4k69:試験室を片付けろ

 

 すっかり忘れていたが、今日は設備メーカーの人がやってくるのだった。
昨年、古くなった測定システムを新しくしたのだったが、どうにも気になるところがある。測定値に異常はなさそうだが、計器の一部に異常を示す表示が出ているのである。
例えるならば、パソコンで文書を作っており、問題なく作業は出来るのだが、終了時に必ずエラーメッセージが出るというような。

納入した商社の担当が機器メーカーの人を連れて来てくれたので、実際に試験室にある問題の機器を見てもらわなければならないのだった。
来客を告げる内線電話を受けた後輩のST君からその事を聞いた私は、少々面倒くさいと(自分が呼んだようなものなのだが、それは棚にあげておいて)思いながらも試験室のある建物へと向かった。

「すみませんがこちらからお願いします」
ST君が案内しているのは資材搬入用の裏口なのだが、開発業務が行われている建物を行ったり来たりしてもらうのも何なので、それはそれで良い。
先回りしてシャッターを開けながら、私は大事な事を思い出した。

試験室は片づいていないのである。ST君、片づけておいてくれただろうか。今ごろ思い出すなよ自分。

「ごめーん。今、部屋散らかってるから」

とか何とか言ってお帰り頂こうか。いやちょっと待て、呼んだのは私ではなかったか。

かくなる上は、先回りして試験室に入り、恥ずかしいものを隠しておくのだ。そうだそうだそれがよい。

試験室に駆け込んだ私は、まずこいつをどうしようかと考える。

ダーツゲームである。

何故こんなものが試験室にあるのだ。いや実際に私も矢を投げるのが少しは巧くなったなどと思っているのであるが(やるなよ)、それどころではない。こいつを取り外さねば。あと数十秒ほどで一行はST君に案内され、この部屋に入ってくるのだ。嗚呼外さないと。誰だよ結婚式の二次会でこんな商品をビンゴで当てたはいいが、置き場所に困ってこんなところに持ってきた奴は。
グチっている場合ではない。早くこのダーツのボードを外さなければ。たしかネジを付けて、それに引っかけてあるんだよな。
ん。ネジを外さないと。ダーツが外せないじゃないか。
ああドライバードライバー。ドライバーはどこだー。

あ。あった。良かったドライバーあって。

マイナスドライバーなのであった。

ネジはプラス。こいつでネジを外すことは出来ないのであった。

階段を登っている足音が聞こえる。ああもう駄目だ。

「失礼しまーす」
「いやあすいませんゴチャゴチャしていまして」
「いえいえ」

ダーツは見える位置に掛かったままなのであった。もはや致し方あるまい。

設備機器調査団(勝手に命名)が部屋に入った時、私はさらに隠さなければならないものを発見した。

内開きの入り口ドア内側には「かんのさん」のポスターが貼ってあるのである。

うああいかんいかんぞ。これでは高校生の部室ではないか。
幸い設備機器調査団は部屋の奥にある測定機器に関する用事で来ているので、振り返らない限りは入り口ドアの内側を見ることはない。
今だ。
私は何気ない動きで入り口ドアに近づき、ドアを内側に向かって開けた状態で固定した。ふう。これで大丈夫。
んもう。誰だよ保険の人にポスターもらったはいいが、貼る場所に

さて、設備機器は数本の測定子とノートPCにつながっており、使用するためには全てのスイッチを入れ、PCを起動させなければならない。

ノートPCの壁紙は「SHIHOさん」なのであった。ほんわかコーヒーを飲む横顔を見てほんわかしているST君の姿が目に浮かぶ。業務に集中したまえよ、ST君。
まあ壁紙は良かった。水着とかじゃなくて。

「えーここのランプがですねえ」
「はあ、これは測定子側の測定レンジと本体側のレンジの差から生じておりましてですね……」

本題について話始めたところで起動するスクリーンセーバー。

今度は「きくかわさん」である。

一分でスクリーンセーバー起動とは早すぎやしないか。
あわわわ、という感じで適当なキーを連打してしまった自分が悲しい。とほほ。

測定機器自体には大きな問題が無かったようだ。まあ良かった。しかし部屋片づけときなさいよ。

いや自分に言ってるんですよ。これ。

他の4kへ

はらたまhomeへ