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2007年末のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2007年12月12日著)
1万円台中盤の機種は複合機の中では最下位になるため、最低限の機能のみを搭載していたり、搭載していても機能的に劣るものであったりする。どの程度の機能を搭載しているのだろうか。また、エプソンのPX-A620とキャノンのPIXUS MP470は価格で3000円の差があるが、どのような違いがあるのだろうか。
まずはプリンタ部から見ていこう。最下位機種だけあって、最低限の機能となっている。PX-A620は4色インク構成で、解像度5760×1440dpi、4plインク滴、3サイズのインク滴を打ち分けるMSDTに対応している。上位機種に比べ特にインク滴が大きくなっているため、若干の粒状感はあるが画質としては写真画質とも呼べるものだ。インクは全顔料インクであるため写真用紙への印刷時は光沢感が薄れるほか、光沢紙などの一部用紙には対応しないが、一方で普通紙への印刷画質はかなり高く、耐水性も高い。上位機種から大きくコストダウンがはかられているのは、ノズル数だ。ノズル数がかなり少ないため、印刷速度がかなり遅く、L版写真印刷で149秒となってしまっている。一方のPIXUS MP470は4色構成で、解像度4800×1200dpi、最小2plのインク滴という点は、1段階上位のPIXUS MP520と同等である。最高とはいかないものの十分写真画質だ。ただし、ブラックインクが顔料、カラー3色が染料であるため、写真用紙への印刷時にブラックインクが利用できず、黒のメリハリが弱くなってしまう。一方で普通紙へのモノクロ印刷の画質は高くなる。ノズル数はそれほど減らされていないため、印刷速度もL版写真で38秒と、十分に「使える」速度となっている。しかし、コストダウンの影響が出ている部分があり、カラーインクが3色一体になっているため、1色でも無くなると他の2色がどれだけ残っていても交換となる。後々の印刷コストに多少影響しそうである。この価格帯では前面給紙や自動両面印刷、CD/DVDレーベル印刷などは行えない。写真印刷時には補正機能が使え、顔認識やシーン認識を行って補正するため精度の高いものだが、両機種ともパソコンからの印刷時にしか利用できない点が劣る部分と言える。 スキャナはPX-A620が600dpi、PIXUS MP470が2400dpiと大きな差がある。紙原稿は300〜600dpi前後での取り込みが多いためそれほどの差はないだろうが、PIXUS MP470の方が写真スキャンなどいざというとき高解像度で取り込める利点はあるだろう。ちなみに、どちらもCIS方式なので、分厚い本などガラス面から浮いてしまう原稿は苦手である。 ダイレクト印刷機能はPIXUS MP470のみが搭載している。スロットはSD/MS/CFとなっており、xDカードを利用する場合はCFカード型のアダプタを用意する必要がある。赤外線通信には対応しないが、PictBridgeには対応している。また、ダイレクト印刷機能を備えているPIXUS MP460のみ液晶ディスプレイを搭載している。1.8型と小さいが、角度調整も可能だ。この機種のみ「イージースクロールホイール」を搭載しておらず、十字キーで操作することになる。 コピー機能は両機種とも備えているが、価格に差があるため機能にも差がついている。PIXUS MP470は25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小が行えるため便利である。一方のPX-A620は等倍か自動拡大・縮小のみで、利用できる用紙もA4普通紙とL版写真用紙しか設定がない。さらに枚数設定も出来ないので、1枚ずつのコピーとなる。どちらも上位機種の搭載している写真焼き増しコピー機能は搭載していない。もちろんコピー機能を利用して1枚ずつコピーすることは出来るが、色あせした写真を補正する機能も備えていないので、単なる写真紙への縁なしコピーとなる。 両機種には3,000円の価格差が付いているため機能的にも差がついている。PX-A620は印刷スピードが遅く、ダイレクト印刷機能を搭載しておらず、コピー機能も最低限のものだ。それでも印刷画質はそれほど悪くないし、顔料インクのおかげで普通紙への印刷画質は高い。