小ネタ集
インテル Centrinoモバイル・テクノロジ発表
(2003年3月12日作成、2003年3月19日修正)

 2003年3月12日、インテルはこれまでも話題となっていた「Centrinoモバイル・テクノロジ」を発表した。

モバイル・テクノロジとは?
 
 そもそもモバイル・テクノロジとは何だろうか?プロセッサとは何が違うのだろうか。
 モバイル・テクノロジとは新CPUである「Pentium M」と対応チップセット「Intel 855PM/GM」、IEEE802.11b対応無線LANモジュール「Intel PRO/Wireless 2100」の3つの総称である。3つ集まった場合は「Centrinoモバイル・テクノロジ」マークをパソコンに付けることができる。どれか一つがかけていたり、他社の製品を採用した場合は付けることができない。単なる「Pentium M搭載パソコン」である。

Centrinoモバイル・テクノロジマーク

Centrinoモバイル・テクノロジロゴ


 CPUとチップセットはまだしも、無線LANモジュールまでインテル製品を採用しなければならないのはなぜだろう。元々、無線LANの機能はチップセット内蔵されるはずだった。しかし、内蔵が間に合わず、非内蔵のIntel855PM/GMチップセットのみの提供となってしまった。そこで内蔵するはずだった無線LANモジュールを安価で提供すると言うわけだ。
 ではなぜ、このような「モバイル・テクノロジ」という形を取ることになったのだろう。
 Pentium MというCPUは、初めてモバイル向けに開発されたCPUだ(開発コード名Banias)。これまでは、デスクトップ向けCPUを改良してモバイル向けとしていた。しかし、Pentium4は高クロック化に特化しているため、消費電力が高いのだ。そのため、大型ノート向けの通常電圧版ならまだしも、A4薄型やB5ノート向けの低電圧版、さらに小型のノートパソコン向けの超低電圧版は提供できそうもない。だからといって、現在のモバイルPentiumIII-Mはクロックがこれ以上上がりそうもない。そこで、デスクトップ版の改良ではなく、全く新たな「モバイル」CPUを開発することになったわけだ。
 Pentium Mは現在の主流であるモバイルPentium4-Mよりも低クロックでも高い性能をもつ。しかも元からモバイル向けに開発されているため消費電力はPentiumIII並に低い。今回発表されたPentium Mは最高で1.6GHz版と、モバイルPentium4-Mの2.4GHzよりの3分の2のクロックである。しかし性能はモバイルPentium M-1.6GHzの方が1割以上高いと言われている。その上消費電力は、400MHzクロックの低い「モバイルPentiumIII-M-1.2GHz」と同じ程度なのである。
 このように、性能が高く消費電力が低いという、すばらしいCPUなのである。しかし、大きな問題があった。
 Pentium-MとモバイルPentium4-Mを比べた場合、1.6GHzと2.4GHzと大きな差がある。いくらPentium-Mは高性能なCPUだと言っても、パソコンにそれほど詳しくない人にとっては2.4GHzの方がよく見えるはずだ。そうなってはせっかくのPentium-Mが売れなくなってしまう。そこで、チップセットと無線LANモジュールも含めた全体で販売していくことにしたのだ。
 3つを組み合わせた「モバイル・テクノロジ」としては、モバイルPentium4-Mなどもライバルとならないため、安心して売っていくことができるという訳だ。

Intel Pentium M

Pentium Mプロセッサ

動作クロック(発表時) : 1.6/1.5/1.4/1.3GHz(通常電圧版)・1.1GHz(低電圧版)・900MHz(超低電圧版)
L2キャッシュ : 1MB
拡張命令 : MMX、SSE2
製造プロセス : 0.13μm

