどり着く

約束を果たしに

 
  狩人は夢の中

赤銅色した夢の中

残酷な太陽は

空の頂きを通り過ぎ

ふらつく足元で

隻眼が焦点を結ぶ

狩人は復讐に燃えていた

片目を奪われ

仲間を奪われ

生きる道を奪われ

悪夢の終わり

赤銅の鳥を捕らえる

青銅の銃口

辺りに満ちる火薬の匂い

ゆっくりと引かれる

運命の歯車

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ソシテ イッパツノ ジュウセイ  
  銀の光が私を呼ぶ

赤銅の鳥が空を渡り

南の風が背中を押す

行く手に待つ

貴方に逢う為に

貴方の元へ

赤い鳥が

私を連れていってくれる

鳥だけを見ていた

空を渡る

赤銅の鳥

力強い羽音

見たことのないはずの

鳥の記憶を見ていた

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死んだ鳥は化石になる

積もり積もった銀水晶

アンジェクロスの亡骸

銀水晶の墓場

赤銅の墓守は見守る

今は化石化した

無数の仲間達

銀水晶になって

きらきら、きらきら

墓守の幽霊

1人ぽっちの幽霊

彼女を慰めるのは銀水晶

 
  銀水晶の墓場で

私は貴方に言った

最初の言葉

忘れていいから

嘘とホントの言葉

私は貴方の子

小さな囁きは

1人ぽっちの墓守へ

愛していると

永久に微笑んむ

貴方に向けて

約束は果たされ

私達はやっと

安らかな眠りにつける

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誰もいなくなった墓所

くすくすくす

旅人は笑う

アンジェクロス

それは

カインが創りし最初の魔獣

やがて

白き片翼の旅人は

翼をはためかせ何処かへ

 

 

「アンジェクロス」セレスタ編。ストーリーは「人の中で生きてきた魔獣の娘が、幼いころに会った街外れの幽霊の記憶に動

かされて、自分の出生を探る旅に出る」というもう1つの親子再開物語です。セイネ編より主人公(セレスタ)の独白っぽくな

ってしまいました。ちなみにセイネ編に出てくる「セシル」は「セレスタ」の愛称です(「残視の窓」とは無関係です)

 

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