軍足


軍足が、正式名なのかどうかは分からない。足の指の部分が5本とも分離・独立した靴下で、軍手に対する軍足である。別に愛用しているわけではない。ただ、あるから履いているだけである。軍足を履いていることを、変に誤解している人が多いようなので、その理由を述べておく必要があるのかもしれない(1)。

1995年から1997年まで、私は、釧路湿原でキタサンショウウオの空間分布のフェノロジーの調査をおこなっていた。例年だと、釧路市大楽毛(おたのしけ)地区では、この種の繁殖期は5月の連休が明けた時点で終了するはずであった。しかし、1997年の繁殖期は予定より2週間以上も延びてしまったのである(羽角・神田, 1998; その年は、実に46日間も繁殖期が続いたことになる)。必然的に、私も滞在期間を延長せざるを得ず(2)、その間の宿泊場所や着替え類の確保、帰路のカーフェリーの変更手続き、等々に奔走しなければならなかった(3)。

調査地が湿原であることから分かるように、水に浸かっても大丈夫な服装で調査をおこなうのが、普通のやり方である。このとき活躍するのが、胸までの覆いがある「胴長(どうなが)」なのである。そして、この胴長は、足袋(たび)のように親指が中で分かれているので、普通の靴下では履けない代物でもあった。いつもは足袋のような靴下を調査日数分だけ用意していき、毎朝、新しいものと交換することにしていた。しかし、それと同じものを釧路で購入しようとしたとき、安売りの量販店は、なぜか軍足しか取り扱っていなかったのである。

私としては、親指が分かれていれば、足袋だろうが、軍足だろうが、どちらでも構わない。そういう考えで、この軍足を調査日数の延長分「5足×3束=15足」も購入してしまったのだが、私は物持ちがいいので未だに履いているというのが、ちまたに広まっている噂の真相である。

私が何を履こうが、どんな服装をしようが、そのことで誰に迷惑を掛けているわけでもない。あなた方には関係のないことである。そっとしておいて欲しい。

[脚注]
(1) これまで私は、水虫(白癬菌)に感染したことはない。これだけは、はっきりと言っておく。
(2) 私の身分は研究生である。今回のように、必要なときは気軽に滞在期間を延ばせるのが、常勤の職に就いていない者の強みでもある。
(3) 釧路湿原国立公園「温根内ビジターセンター」は、遠路はるばる来釧する研究者のために、簡易宿泊設備を提供している。しかし「一回の調査で宿泊できる期間が一週間以内」という規則があるため、それ以外の日は、共同研究者の神田房行さん(北海道教育大学釧路校教授)の研究室をお借りし、ソファーにシュラフ(寝袋)で寝泊まりしていた。幸いなことに、体育館にはシャワー室があり、神田さんの計らいで自由に使わせてもらえた。

羽角正人・神田房行. 1998. キタサンショウウオの繁殖期間. 環境教育研究 1(1): 157-159.


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