有尾両生類(サンショウウオ類)の「全般」に関する質問(8)

>I hope you don’t mind me getting in touch. I am working on an exciting new BBC natural history television series about Japan. We hope to feature both pure animal behaviour stories, as well as stories that document the relationship between Japanese people, their landscape and wildlife. We will start filming in the next couple of months and will continue to film until the end of 2014. Each episode will be an hour long and the 3 part series will transmit in 2015 on the BBC in the UK. Also, our BBC Worldwide partners will be distributing the films to an international audience. I am looking into filming the Siberian salamander in Hokkaido. I see that you have studied them in Russia so I was hoping I might be able to ask you a few questions? We would really like to film the hibernation of the salamander - more specifically the thawing/defrosting of the salamander in spring and hopefully also the freezing in autumn. This sounds very difficult, especially somewhere like the shitsugen in Kushiro where there aren't many left. In an ideal situation we would prefer to use a wild individual that is currently hibernating but place him in a controlled room for filming, and then release it back in the wild. We are looking for possible back-ups for this and I was wondering if you know of anywhere where they have these salamanders in a lab? Also, one concern that I have, is - is it possible to get a salamander to freeze and defrost in a lab? Or has this never been done? (2014年4月30日)

Thank you for your queries. Although I have a question about how you have known of me, I understand the worldwide circumstances of Salamandrella keyserlingii well. So, I believe I can answer your queries. First, because autumnal-nonbreeding immigration towards terrestrial hibernacula near a breeding location would occur at Kushiro (Hasumi and Kanda 2007), you will be able to find wild individuals during hibernation around the breeding location. However, I do not know any person who is raring this species in the laboratory in Japan. Next, natural freezing tolerance is well known in this species (see Hasumi et al. 2014), and there are some studies to freeze and defrost individuals of this species. Since the original paper dealing with natural freezing tolerance of S. keyserlingii is written in Russian, I provide you another paper of its sibling species written in English (Berman et al. 2010). I hope you will find these papers useful to your film work.
・Berman, D. I., A. N. Leirikh, and E. N. Meshcheryakova. 2010. The schrenck newt (Salamandrella schrenckii, Amphibia, Caudata, Hynobiidae) is the second amphibian that withstands extremely low temperatures. Doklady Biological Sciences 431: 131-134.

(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2014年3月21日付の回答である。


>Many thanks for your reply, it was extremely useful for us and it was nice getting some answers to questions I have been trying to understand for a while. At the moment we are not sure whether this sequence will make it into the film or not, because a big issue for us is animal welfare. Your studies have been on freezing tolerance it seems - have you had the experience of freezing and defrosting them in a lab yourself? Apparently there are some individuals at Kushiro City Museum but they are currently not hibernating. To film them hibernating we would like to do it with someone who has experience in making sure no animals will be harmed or die during the process, and if you would be able to help us out, maybe with one of the Kushiro city animals that would work really well for us. How do you feel about this? Would you have any other suggestions for how we might be able to make this work? (2014年4月30日)

In S. keyserlingii, actually the problem of animal welfare is a big issue, but a more problematic issue is that this species is protected to be designated as a natural monument by the Government of Hokkaido Prefecture. I am very sorry to say that I have not yet experienced to freeze and defrost individuals of this species in my laboratory. I have heard of no Japanese researchers to do so. If you want to learn a freezing and defrosting method, please contact Dr. Berman. He is undoubtedly the best scientist who performs this work although he is nearly 80 years old.

(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2014年3月25日付の回答である。


>アホロートルについて正しい知識を得るべく調べておりましたら、羽角先生のホームページに辿り着きました。質問があるのですが、ご存じでしたらご教示下さい。私は現在、アホロートルを飼育しております。なぜアホロートルは変態しないのか、インターネットで調べたところ「アホロートルが自然界で棲む湖は水温が低く、かつヨウ素が少ないため、変態に必要なサイロキシンが生成できず変態できない」というのが通説になっているようでした。そこで疑問を持ったのですが、日本で飼育されている個体は、水温も低くなく他のサンショウウオが変態できる水質で飼われているにも関わらず、なぜほとんどが変態しないのでしょうか? それから、ヨウ素と変態との関わりについて気になったのですが、市販されている「ウーパールーパーの餌」の類の多くは、材料に海藻類が使われていることが分かりました。海藻類はヨウ素を多く含んでいると思うのですが、自然界で海藻を食べることのないアホロートルにこれらの餌を与えることは、ヨウ素の過剰摂取になり、変態を促進してしまうようなことはないのでしょうか? (2013年7月23日)

