4k48:Look at yourself

 

 

 普段、自分が行っているなにげない行動。
 あなたはそれら全てに理由をつける事が出来るだろうか。

「何故君はいつもそのカバンなのだ」
「これしか持っていないからだ」

「何故あなたは雨の日にも傘をささないのか」
「傘を盗まれて嫌な思いをしたくないからだ」

「何故あなたは定食にうどんを追加するのか」
「社員食堂の定食は量が少ないからだ」

「何故あなたのスーツは上下で若干柄が異なるのか」
「朝、出かける時に部屋が薄暗かったからだ」

「何故あなたはWEBに日記や駄文を書き続けているのか」
「人様に読んでもらうことで文章力の修行をしようと思い、始めてみた。たまに感想のメールなどをもらうと大量の脳内麻薬が分泌され、とても気持ちが良いのでやめられずにいるのだ」

 私は普段の行動になるべく注意を払って、いつでも人に説明が出来るように心がけている。何故ならば、

「何故君は人の自転車を盗んだりするのか」
「みんな盗んでいるからだ」

とか、

「何故君は原動機付き自転車に乗るときにヘルメットをきちんと装着せずに首にひっかけているのか」
「別に。なんとなく」

などと答えるような、日々の自分の行動に責任を持てない人間達と同じになりそうで嫌だからだ。そういう人間を私は軽蔑し、攻撃したい衝動に駆られる。実際に攻撃はしないが。
だから彼らと自分が同じであるということになってしまうと自己嫌悪に陥ってしまう。そうならないように自分を縛る必要が生じたという訳である。がんじがらめの自縛である。その割に行動が何だか間抜けであるという突っ込みは無しでお願いしたい。スーツについては充分に恥ずかしい思いをしたのである。

 さて、そうやって細かな行動の全てにおいて自分や他人を納得させられるように、理由を準備しながら生きている。そんなややこしくて鬱陶しい人間が私である。

 さらに質問に対する答え方からでも、その人がどれくらい物事に対して深く考えているかを推し量る事が出来るので、軽々しく見える答え方は避けたいところである。

「何故君は煙草の吸いがらをポイ捨てするのか」
「いや。何となく。悪いのかよ」
悪いに決まってるだろうがこのカボチャ頭め、ポイ捨てした吸いがら集めてお前の
以下略であるが、当然ながら逆ギレは最悪の手段だ。気を付けたい。

 人間は己の理解できる範疇に容易に収まり、小さなところで収まってしまうものに対しては軽蔑し、酷いものには攻撃を加えたくなるものらしい。逆に範疇を越えたものに対しては尊敬し、極めて大きく越えるものについては恐れを抱くように出来ている。

「何故君は万引きをしたのか」
「ムシャクシャしたから」

これは本人が横にいたとするならば呆れるだけでなく非常に腹が立つ。思考が単純すぎるからだ。

「何故君は人を殺したのか」
「太陽が眩しかったから」

これは本人が横にいたとしたならば非常に怖い。多分逃げる。理解不能だからだ。

 何事も程々が肝心であるようだ。軽蔑され、攻撃されるのは避けたいが不必要に恐れられてもいけない。

 そんな私であるが、ある日あっけなく自分を攻撃しなければならない事態に直面することになった。嗚呼なんと考えの無い、浅はかな私であることであろうか。

「なぜ君はお茶を入れる碗を、トレーに伏せて置いているのか」

 会社の食堂で順番待ちをする。ご飯とおかず、味噌汁を受け取るまでの間は、それらを置く為のトレーと箸、茶を入れるための碗を持って並ばなければならない。上記の質問は突然私にふりかかってきた。私の持っているトレーには碗が伏せた状態で置かれていて、それを見たYM課長に理由を聞かれたのであった。
 自己分析するならば、おそらく碗の中にほこりが入ってくるのを防ぐという意味があったのであろう。ところが考えてみれば「トレーの方が汚いやろ」という指摘の方が正しいものと思われた。碗を伏せておくことで防げるほこりの量など、全く無視して良いものであろう。数分後にはどのみち碗は上に向けられ、茶を注がれることになるのだ。
そして指摘の通りトレーは何だか汚いのである。

さらに同じ様な話で、私には家で味噌汁を碗に注ぐときなど、鍋から取った鍋蓋をその辺に伏せて置く癖があった。妻Qに指摘されて今では上に向けているのだが。既にQに対しても敗戦続きの私であった。

 なぜ鍋蓋で敗北した私が茶碗で同じ過ちを犯してしまったのか。「何となく」などという薄っぺらい回答をするわけにはいかない。無論こんな事で逆ギレしていてはいけない。素直に敗北を認めることにした。

 こういった事を指摘する側は私を軽蔑することになるかも知れない。それを避けるためにも今後は意味不明のコメントで切り返す他無い。せめて恐れてもらおう。

「何故君は毎回お茶をこぼしているのか」
「太陽が黄色かったから」

疲れてるんだね。

 

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