等倍コピーやパソコンから普通紙への印刷が目的なら、価格の安いPX-A620で十分だろう。一方、写真も印刷するというなら、染料インクでダイレクト印刷機能も備えたPIXUS MP470の方が良いだろう。それらの利点に加えて、印刷が速くコピー機能も良くなるので、3,000円の価値があるだろう。 最上位機種と言うだけあって、プリンタ部分に関してはどちらのメーカーも最高のものを搭載している。PM-T990は6色インクで1.5plのインク滴、5760×1440dpiの解像度となっている。また、5種類のドットサイズを打ち分ける「Advanced-MSDT」となっており、よりスムーズな階調表現が行える。一方のPIXUS MP970は6色+顔料ブラックの7色で、1plのインク滴、9600×2400dpiの解像度となっている。インク滴や解像度はPIXUS MP970の方が上だが、このレベルになるとどちらも「最高に綺麗」となり、ほとんど変わらない。ただし、PIXUS MP970の顔料ブラックは普通紙へのモノクロ印刷や、普通紙コピーのモノクロ文字などがくっきりし、水に強いという利点があるため、この点はPIXUS MP970の方が優れているだろう。逆に写真の「保ち」に関してだが、PM-T990はアルバム保存200年、耐光性50年、耐オゾン性25年の「つよインク200」、PIXUS MP970はアルバム保存100年、耐光性30年、耐ガス性10年の「ChromaLife100」であり、PM-T990の方が色あせは少ないという結果である。両機種とも画質は最高でPIXUS MP970は顔料ブラックという点が、PM-T990は保存性の点で優れている。 写真の補正機能としてPM-T990は「オートフォトファイン!EX」を搭載している。今年の機種は、オートフォトファイン!EXが進化し、より補正能力がアップし、ナチュラルフェイス機能も搭載されているが、PM-T990は去年のモデルの継続販売なのでこれらの進化はない。ただし、去年から補正能力は高いものだったので、それほど問題ではないだろう。一方のPIXUS MP970は去年のモデルから大きく進化し「自動写真補正」となり、顔認識→シーン分類→補正という流れをとるようになったため補正能力が格段に向上している。その上に従来はダイレクトプリント時しか利用できなかったが、今回からPCからとダイレクトプリントの両方で使えるようになった。つまりエプソンと同等レベルに引き揚げられていると言える。 印刷速度はL版縁なしで、PM-T990が19秒、PIXUS MP970が29秒とそれなりの差があるがどちらも十分高速であることに代わりはない。ただ、PM-T990なら1分で3枚、PIXUS MP970は1分で2枚と考えると結構な差なので、写真印刷が主なら保存性と併せてPM-T990の方がよいかもしれない。給紙機構に関してはPIXUS MP970の方が便利だ。キャノンお得意の前面給紙カセット対応なので、前面と背面に同時に用紙がセットでき、使い分けられて便利だ。また、自動両面印刷機能も搭載している。一方のPM-T990も前面給紙には対応しているものの、カセットではなくトレイとなっており、A4普通紙のみの対応となる上に、用紙をセットしたまま排紙トレイをしまう事ができない。このあたりはPIXUS MP970の方が便利だ。 次にスキャナを見てみよう。どちらも4800dpiとなっており、フィルムスキャナにも対応している。ネガフィルムの場合連続6コマという点も同等だ。もちろんCCD方式のスキャナなので分厚い本の綴じ目の様に浮いてしまう様な場合でも安心である。一方スキャンデータの取り扱いという点ではPM-T990が便利だ。PIXUS MP970はスキャン後はパソコンにデーターを送るしかないが、PM-T990はパソコンに繋がなくても、メモリカードやUSBメモリなどにJPEG又はPDF形式で保存できるのである。 続いてダイレクト印刷機能を見てみよう。カードスロットからの印刷、PictBridgeによる印刷、赤外線通信による印刷の他、オプションでBluetoothによる印刷が行えるのは共通だ。ただし、PIXUS MP960では、xDカードには直接対応せず、CF型のアダプタを別途用意する必要があるのは注意が必要だ。写真の印刷はどちらも行えるが、加えてPM-T990は動画から写真印刷が行える点が便利だ。最近はデジカメで動画が撮れるのが一般的になってきている。