「世界初」という欺瞞


「世界初」という宣伝には、違和感を覚えることが多い。

例えば、動物園や水族館などが「この種の飼育下での繁殖に世界で初めて成功した」とプレスリリースするようなときは、そういった宣伝には踊らされずに「これが本当に素晴らしいことなのかどうか?(単に自画自賛しているだけではないのか?)」という、客観的価値判断をすることが肝要である(1)。

絶滅の危機に瀕している種(絶滅危惧種)で、飼育下での繁殖を試みた世界中の誰もが失敗を繰り返しているなかで、その動物園なり水族館なりが初めて繁殖に成功したのであれば、それは絶賛されてしかるべきものであろう。しかし、誰もやろうとしない在り来たりの普通種で「世界で初めて」飼育下での繁殖が成功したからといって、その種は自然界では当たり前のように繁殖しているわけである。このような欺瞞が世間に通用するのであれば、地球上に何千何万といる動物種のそれぞれで、飼育下での繁殖が成功する度に「世界初」という形容詞が冠されることになってしまう。

世の中には、おかしなことがたくさんあるけれども、それが「おかしい」ということに誰もが気づくべきである。

[脚注]
(1) クロサンショウウオの雌雄の成体で、生殖器官の周年変化(毎月の変化)を観察し、その成果を英語の学術論文にしたとき、私自身は「サンショウウオ科で初めて」という言葉を使用するだけに留めている。1985年までサンショウウオ科では、一年を通して成体を飼育し、繁殖可能な状態にまで持っていくことは困難とされていたわけだから、この成功を「世界初」と銘打っても良かったのだが、さすがに私には「おこがましくて」そうは書けなかった。


Copyright 2002 Masato Hasumi, Dr. Sci. All rights reserved.
| Top Page |