4k68:私と、両親のこと

 

父は家に着くなり私の名前を呼ぶ。
私も誰が来たかと思って玄関先に行くものだから、父は毎日玄関先にまで娘が迎えに来てくれるという状況をとても好ましく思っているようだ。

私は、母にも父にもそれなりに愛されているようで、それはとても幸福なことなのだと誰かから聞いた。まあ私もそうだろうと思う。

夕食は両親と私の3人でとることが多い。これもとても幸福なことであるということは父が良く強調するところである。

私が多少偏食しがちなのを母は気にしているようだ。別に食べられないほどに嫌いなものなど無いのだけれど、好きな物から食べていくうちにお腹が満たされてきて、残りはもういいやという気分になってしまうのだ。これくらいは許して欲しいと思うのだが、駄目だろうか。

両親は、たまに私に見えないようにしながら(実は見えているのだが)おやつを食べている。私より両親の方が普段の苦労も多いことだろうし、それくらいは目をつぶってあげるから堂々と食べれば良いのにと時々思う。
私に見つかると父はあわてて「これはとても苦い食べ物なのである」と力説し、母も「これもとても辛い食べ物である。口から火を吹きそうに辛いのだ」とジェスチャーを交えて私にアピールしている。普段から辛いものが苦手な母がそれほどの思いまでして食べているおやつは一体どんな味なのだろうか。
とても気になるところである。

そういえば夕食の度に父が飲んでいる黄色い液体も気になっている。
私が飲んでいる麦茶と同じ物であると父は説明しているが、麦茶があんなに泡立ったのを私は見たことがない。泡を立ててみようと思い、麦茶の入ったボトルを振ってみた事があるが、すぐ母に叱られた。やはりあの液体は麦茶ではないようだ。色もかなり違うようであるし。
これも気になるところである。

私はお気に入りのパジャマを選んでから入浴をする。
父はわざと意地悪をして勝手にパジャマを選ぼうとするので、あわてて私が自分で選びに行く。父はこのやりとりを面白がっているふしがあって、少々困っている。

私は半開という状態を好まない。
全開もしくは全閉以外の状態というのがどうにも居心地が悪くて、両親はなぜ服の一番上のボタンを外していたり、ファスナーを半分あけた状態でいられるのか、理解に苦しむところである。
ドアや窓といったものは閉めるためにあるのだと思うので、部屋にある窓とドアは私が常に見張ることにしている。
父など、空けても閉めないことが多いのできっちりと閉めてあげるのだ。世話のかかる父だ。
母にしても、部屋を掃除するときなど窓を開けてしまうので、私がすぐに閉めてあげることにしている。

父は電気も消さない。勿体無いから不要な照明は消しておかなければならないと思うのだが、父はその辺りについて無頓着である。
結局私が消してあげたりするのであった。結構私も忙しいのだ。

私はもうすぐ「にさい」になるらしい。

私が母乳を飲むことを両親ともに気にしているようで、母乳が欲しいと言うと母は必ず「『にさい』になったらバイバイしようねえ」と私に確認を迫り、その度に行われる『ゆびきりげんまん』も何のおまじないだか解らないが随分上達した。
話を合わせて「にさいになったらねー」などと答えてはいるが、私は納得がいかない。

「K君も、Yちゃんも、もうバイバイしたんだってー。Pだけよー。まだ飲んでるの。おかしいよー」

何がおかしいのだかやはり納得がいかない。
K君やYちゃんが母乳を飲まなくなったことと、私が母乳を飲むことに何か関係があるのだろうか。説明になっていないと思うのだ。

結局話だけ「『にさい』になったらバイバイしようねー」ということにして、母乳は飲ませてもらっているのだが。

ところで、『にさい』って何?

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