まず最初のご質問ですが、基本的にアホロートル(axolotl)は変態しません。アホロートルに両生類の変態を促進する甲状腺ホルモン(thyroid hormone)を生成する能力があり、なおかつ甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone = thyrotropin)も正常に働くことから、アホロートルが変態しないのは甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone)に問題があるからだと考えられています(for details see Tompkins, 1978)。その証拠に、甲状腺ホルモンを含む飼育水で育てると、アホロートルは変態します(e.g., Page et al., 2009)。つまり、アホロートルが飼育されている水温が高くとも、甲状腺ホルモンが作用しなければ、変態しないのが普通です。
・Tompkins, R. (1978) Genic control of axolotl metamorphosis. American Zoologist 18: 313-319.
・Page, R. B., J. R. Monaghan, A. W. Walker & S. R. Voss (2009) A model of transcriptional and morphological changes during thyroid hormone-induced metamorphosis of the axolotl. General and Comparative Endocrinology 162: 219-232.

その一方で、アホロートルが棲息するソチミルコ(Xochimilco)湖は、年間を通しての水温が10℃以下と低く、湖内にヨウ素も少ないことから、甲状腺ホルモンが生成できないと一般的には考えられていて、これらが変態しない要因とされているようです(日本人の悪い癖で、この湖の名称が「ソチミル湖」だと思い込んでいる人が多いようですが、正しくは「ソチミルコ湖」です)。しかし、世間一般に流布されている、それらの要因は、150年にわたる研究者の様々な実験によって、アホロートルが「強制的に」変態させられた実験結果に基づいたものではなく「たぶん自然界では、そうだろう」という推測に過ぎないのです。

問題は、ウーパールーパーとして市場に流通している個体の中に、アホロートル以外のペドモルフォシス(paedomorphosis: paedo = child, morph = form)をする種(e.g., Ambystoma tigrinum)が含まれていることです。これらの種は、アホロートルとは異なって容易に、棲息する環境条件の違いによって、また飼育条件の違いによって、幼生の形態を保ったまま性成熟したり、性成熟した次の年に変態したりします(世間一般では「トラフサンショウウオ科(family Ambystomatidae)の種で、幼形成熟(neoteny)する個体をアホロートルと呼ぶ」という誤解が数多く流布されていますが、学術的には「メキシコサンショウウオ(Ambystoma mexicanum)で、幼形成熟する個体をアホロートルと呼ぶ」が正解です)。

次に二つ目のご質問に関してですが、市販されている「ウーパールーパーの餌」の材料に海草類が使われていることは、今回、初めて知りました(調べてみると、海藻粉末が配合されているようですね)。これは、程度にもよりますが、余り良くないと思います。なぜなら、海草類に多く含まれるヨウ素の過剰摂取は、アホロートル以外のペドモルフォシスをする種の変態促進どころか、甲状腺の濾胞の肥大から来る病気(ヒトで言えばバセドー病)を引き起こす原因になってしまうからです。しかし、配合されている海藻粉末は、甲状腺に影響を及ぼさないほどの微量だと思いますので、それほど気にする必要は無いでしょう。

アホロートルを研究用に飼育している場合、一般にはサケ・マス飼育用の配合飼料が餌として与えられていて、これらに海草類は使われておりません(緑藻類の天然色素である、アスタキサンチンやカンタキサンチンなどは、発色を良くするための飼料添加物として配合されているようですが......)。市販されているウーパールーパーの餌で、海藻粉末の使用が気になるようでしたら、サケ・マス飼育用の配合飼料を与えてみて下さい。

(補足): これは2013年7月16日付の回答である。


>ご回答くださり、有り難うございました。とてもよく分かりました。実はあとひとつ、気になっていることがあるのです。私はこれまで4匹のアホロートルを飼育しましたが、そのうちの2匹が変態の兆候と思われるもの(外鰓が小さくなってくる、ヒレがなくなってくる、目が飛び出して顔が扁平になる、薄皮のはがれたようなものが体に付着している等)を見せた後、死亡しております。10cm弱のマーブルの個体と、5cmのゴールデンの個体です(マーブルの死亡する数日前の画像を添付いたしました)。購入したときは2匹とも見た目に全く問題はありませんでしたが、マーブルは購入して半年、ゴールデンは2ヶ月で急に体に変化があらわれ、弱ってゆきました。飼育環境ですが、30cm水槽に大磯砂での底面濾過、エサは2日おきに冷凍赤虫をメインで与え、たまに乾燥川エビや人工飼料を与えていました。そのとき私は、これらのアホロートルが変態不全で死亡したのではないかと思い、他にも同じような状態で亡くなったアホロートルがいるかどうか、アホロートルの飼育ブログを書かれている10名くらいの方々に質問をしてみました。すると、そのうち6名の方々が同じような症状でアホロートルを亡くした経験があるとのことでした(うち1名の方のアホロートルは、完全に変態してしばらく生きた後に死亡)。アホロートルの色の種類や大きさ、飼育環境、地域などはそれぞれ異なりましたが、死亡したのは皆さんここ2年以内ということでした。変態しようとしたアホロートルが結構いるのだということに驚いたのですが、これはアホロートルに何が起きているのでしょうか? お店で「ウーパールーパー」として売られていた中に紛れていた、幼形進化する別のサラマンダーだったのでしょうか? (2013年7月23日)

