4k51:読み間違え始めた

 

 

 現在の年齢が60歳以上、またはそれくらいの方々(以下、諸先輩方と表記)について気になる事がある。
 諸先輩方が決定的に以降の世代と違うと思われるところに、「商品名などの固有名詞をよく読み間違える」というのがあるように思うのである。どうだろうか。
 何故にとある単語については間違って、しかも堂々と発音なされるのか。目の前に書いてある言葉さえも、何故読み間違えてしまうのか。

 同期のMWは証言する。「ホットをポットと呼ぶ人が多いねん」と。
 私たちが勤めている会社では「ホット」という言葉を使用した商品名が存在する。仮に「ホットホット」としておく。

「もしもし。あー、あのね。おたくの商品で『ポットポット』ってあるでしょ。あれについて聞きたいんだけど」

「はい。『ホットホット』の件でございますね」

「そうや。それで『ポットポット』のことやけど」

さりげなく言い直したのに聞いてもらえないのである。
同じ間違え方を複数の人にされるというのでこれには何か訳がありそうな気がする。

最近、私の周辺で拾った実例である。

「シックスハウス症候群」

家が6つもあるのか。だからどうだというのか。

「ホレマリン」

前述のシックスハウスの人とは別の方から届いたメールのタイトルに含まれていた単語である。
これは人間の性的衝動に影響を与える環境ホルモンとか、そういう奴なのかも知れない。

ここで仮説。加齢とともに発音能力がちょっと落ちるのではないか。だから間違えてしまう。これでどうだろうか。

嗚呼、70歳を越える諸先輩方もきっと「バヤリースオレンヂ」と発音することは出来るのである。仮説は一瞬で否定されたような気がする。それにホレマリンはメールに書いてあったのだった。

思い切ってその場で間違いを指摘すると寛大なる諸先輩方はすぐに言い直してくれるので、言葉として発することが出来ないわけではない。何かの勘違いか?

身内の話で恐縮だが、実は私の母がこの「読み換え(読み間違え)」の名人である。

わが家でQPとともに楽しんでいる絵本に「ももんちゃん」シリーズというのがあるのである。可愛らしい絵本なのである。おむつ姿の半裸の主人公(ももんちゃん)が大活躍するのである。
この本も私の母にかかればこうなる。

「ほらほらPちゃん、『もんもんちゃん』読んであげようか」

もんもんしてどうするのだ。

「めんそれたーむ取って」

「めんそれーたむ」ならここに置いてありますが。

たとえば私があと30年ばかり生きながらえたとして、こういった言い間違えを頻繁に起こすようになるだろうか。こういっては何だが、ならないのではと思っていた。

「おお、懐かしいなあ。バイザープリゾメじゃないか。どこから出てきたんだ?」

「Prismって書いてあるよ、父ちゃん」

「おおそうだそうだ。プリズムプリズム。ベイダープリズムだったな」

「さっきバイザーって言ってなかったっけ?」

…いくら何でもこんなにはならないはずである。そう思いたい。

 しかしどうだろうか。

まだまだ若いはずの妻Qにもなにやら不気味な陰がちらつき始めているのである。

「マンチョンラット汚れてない?」

ランチョンマットなら汚れていないようだが、大丈夫か妻よ。

いや私にも。

「万景峰号ってなんて読むんだっけ」

「まんぎょんぼんごう」

「まんぎょんもんごう?」

「まんぎょんぼんごう!」

「まんみょんもんごう?」

「…まんにょんみょんごう?」

「…まんきょんもんごう?」

いつまでたっても読めないのである。いや、3回目くらいからはわざとである。2回は本気で間違えた。

他の4kコラムへ

はらたまhomeへ