Pentium Mについて

 Pentium Mプロセッサは非常に低消費電力で、高性能なCPUであることは、これまでのお伝えした通りだ。
 では、実際にはどのような製品が発表されたのだろうか。通常電圧版として1.6GHz、1.5GHz、1.4GHz、1.3GHzの4種類が、低電圧版として1.1GHzが、超低電圧版として900MHzが発表された。
 Pentium M自体は、0.13μmプロセスで製造され、FSBは400MHz、L2キャッシュは1MBと非常に大きい。拡張版SpeedStepテクノロジを搭載し、SSE2にも対応する。拡張版SpeedStepは、「拡張版」と呼ばれるだけあって、これまでの2段階切り替えではない。最高クロックから最低600MHzまで200MHz刻みで動的に変化する。

最高クロック時 最低クロック(600MHz)動作時
駆動電圧 熱設計消費電力 駆動電圧 熱設計消費電力 平均消費電力
通常電圧版1.60GHz1.48V24.5W0.96V6W1W以下
通常電圧版1.50GHz1.48V24.5W0.96V6W1W以下
通常電圧版1.40GHz1.48V22W0.96V6W1W以下
通常電圧版1.30GHz1.39V22W0.96V6W1W以下
低電圧版1.10GHz1.18V12W0.96V6W1W以下
超低電圧版900MHz1.00V7W0.85V4W1W以下

 消費電力は右図の様になっている。最高の1.6GHz版でも消費電力は24.5Wと比較的低い事が分かる。また、低電圧・超低電圧版はかなり諸費電力を低く抑えてあり、小型ノートパソコンへの搭載もそれほど大変ではないはずだ。
 Pentium Mが登場するまでは

・35〜25W:モバイルPentium4-M
・25〜12W:通常電圧版モバイルPentiumIII-M
・12〜7W:低電圧版モバイルPentiumIII-M
・7W以下:超低電圧版モバイルPentiumIII-M

であった。今回はこれまでモバイルPentiumIII-Mが占めていた部分がそのままPentium Mへと切り替わった形だ。これを見ると、モバイルPentiumIII-Mよりも高いクロックを実現しつつ、同程度の消費電力であることがわかる。さらに、今回はCPUだけでなく、対応チップセットも大幅に省電力化されているため、トータルでもかなり消費電力は少ない。

 では、性能の方はどうだろうか。ベンチマークテストによると、Pentium Mの1.3GHzはモバイルPentium4-1.6GHzを大きく越える性能を持っていた。またPentium M-1.6GHzはモバイルPentium4-2.4GHz-Mとほぼ同等の(一部では勝る)性能を持っている事も分かった。また最新VAIO Uに採用された特別版の600MHz版(後述)は、一世代前のVAIO Uに採用されたCrusoe TM5800の933MHzより同等から場合によっては、10倍の性能を持つようである。
 このようにPentium Mはクロック当たりの性能が非常に高く、低消費電力と高性能が両立されているCPUであることが分かった。今後は「モバイルPentium4-M」は「モバイルPentium4」とMの表記が消え、よりデスクトップ版Pentium4に近くなり消費電力が上がる。それに伴って、現在モバイルPentium4-Mを採用している一部の機種にも採用されていくようである。

