4k59：傘を持つという選択
詳しい経緯については以前の4kに書かせてもらったのでここではあえて繰り返さないが、とにかく私は傘を持たない。
今朝も雨であったが、テレビの天気予報によると大阪は曇りのち晴れ、となっていたので迷うことなく傘を持たずに家を出た。何、小雨であったし、いつものことであるから全く問題は無い。バス停までの数百メートル、雨を楽しむだけのことである。これはやせ我慢ではない。私にとってはスタンダードなのである。本当である。いや本当なんだ信じてくれ。
家を出るときに傘を持って出るなんてことは年に数回、片手で数えられるくらいの回数しか無い出来事であり、そんな生活を10年以上も続けていると体の方が傘を認識しないようになってくるというか、かえって不都合な点も出てきてしまう。
まずうっかり傘を持って出かけてしまうと必ずどこかで忘れてきてしまう。これは大変にまずい事であり、傘を失いたくない（盗まれたくない）あまりに傘を持たないというひねくれた行動を選択している私にとっては本末転倒というか何というかそれ以前に傘はＱのものであったりするので、うっかり者の私は大層怒られるとまあそういう感じで大変にまずい事なのである。
さらにまずいこととしては、傘を持たないということが普通になっているのは私の勝手な都合であり、周囲の人にとっては奇異なものに見えてしまうということがある。
先日、雨に濡れながら歩いていた私が傘を差し出された話を日記に書いた。雨が降ったら傘をさすという普通の行動をとる人にとって、目の前に雨で濡れている人がいて、しかもそれが知り合いであり、さらに目的地が同じであることがわかっている場合の事を考えてみると……。
やはり濡れている対象（私）の事を特別嫌っているというので無い限り、傘を差し出さざるを得ない状況になってしまっているのではないかと考えるのである。
端から見れば「傘を持たない哀れな男（ずぶ濡れ）と、傘を持っているにも関わらず差しだしてあげない意地悪さん」という図の出来上がりにもなりかねないのであった。
こうして私は善良な周囲の人々に、意図しないながらもちょっとした攻撃を加えているということになりはしないか。そう考えるに至ったのである。
いや実は以前から気づいていた。気づいていたが傘は持ちたくなかった私なのだった。青い。青すぎる。そこでそろそろ傘を持ってみようと思ってみたのである。
条件付きである。
10年かけてちょっぴり大人への一歩を踏み出した私ではあるが、まだ戦いをやめると決めたわけでは無い。傘を買ったとたんに又盗まれる可能性だって無いわけではない。
そんなことになったら私は怒りのあまり何かしでかしてしまうかも知れない。テロリストとかそういうのになって家族や、友人や、周囲の人を不幸にしてしまってはいけない。
そういうわけで傘を持つ場合、絶対に傘を盗まれないようにしなければならない。ここは傘を盗む悪党共の気持ちになってその裏をついてみるのが良いように思われる。犯罪心理学という奴かこれは。奴等は大概「盗まれてもたいしたことなさそうな奴を選んで持っていきますよ」等と言ってのける。そうやって被害者の心情を想う振りをして自己を正当化しようとするのだ。その逆をついてみよう。
とても高級な傘であれば盗られにくいであろうか。
いやいやそれはまずい。何と言っても私自信が傘を持つことに慣れていないのである。高級傘は無くしたらダメージが大きい。
傘を開いてみれば大きな名前が書かれているというのはどうだろうか。
いやいやいやこれもまずい。常に何だか恥ずかしいのは私の方ではないか。
傘の内側に鉛のシートを張り付けて、とても重くするというのはどうだろうか。
これは何だか良さそうである。
上腕を鍛える事ができるし、いざというときには護身用の武器にもなる。放射線とかも防げるかも知れない。
いやいやいやいややはりこれもダメそうだ。雨があがった後は、ただの重たい棒ではないか。柄のところにトゲが沢山生えているというのはどうだろうか。
おそらく絶対に盗まれないであろう。これも武器になる。
んんんやはりダメだ。自分が使うときにどうすれば良いのか。痛いではないか。柄のところが何だかベタベタしているというのはどうだろう。
トラップである。一度掴んだらとても厭な思いをすることになるのだ。ふっふっふ。食らえ悪党共。
んんんんやはり自分で使うときにわざわざ手袋等を着用しなければならないし、その手袋を忘れてうっかり柄を掴むのは私のような気がする（ほぼ確信）。自滅。柄のところに何か呪いの言葉が書かれているというのはどうだろうか。
何だかとっても良いような気がしてきた。呪いの言葉なんて何でも良い。筆ペンか何かで「刃羅汰真埜火裟世。吐茶射夜世（はらたまのかさよ。とっちゃいやん）」とか何とか書いておけば。
ふっふっふっふっふ。食らえ悪党共。これなら不気味で盗めまい。はらたまhomeへ