スタッドレスタイヤ


例年、5月の半ば過ぎまでは、自動車(くるま)にスタッドレスタイヤを履かせている。地元の新潟市にいるだけなら、雪も降らないから、3月中旬頃にはノーマルタイヤと「交換(1)」することが可能である。

でも私は春先に、両生類の野外調査で、あちこちの山岳地帯に行く機会が多いので、スタッドレスタイヤは必需品である。この時期、ノーマルタイヤで調査に行くのは、無謀というものであろう。だから私は、春の調査が終わるまで、タイヤを交換することは滅多にない。このように、春先は万全を期して調査に当たっているのだが、晩秋の頃の天気は読めず、ノーマルタイヤのままで失敗したことがある。

2002年11月2〜4日、いつものメンバーで(2)、長野県白馬村のヒダサンショウウオとハクバサンショウウオの調査をした。初日の2日は、新潟から糸魚川(いといがわ)までは大荒れの天気で、国道8号線の能生(のう)町付近では、路面に霰(あられ)が降り積もっていた。「これは、どうなるんだろう」という不安感を抱きながら走り続けたのだが、姫川を過ぎて小谷(おたり)村に入ったあたりから晴れていて「調査できる」と思ったのも束の間、国道148号線を外れると岩岳方面は見渡す限りの雪であった。林床部に10〜20cmの積雪のある中、ポイントポイントで調査をすれど、その日は結局1匹も見つけることは叶わなかった。

3日は雨の降る中、場所を変えて調査したところ、ヒダサンショウウオの越冬移動個体10数匹とハクバサンショウウオのメスとオス2匹に出会うことが出来た。ところが3日の夜から4日の朝に掛けて、季節外れのドカ雪が降り、約40cmの積雪になってしまった。当然、その日は調査もできない。それどころか、常宿にしている岸冨士夫さん経営のヒュッテ「星と嵐」は、夜中、雪の重みで送電線が切れて停電し、復旧したのは午前9時を回ったところであった。この復旧作業のため、中部電力のチェーンを着けた四輪駆動車が何台も林道を上っていったおかげで、ノーマルタイヤを履かせた自動車でも通行可能な路面が形成され、それを通って何とか私は、国道148号線まで出ることが出来た次第である(3)。

これとは別に、5月の半ば過ぎにタイヤを交換したばっかりに、ヒヤッとした経験もある。

1997年5月30日午前4時10分、自動車を搭載した新日本海フェリーが小樽港に到着した後、いつものように自動車を釧路湿原に向けて走らせていた。途中、標高約1,000mの日勝峠を越えるのだが、そのとき10合目付近の道路上には、圧雪に近いシャーベット状の積雪が延々と続いていた。「トンネルを抜けると、急に積雪がある」という危険な路面状況で、とにかくブレーキを踏まないように、またブレーキを踏む状況を創り出さないように気を付けながら、その場を何とか切り抜けて山を下りていった。

野外調査は、天候との勝負でもある。天気概況を読み取る能力が、必要とされるのかもしれない。

[脚注]
(1) 正式には「交換」でなく「脱着」と称するらしい。
(2) 懸川雅市さん(東京都台東区)、齊川祐子さん(長野県松本市)、その他。
(3) ちなみに2002年11月4日の夜は、新潟市でも初雪が降り、新潟地方気象台による1886年の観測開始以来、最も早い初雪となった(平年より20日ほど早い)。


Copyright 2003 Masato Hasumi, Dr. Sci. All rights reserved.
| Top Page |