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白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。

今月の一冊は、これ!


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十勝どんころ少年記

小坂 国男著
北海道新聞社刊(1983年10月31日発行)

 十勝の大自然の中でたくましく生きる“どんころ少年”の泣き笑い絵物語です。「“どんころ”とは豆落としのときに使う太い丸太のことである。ナラ、カシワなど重くて堅い木を選び、直径1メートル、長さ1メートル30くらいに切り、中心の両側に心棒を付けて馬にひかせて豆の上を転がす農具の一種。(中略)どんころ… それは大自然が与えてくれた北の地の人生なのだ どんころは、定められた道もない ふらりふらり転がり 傷だらけになっても 所かまわず転がり続け 冷たい大地を肌で知る…。置き去りにされたどんころは じっと耐え 遠く小さな 春を待つ…」(小坂国男)
 大正元年、十勝国河西郡大字上帯広村に開拓に入った祖父母、父親の生活を語る「入植」から、著者自身の社会への旅立ちを綴る「人間賛歌」まで、7章に分けて十勝の開拓村の日々を描いています。農家に生まれた少年の成長記録とも言えましょうか。

 前回紹介した「いなかの図鑑」とともに、私には懐かしい一冊です。この本の中には、私が過ごした田舎そのものがあり、共に遊んだ腕白仲間が生きています。ボロは着てても心は錦、貧しくても底抜けに明るく、快活だった仲間たち。高く青く澄み切った空と共に彼らの笑顔を思い浮かばせます。
 多くの“どんころ少年”らと過ごした日々は、私にとって宝物。それにしても、宝物の日々以降、私は何と多くのものを失くしてしまったことか。本を手にする度に思い知らされるのです。

 「…大自然の開拓小屋に育った私たちは、…ひと粒の豆を見ても、またすべての物が尊く思われるのです。自然を切り離した教育になれば後はお金そのものに感謝するしかなく、ややもすれば人を殺してでもお金を手に入れさせるような教えみたいなことになりはしないでしょうか」(「あとがき」から)

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