4k49:たぬきはRaccoon2
出張である。
東京駅に着いて、まず私がやったことは立ち食いそば/うどん店に入ることであった。
これにはちょっとした理由があって、それは日記にでも書くつもりであるのでここでは書かないのだが、腹が減っていたのと、ちょっとだけ(本当にちょっとだけ)寒かったのである。空腹と寒さ(ちょっとだけ)をその場で満たすには立ち食いそば/うどん店以外に選択肢は無かった。そういうことである。とはいえ、麺類大好きの私であるから全く気が乗らない訳ではなかった。自動券売機を前に暫し考えた末にかきあげそば(卵入り)の食券を購入したのであった。
さすがは東京駅(のホーム)の立ち食いそば/うどん店である。インターナショナルなのである。
今回はスキンヘッドの白人男性(スーツ姿)と遭遇した。
その隣に一見サラリーマン風、見かけ年齢50歳位の東洋系男性(おそらく日本人だが確定は出来ない)が立っていて、一緒にそばを食べている。今回のライバルはこのサラリーマン50歳氏であろうか。そう思いながら食券をカウンターに置いた。
ところが店の雰囲気はこのサラリーマン風見かけ50歳男性ではなく、スキンヘッドの男性が支配していた。とにかく食べっぷりがすばらしい。
先日の紳士が静ならこちらは動。ボクサーの様な前傾姿勢から肘を開いた構えですばやくそばを取り込む姿は肉食動物のそれを連想させた。足も適度に開き、猫足立ちの様にすら見える。ステップも踏んでいたかも知れない。
おおよそ早さが勝負の分かれ目となる立ち食い店にあって、私はスキンヘッド氏にその早さで圧倒された。これも越えられない人種の差なのであろうか(ホットドッグの早食いでは日本人がチャンピオンなのではなかったか)。
さらに意外なことには箸使いが正確であった。日本人の私も感心するばかりである。
さらにさらにスキンヘッド氏は最後に汁まですすり、ハンカチで頭にかいた汗を拭ってみせたのだった。芸術点はともかく技術点では高得点が期待されるフィニッシュである。スキンヘッド氏の方が先に食べ始めていたのでオーダーは不明であるが、それが最も格の高い「かけそば」であったならば満点近い得点が得られたであろう、そんな食いっぷりであった。
(念のため解説しておくと、メニューの格という点ではかけそばがおそらく最も上位ではないだろうか。ここでいう格とは言葉通りに格であり、値段のことではない。ちなみに関西ではきつねうどんといなりずしの組み合わせが上位であった筈だ。)完敗である。
どうやらそのスキンヘッド氏は英語圏の人なのであった。隣の見かけ50歳サラリーマン氏とはビジネスパートナーであろうか。二人の会話で聞き取れたのは「ロッポンギヒルズオーケー」、「グレイト」の2語のみであったのである。私の英語力の無さである。
せめて彼らが七味唐辛子のことを何と呼んでいるか聞いてみたかった。私は勝手に想像する。
『ヘイミスタア。ナイスゲーム』
ゲームだったのか。
『ああ。いい闘いだったね。ありがとう』
まずは健闘を讃えあうのである。
『ユーのスキンヘッドはスウェットを拭き取りやすくするためアルカ? モシカシテ?』
ほとんど日本語ではないか。
『ああ、そうだね。この頭は日本に来て立ち食い文化に触れたことがきっかけなんだよ。とっても具合がいいよ。君もやってみるかい?』
どこかで聞いたようなさわやかな声で吹き替えなのである。いうなればアメリカ弁である。
『ミスタアのチョップスティックさばきには完敗あるよ。ミーも脱帽ね。ボーシかぶってないけど。』
『はっはっはっは。こいつはいい。帽子をかぶってないのに脱帽だってな。こっちは脱毛だけどな。はっはっはっは。』
アメリカンジョークを日本語吹き替えにするとこうなるのである。何故駄洒落になるのかは不明であるが。
『スパイスかけたあるか』
『基本だよ基本』どっちが日本人だかわからない。
『セブンテイステッドジャパニーズスパイスはグレイトだけどこの店のスパイスはスリーテイストね。次はマイスパイスをテイクインしたいアルヨ』
『違いない。はっはっはっは』かくして再戦を約束して二人は店を出るのである。
怪しげな英語を駆使するインチキ臭い男は新宿へ。青い目の立ち食い戦士は六本木へ。ついでにそのマネージャー(失礼)も六本木へ。
帰りの新幹線に乗る前に、私は同じ店で今度はたぬきうどんを注文した。
ラクーンヌードルイースタンスタイルである。
何時いかなる時にも挑戦を受けられるよう、修行を積んでおかなければならない。何しろ私はまだかけそばの似合わない中級者なのである。しかも連戦連敗なのである。六本木ヒルズには……。
無いだろうな。立ち食いの店。それにしてもこのラクーンヌードル、80円も高いのに天カスチョビットしか入ってないアルよ。
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