4k42:置き去りにされた靴は誰が片付けてくれるのだろう
道路に靴が落ちている。
国道である。山陰あたりに行ったりすれば「これが国道?」と素直にびっくりできる素敵な小道を見ることもできよう(失礼)が、ここは大阪である。2車線ずつあって、中央分離帯もある、大型トラックがバンバン通る普通の国道である。
そんな良くある国道に靴が落ちているのを見たことはないだろうか。良くある光景だと思うがしかし、どういった経緯でもって靴がそこにあるのか気になってしまう。
何にしても道路に靴が落ちているという状態からあまり良いイメージは出てこない。実際に起こったことに干渉することが出来る訳でもないのに勝手な想像で深刻そうな顔を作ってもしょうがないと思う。
だから元々深刻方面に行きがちな私としては、ここはあえて間抜けなイメージを挿入しておくことにする。例えば地下足袋やペンキで汚れた安全靴などが落ちているとしたら、すぐに想像がつく。それはトラックの荷台からつるりと滑り落ちたということなのであろう。
イメージを挿入しておこう。
国道に地下足袋が落ちている。
「おう、ヒデ」
「なんすか、親方」
「ちょっと煙草買ってくっから、先に現場入ってろ」
「はい、親方」……。
「すんません、親方の地下足袋が見つからないっす」
「バカヤロオ。地下足袋は荷台の底に入れとけっていってるじゃねえか」
「ひい、すんません」と、まあこんな感じであろう。簡単なことである。がんばれよ、ヒデ。
そして国道に落ちた地下足袋は教訓として「整理整頓は大事よ」と語ってくれているはずである。国道に赤ちゃん用の靴が落ちている。
これは車中での会話が想像される。
「ばぶーばぶー」
「あーこらこら。暴れるんじゃないよ。」
「あ。この子靴脱いでる」
「ぶおおおお」
「しょうがないなあ。すぐ勝手に靴脱ぐんだから」
「んー。ぽい」あ。
子供が靴を窓から外に投げ捨ててしまうのである。(※1)
そんなときに限ってミキ八ウスの高い奴だったりしてショックかもしれない。そう言うわけで国道に落ちた赤ちゃん用の靴は教訓として「車のベビーシートに乗せた赤ちゃんの靴くらい面倒くさがらずに脱がせておきなさい」と語ってくれているはずである。まあ、靴を脱がせたら今度は靴下を脱ぐようになるのであるが。
スニーカーが国道に落ちている。
というより路肩にきちんと並べておいてあるのだ。
これはきっとこうだ。
路肩にて。男が立っているところに車が止まる。「おまたせ」
「おう、悪いな。わざわざ迎えに来てもらっちゃって。よっこらしょ」
「あ。ちょっと待って。この車土禁(土足禁止)にしてるんだよ」
「ええ?」
「悪かったな。大事に乗りたいんだよ」
「わかったよ。脱ぐからさ。よっこらしょと。しょうがないなあ。車を土足禁止って、彼女乗せるときも靴脱がせるのか? なんかおかしくないか?」
「じゃあ彼女は靴脱がなくてもオッケーにする」
「なんだそりゃ」
バタン。ブロロロロ。あ。
とかこんな感じであったのであろう。情景が目に浮かぶようだ。
そんな訳で国道に落ちた(並べられた)スニーカーは「車なんて無生物に気を使う前に彼女に気を使いなさい」と語ってくれているはずである。ちょっと筋違いだ。(※2)国道にハイヒールが落ちている。
これはきっとこんな感じ。
車中である。
「きゃあ。もう。何してんのよう」
まんざらでもなさそうである。だってほら。『何してんのよ』のあとに『う』が付いている。
「もう、やめてったらあ。ほら前見て前」
『ら』の後に『あ』がついてるのである。
「ほらあ。他の車から見えちゃうじゃないのお。やめってったらあ」
あ。
てな感じかもしれない。その場の情景は各自で想像して頂きたいのだが。
そして国道に落ちたハイヒールは「いちゃつくなら車止めてからになさい」
ときつく語ってくれているはずなのだ。ちなみに私は運転中にそんなことをする余裕などないので車の窓からハイヒールが飛び出すような運転はしたことが無いので念のため。車の中でいちゃつきもしないぞ(できないぞ)。
※1 ちなみに私の車の後部座席は進行方向左側にしかドアが無く、窓も勝手に開けられないためこのようなことは起こらない。念のため。
※2 車を無生物だからどうとか言っている割には靴を擬人化した話を書いてるし。はらたまhomeへ