動画で撮影するのは後で見る時は動きがあって良いが、いざ印刷となると非常に手間である。PM-T990は1コマ又は12コマの連続写真を印刷できる。簡単な機能な様で、非常に便利だと言える。 また、メモリカード関連の機能としてPM-T990にはCD/DVDドライブが内蔵されているのが面白い。正確には書き込みはCDのみでDVDは読み込みだけなので、コンボドライブ内蔵である。このドライブを利用して、パソコン無しでメモリーカードの写真をCD-R/RWへの書き込みが行えるのだ。またCD/DVDに書き込まれた写真からの印刷も行えるのである。つまり、デジカメで写真を撮ったら、メモリカードから写真を印刷し、CDにバックアップし、さらにバックアップ後に再度印刷といった作業がパソコン無しで行えるのである。パソコンを持っていない人や苦手な人にはもってこいの機能だろう。また、PX-T990は外付けのDVD書き込みのドライブやMOドライブ、USBメモリへ写真を写したり、逆にこれらから印刷も行える。 手書き合成シートはどちらも対応しているが、PIXUS MP960ではCD/DVDレーベル印刷にも対応したのが利点である。CDやDVDにデジカメの写真を入れたけど、レーベル面をデザイン出来ないという人にとって、手書き合成によってレーベル面が簡単に作れるのは便利だろう。 もちろん両機種ともコピーは行える。25〜400%の拡大縮小コピーも行えるほか、CD/DVDレーベルのコピーも行える。このあたりは完璧である。 では、操作に関する部分を見てみよう。液晶ディスプレイはPM-T990は4.0インチ液晶、PIXUS MP970は3.5インチ液晶と十分大きい。どちらも角度調整が行えるので非常に見やすいといえる。一方、操作パネルは、それぞれのメーカーの独自の部分が現れている。PM-T990はボタンを一列に並べており、一連の作業は左から右へ順に進んで行くことで行える。一方のPIXUS MP970はクルクル回してボタンを押すのが基本操作の「イージースクロールホイール」を備えている。液晶ディスプレイや操作パネルはどちらが優れているか実際に実機に触れて試して頂きたい。ちなみに、PM-A970はスキャナのフタの前(本体の前寄り)に付いているが、PIXUS MP960ではフタの前の方に付いている。PIXUS MP970の位置だと大型の本など、スキャナからはみ出す原稿でも操作パネルが隠れない反面、蓋を開けて手で押さえてスキャンする場合に操作が行いにくいという問題がある。これ以外にPM-T990は前面からインクを交換できるというメリットがある。 どちらの機種も対応のデジタルテレビへの接続が行える。例えば地上デジタル放送のデータ放送の印刷コンテンツを印刷するといった事が行える。さらに、PM-T990ではメモリカードの写真を内蔵の液晶ではなくテレビに映して確認できるようになっているのも便利だ。 接続端子はUSB 2.0に加えてLAN接続ができるようになっている。そのため家庭内でネットワークをくんでいれば、複数台のパソコンから利用できるという事である。PIXUS MP970は有線LANのみだが、PM-T990は有線LANと無線LANの接続ができるのでより便利だ。ちなみに、無線LANの設定は、WEPキーなどの入力は上下左右のカーソルキーだけで行わないといけないためパソコンに比べて大変だが、「煩雑」なだけで「難しく」はない。無線LANの設定をした事があるなら、説明書を見なくても設定できてしまうほどだ。またAOSSに対応しているため、バッファロー社の無線LANルータとは簡単に接続できるようになっている。 結局の所、どちらもこの価格にふさわしい性能を持っているといえる。若干の違いはあるが、プリント・スキャナ・コピーの性能は十分なレベルに達しているといえる。大きな違いといえば、CD/DVDドライブやと無線LAN、動画印刷やスキャン結果のUSBメモリへの保存と言った機能が魅力的に感じればPM-T990を、顔料ブラックインクによる文字印刷の綺麗さを魅力的に感じればPIXUS MP970を購入するという事になるだろう。価格差が3000円あるが、最上位機種を購入するのだから3000円に惑わされず、気に入った機能の機種を購入して頂きたい。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/
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