4k81:両腕に時計その1

 

先日、通勤中のことである。

地下鉄の車内で両腕に腕時計を着けている男性を見かけた。

単機能の品、それも全く同じ機能のものを複数同時に身につけることに一体なんの意味があるのか、私にはどうにも理解できない行為である。

釣れもしないのに釣竿を沢山所有していたり、PDAなどと呼ばれる個人データ管理機能を持つ電子機器を複数台所有していたりする人種がいることから考えてみれば、同時に二つの腕時計を身につけるという人種がいても不思議ではないのかも知れない。
しかし、その男性の意図するところがやはり今ひとつ理解できないのでもう少し考えてみることにした。

左右の腕に何かしらの意味があって、それぞれに対応した機能を時計に求めているということになれば、両腕に時計が必要になるかもしれない。
利き腕と反対側の腕には、電波時計やクォーツなど正確さへの要求にこたえるべく設計された機種を選定する。そうすることで何かの作業を利き腕で行いながら時刻を把握することができる。これは通常の使い方であると考えて良いだろう。
そして利き腕側にはとにかく御洒落な時計を装着する。利き腕はより多くの動作を行うであろうことが予想されるので、そちら側につけた時計は必然的に多くの人に見られることになる。お洒落な時計の役割から考えるとこれは正しい選択であるといえるのかも知れない。

かたや実用かたやお洒落。
む。動機として弱いか。ならばもう少し考えてみよう。

はらイタ(と名付けられた当サイトが指定する掲示板)にて、あらき氏が指摘したように、時差の生じる2つの地域にまたがって活動されている人なのかも知れない。例えば左腕は国内、右腕は米国時間なのである。最近でこそ一つの時計でも確認できる世界時計機能だが、やはり両腕に時計を着けている時の閲覧性にはかなうまい。
これならどうだ。納得。

いや駄目。納得したけどしない。
(そういうことにしておかないとこの4kはここで終わりになってしまう)

しかし、ここまで考えてみてもどうも釈然としない。
見た目の異様さに比べて、あまりにも考え方が普通すぎるのだ。もっとおかしな思考でもって考察しなければならないのではないか。

スイッチオン。「おかしな思考」で考えてみよう。

まず、スパイもしくはテロリストである可能性。
「よし。全員時計を合 わせろ」
という奴である。
秒単位の同時多発的なプロジェクトに参加する場合は、メンバー内で時刻を統一しておかなければならないだろう。普段お気に入りの時計を使えば良い話なのだがそこはそれ、メンバー内でも立場が弱かったりすると、ちょっと時刻がズレているリーダーの時計に無理矢理合わせることを強制されたりしてしまうのであった。何故時刻がずれている時計に合わせなければならないのか。僕の時計が正確なのに。テロリストもつらいよ。とほほ。
仕方がなく、お気に入りの時計は左腕に、テロ計画用の時計は右腕につけているのだった。

だった、って。
テロリストが目立っちゃ駄目でしょうに。やっぱりつらいよ。

目立つ。
そうだ、目立つ為ならば納得できる。あとは目立ちたい理由。

そう。アリバイ作りかもしれない。

普段から両腕に時計を着けておく。
周囲の人間からは「変わり者」として認識されるであろう。これは間違いない。
手品でよく利用されるテクニックである。「両腕に時計」という出で立ちの印象が強いため、その人物を見る周辺の人々の意識には「両腕に時計」が強烈に印象づけられ。その他の特徴が希薄になっていく。

そして何らかの行動を起こす。
同時刻、離れた場所には両腕に時計をした仲間がなにげなく地下鉄に乗っているのだ。
これでアリバイ成立。取り調べを受けてもへっちゃらなのである。

「○月○日、○時はどこにいた?」
「だから言ってるじゃないすか。地下鉄に乗っていたって」
「嘘をつけ! お前が地下鉄に乗っていたと誰が証明できる!」


「デカ長! 目撃証言が複数ありました」
「なに? そんなはずは」

「『両腕に時計をした男』について書かれたweb日記を見つけました」

当サイトなのである。
ところで警視庁には今時「デカ長」って呼ばれている人、いるんだろうか。

「こんな下らぬことをわざわざインターネットに……」
「いやあ。探すのに苦労しましたよ。マイナーなサイトなもんですから」

「むう。両腕に時計をした男なんてそうそういるものではないし……」
「ほうら、だから言ったじゃねえですか旦那。俺がやったんじゃないって」


すいませんデカ長。私、時計ばかり見ていて人相とか全然覚えていないっす。それでもいいですか。

 

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