先の回答でも申し上げましたように、(○○さんが示されたような飼育環境で)普通に飼育していれば、アホロートル(axolotl = Ambystoma mexicanum)が変態することはありません。○○さんが書かれたような変態の兆候(外鰓の退化、尾ひれの消失、眼球の突出、脱皮[薄皮のはがれたようなものが体に付着している現象]、等々)が飼育個体に観られたのであれば、考えられることはただひとつです。

それらの個体はアホロートルではなく、トラフサンショウウオ科でペドモルフォシス(あえて訳せば「幼形保持」[どこかの辞書にある「幼形進化」という訳語には違和感があって、この用語は使わないことにしています])をする他の種(e.g., A. talpoideum, A. tigrinum)の幼生が、ウーパールーパーとして販売されていた可能性が高いと思います(何度も言うようですが、ネット上には「幼形成熟するトラフサンショウウオ科の個体はアホロートルと呼ばれる」といった誤った記述が多く見られます)。

このように断言する根拠は、ウーパールーパーを飼育・販売している方々が「ウーパールーパーとアホロートルは同じものではない」という言葉を当たり前のように口にすることです。彼らとしては「我々はアホロートルを販売しているわけではなく、ウーパールーパーを販売している。だから、ウーパールーパーが変態しても、変態する途中で死亡しても、我々に責任は無い」と、初めから買い手に対して予防線を張っているのだろうと思います(○○さんの場合、変態不全で死亡というよりも、変態する途中で溺れて死亡した可能性があります)。

(補足): これは2013年7月17日付の回答である。トラフサンショウウオ科の中でペドモルフォシスをする個体が、すべてアホロートルと呼ばれているものだと信じ込んで、飼育・販売している方々も少なくないようである。


>私の調査員の知り合いに、静岡県で陸生貝類を専門に調査している○○さんという人がいます。その人が毎年、陸貝を採集している場所にアカイシサンショウウオと思われるサンショウウオが生息しているという話を聞いて、静岡県浜松市天竜区水窪町の××山という場所に調査に行って来ました。山の頂上付近(標高約1,350m)のブナ林でアカイシサンショウウオの成体と思われる個体を1個体発見しました。全長は126mm、尾長は56mmです。採集場所はブナ林内にあるブナの倒木の下で、木を引っくり返したら土の上にいました。沢は採集場所から100〜200mほど離れている場所にありましたが、水は流れていませんでした。赤石山脈に属してる山ではありませんが、形態的特徴からアカイシサンショウウオのような気がします。今回の調査では1個体しか発見できませんでしたが、○○さんは過去に毎年のように同じ場所で複数個体発見されているそうです。私一人では同定できかねますので「羽角様に今回発見した個体写真を見てもらいたい」と思い、メールしました。写真データが少し重かったため、このメールとは別にデータ便にて写真データを送らせていただきました。お手数をおかけしますが、確認していただけないでしょうか。よろしくお願いします。 (2013年4月25日)

「別メールでお知らせいただいた写真のサンショウウオ成体が、アカイシサンショウウオかどうか?」という点ですが、お写真を拝見した限りでは、おそらくアカイシサンショウウオで間違いないだろうと思います。「おそらく」と言葉を濁すのは、サンショウウオ属の場合、形態的特徴だけで種を同定するのが困難とされているからです。しかしながら、発見場所は、この種の分布域とも重なっているようですし、他に適合する種が見当たらないようです(メールには「(発見場所が)赤石山脈に属する山ではない」と書いてありますが、ここで示されている「水窪町」という地名は、アカイシサンショウウオの分布域として有名です[様々な文献に出ています])。このサンショウウオは、私の記憶では、確か卵嚢も幼生も発見されていない、つまり産卵場所が見つかっておらず、従って止水繁殖性なのか、流水繁殖性なのかも分かっていなかったはずです。ですから、近くに沢が見つかったとしても、そこで繁殖しているとは限らないわけです。おそらく、ハコネサンショウウオと似たような繁殖生態を採っているのだろうと推察されますので、是非、アカイシサンショウウオの産卵場所を発見して下さい。

(補足): 諸般の事情で更新が遅れたが、これは2012年12月3日付の回答である。


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