問題のある無線LANモジュール

 Centrinoを名乗るためには、インテルの無線LANモジュール「Intel PRO/Wireless 2100ファミリー」を採用しなければならない。インテルから発表されている無線LANモジュールには
・Intel PRO/Wireless 2100(IEEE 802.11b対応) ・Intel PRO/Wireless 2100A(IEEE 802.11a/b対応) ・開発コードCalexico2(IEEE 802.11a/b/g対応) の3種類が予定されているが、現在出荷されているのは一番上のIEEE 802.11bのみ対応のモジュールである。ところが、無線LAN搭載パソコンはIEEE 802.11bとIEEE 802.11aのデュアルバンド(両対応)になりつつある。しかし、デュアルバンドのPRO/Wireless 2100Aは開発の遅れから2003年6月以降の提供となってしまう。
 そのためパソコンメーカーとしては「Centrinoを名乗るためにIEEE 802.11bのみ対応にする」か「デュアルバンドにするためにCentrinoを名乗らないか」の選択に悩んでいる。結果NECやIBMの様に、上位機種ではデュアルバンドに対応しCentrinoを名乗らず、下位機種のみCentrino対応を名乗るメーカーも出てきている。
 さらに現在メルコなどの無線LANメーカーが強力に推進している無線LAN規格「IEEE 802.11g」が6月には承認され、正式な無線LAN規格となる。そのため2003年後半にはIEEE 802.11gが普及すると思われる。しかし、ここでもインテルは後れを取る。IEEE 802.11gに対応した、新PRO/Wireless(開発コード名Calexico2)は2004年第1四半期移行となってしまう。そのため、今回のようにIEEE 802.11g対応を優先してCentrinoを名乗らない機種モデルと思われる。
 上位機種ほど多くの無線LAN規格に対応する傾向があるため、「下位機種ではCentrino対応なのに、上位機種ではCentrino対応でない」「Centrinoに対応していない方が、無線LANの機能が優れている」という何とも分かりにくい状況になってしまうのだ。

搭載パソコンは?

 インテルがCentrinoのPentium Mを発表すると同時に、対応製品が多数発表された。

メーカー 大まかな品番 形状*2 Centrino対応 Pentium Mクロック
東芝DynaBook V7A4、3スピンドル、3.13/3.06kg1.6/1.3GHz
東芝DynaBook SS S7B5、1スピンドル、1.05kg900MHz
東芝DynaBook Satellite M10A4、3スピンドル、3.13/3.06kg1.6/1.3GHz
東芝DynaBook SS 2100B5、1スピンドル、1.05kg900MHz
SONYVAIO ZA4、2スピンドル、2.1kg1.3GHz
NECLavie MA4、2スピンドル、2.1kg○*11.3GHz
NECVarsaProA4、2スピンドル、2.1kg1.6/1.5/1.3GHz
DELLLatitude D600A4、3スピンドル1.6/1.3GHz
IBMThinkPad T40/T40pA4、2スピンドル、2.23〜2.42kg○*11.6/1.4/1.3GHz
IBMThinkPad X31A4、1スピンドル、1.64/1.65kg○*11.4GHz
PanasonicTOUGHBOOKA4、2スピンドル、2.2kg1.4GHz
*1 一部機種では、無線LANをIEEE802.11aとIEEE802.11bのデュアル構成にしたためCentrinoではない。
*2 3スピンドルとはHDD、CD-ROM、FDドライブが内蔵された機種、2スピンドルとはHDD、CD-ROMの2つが内蔵された機種、1スピンドルとはHDDのみが内蔵された機種である。

となっている。
 今回の発売は「A4の3スピンドル」から「B5の1スピンドル」まで、様々なサイズの製品が発表されているが、特に2スピンドル以下のノートに多く採用されているのが特徴的だ。小型のノートパソコンに多く採用される事から、それだけ消費電力が低く、これまでのモバイルPentiumIII-Mの代わりになる物であることが分かる。また、大型ノートにも採用されるのはモバイルPentium4-Mに対等にやっていける高性能なCPUであることの現れだと思われる。

Banias版Celeron?

 実は同日、超小型パソコンとして注目を浴びた「VAIO U」の新製品も発表されている。
このVAIO UはCentrino対応ともPentium M搭載とも書かれていない。しかし、機種のページに「最新モバイルプロセッサーを搭載」「システムバス400MHz」「855PM チップセットを採用し」などと書かれている点から、Pentium M又はそれと近いCPUが採用されている事は明らかだ。
正確にはCPUは「超低電圧版モバイルCeleron 600A MHz」であり、L2キャッシュは512KBとなっている。クロックを、SpeedStepの下限である600MHzにすることで消費電力・発熱をより低く抑え、一方でL2キャッシュを半減しCeleronを名乗ることで低価格化を狙った特別バージョンではないかと言われている。

プレリリース:http://www.intel.co.jp/jp/intel/pr/press2003/030312.htm