トカゲのシッポ切り


2004年6月11日(金曜日)午前11時半頃、新潟大学工学部正面玄関前の歩道を歩いていたとき、草むらから歩道を横断して植え込みのほうへと進む、小さな影を見つけた。ちょっと見はカナヘビのようだが、近づいてみると、体に艶の少ない痩せたトカゲ(ニホントカゲ)であった。尾には幼体特有の虹色、というよりは青色の光沢が見当たらず、体の大きさから判断しても、性成熟したばかりのオスの個体のようであった。

このトカゲは、なぜか植え込みの周りにあるコンクリートの囲いの上をウロチョロしていて、私が近づいても逃げようとしないので、せっかくだから捕まえて観察することにした。ところが、体を押さえた瞬間、急に体をくねらせて暴れだし、尾を自ら切ってしまった(1)。

切れて歩道の上に落ちたトカゲの尾は、それ自体がまるで生き物であるかのように、クネクネと、本当によく動いていた。「肝心の本体のほうは?」と言えば、尾を自切すると一目散に逃げ出し、植え込みの中へと隠れてしまっていた。私に時間的余裕があれば、このまま尾が動かなくなるまで観察を続けていたのかもしれないが、5分間くらいで観察を諦め、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。大学構内に生息している野鳥の何れかが、切れた尾の動きに興味を示し、きっと食べてくれたに違いない。

その一方で、主にアメリカ大陸に生息するプレトドン科(family Plethodontidae)のサンショウウオの仲間にも、敵(捕食者)に襲われたとき、まるでトカゲのように尾を自切する種が存在する(例えば、次の属: Batrachoseps, Bolitoglossa, Chiropterotriton, Pseudoeurycea)。これらのサンショウウオでは、尾を自切した後、尾の付け根に貯蔵されている脂肪組織(adipose tissue)が、尾を完全に再生するためのエネルギーとして利用されているようである。しかし、こういった論文を読んでいても、なかなか答えを見つけることが出来ないのが「どれくらいの時間、切れた尾が動くものなのか?」という、しごく単純な疑問である。プレトドン科のサンショウウオの尾の自切は、現地に一度お邪魔し、自分の目で見て確かめてみたいもののひとつである。

ところで、私が植え込みの脇にしゃがみ込んでトカゲを観察している姿を、工学部の正面玄関から出て来た10数名の学生さんが変な目で見ていたようであるが、決して怪しい者ではないから、安心して下さいね。

[脚注]
(1) これまで何10回となく素手で捕まえているが、トカゲの尾が自切する瞬間を見たのは、もしかしたら今回が初めてかもしれない。どうしてだろう? しばらく捕まえていないうちに、捕まえるのが下手くそになってしまったのかなあ......。


Copyright 2004 Masato Hasumi, Dr. Sci. All rights reserved.
| Top Page |