真夏の霜焼け


博士課程の大学院生の頃、暑い盛りの8月に、両手が霜焼けになったことがある。

初めは、なぜ手が痒いのか、かいもく見当が付かなかった。両手が赤く膨れ上がり、余りにも痒いので、大学の保健管理センターで診てもらったところ、医者は「ははあ〜、珍しい。これは霜焼けですな」と、即座に診断を下したのであった。

1989年7月21日から8月8日までの19日間、8℃に設定された低温室に一日毎に約10時間こもり、クロサンショウウオへのプロラクチン(脳下垂体主葉ホルモン)投与の実験をしていた(Hasumi and Iwasawa, 1992)。そのとき防寒は顔と両手を除いて完璧だったし、それほど低くはない8℃という温度に油断もしていた。しかし、真夏の外気温が連日30℃を軽く超えていたので、温度較差のある低温室に長時間こもるという行為は、たった8℃でも、人間の皮膚が霜焼けになる条件を兼ね備えていたらしい(1)。

幼少期の頃はともかく、大人になってからは、真冬でも霜焼けになったことはなかったし、後にも先にもそのときだけである。長い人生の中では、真夏の霜焼けも、きっと良い思い出になることだろう。

[脚注]
(1) 「霜焼けは『血行不良』によるものなので、真夏でも霜焼けになる場合があるが、それは極めて珍しい」という医者の話である。一般の人々がなかなか出来ない経験をすることが出来るのも、研究者ならでは(?)といったところか......。


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