2012年春時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2012年8月19日公開)
FAX付き複合機は価格帯別に比較すると、全く異なる傾向の製品同士の比較となってしまう。そこで、FAX付き複合機のみ、顔料インクの機種と染料インクの機種に分けて比較を行うこととした。そのうち、ここでは染料インクの3機種を比較する。エプソンのEP-904F、キャノンのPIXUS MX893とPIXUS MX513の3機種で、価格はそれぞれ37,670円、26,600円、17,700円と大きく異なる。果たして、どのような違いが価格に現れているのだろうか。
まずはこれら3機種の概要を説明しよう。エプソンのEP-904Fは型番からも分かるように、FAX無し複合機のEP-904AにFAX機能を付けたような製品だ。外見上の差は全くといって良い程なく、機能面でもFAX機能の有無以外は完全に同等だ。キャノンの2機種は基本となるFAX無し複合機は無い。外見も独自の物で、操作パネルもFAX無し複合機には無いパターンである。ただ、インク構成や印刷速度、スキャナ解像度から見れば PIXUS MX893はPIXUS MG5330、PIXUS MX513はPIXUS MG4130に近いと言える。とはいえCD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能や対応メモリカード、液晶サイズ、スキャナのADF搭載など異なる部分も多い。それでは細かく見ていこう。 まずはプリンタ部である。EP-904Fではブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に加えてライトシアンとライトマゼンダを搭載した6色構成であり、カラー原稿での色の薄い部分でも粒状感が抑えられる。さらに、最小インクドロップサイズが1.5plと非常に小さいため、粒状感は肉眼では感じられず、非常に高画質な印刷が行える。また、インクは「つよインク200」でありアルバム保存200年、耐光性50年、耐オゾン性15年と、保存性も高い。またインク滴は1.5plと小さいが、ノズル数が各色180ノズルある上、5つのインクサイズのインクを打ち分けるAdvanced-MSDTにより、必要に応じて大きなインクを打ち分ける事で、L判写真1枚が14秒と非常に高速なのもメリットである。染料インクであるため、普通紙への印刷画質は並みだが、写真用紙へ印刷した際は用紙の光沢感が素直に出るため美しい印刷が出来る。写真印刷は画質・速度共に最高レベルと言える。PIXUS MX893は5色構成だがブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色の染料インクと、顔料のブラックインクを搭載する。ブラックインクが2種類であるため、写真印刷は4色で行う事になるが、最小インクドロップサイズは1plであるため、4色インクでの印刷でも最小インクドロップサイズがここまで小さいと粒状感は皆無である。EP-904Fよりはやや劣るが、比較してもほとんど分からないレベルで高画質である。また、染料インクで印刷するため、写真用紙への印刷時にも光沢感が薄れないのもうれしいところだ。インクは「ChromaLife 100+」であり、純正写真用紙の中で最上級のキャノン写真用紙・光沢 ゴールドを使用する事で、アルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年を誇っている(キャノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]ではそれぞれ200/50/10年、キャノン写真用紙・光沢 ではそれぞれ100/40/10年)。さらにブラックのみだが顔料インクを搭載しているため、普通紙へのモノクロ印刷はメリハリがあり高耐水性の印刷が行える。モノクロ原稿の印刷やモノクロコピーだけでなく、受信したFAXの印刷に効果を発揮するだろう。最小インクドロップサイズは小さいが、ノズル数を多くすることでL判写真1枚が17秒とEP-904F同じく非常に高速なのも魅力だ。最後にPIXUS MX513だが、一見PIXUS MX893と同じインク構成のように見える。しかし、染料のシアン、マゼンダ、イエローと、顔料のブラックインクの4色構成となり、染料のブラックインクが省略されている。そのため、写真印刷時にブラックインクが使用できず、カラー3色を混ぜて黒に近い色にするため、どうしてもコントラストが弱くなってしまう。またインク滴が2plと大きくなるため、PIXUS MX893よりも粒状感が強くなる。コントラストと粒状感の両方で、他の2機種より劣る事となる。ただし、染料インクで写真印刷が出来るため、光沢感の失われない印刷が可能なため、写真印刷に向いているという点では他の2機種と同じだ。インクもPIXUS MX893と同様の「ChromaLife 100+」なので耐保存性も問題ない。ただし、PIXUS MX893よりノズル数が少ないため、L判写真1枚が39秒とやや時間がかかるが、使用感を大きく損ねるほどではないだろう。また、普通紙印刷速度は、PIXUS MX893がA4普通紙カラーで9.3ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)、普通紙モノクロで12.5ipmだが、PIXUS MX513はそれぞれ5.5ipmと9.7ipmである。普通紙への印刷も写真印刷同様PIXUS MX513は遅めである。大量の文書やFAXの印刷となると、やや時間がかる事になる。またブラックのみだが顔料ブラックが搭載されている点はPIXUS MX893同様なので、モノクロ原稿の印刷や受信したFAXの印刷時に高画質に印刷できる。写真印刷に特化したEP-904F、写真印刷も十分なレベルで普通紙へのモノクロ印刷も高画質なPIXUS MX893、価格が安いだけあってやや画質面では劣るPIXUS MX513という構図である。ちなみに、インクカートリッジはEP-904FとPIXUS MX893は各色独立インクカートリッジであるため、無くなった色だけ交換できるが、PIXUS MX513はカラー3色が一体カートリッジとなる。PIXUS MX513はインクカートリッジを前面から交換可能という便利さがあるが、一体型インクカートリッジは3色の内どれか1色でも無くなると他の色が無駄になるためコスト面では不利だ。細かなところでコストダウンが計られていることが分かる。 給紙に関する部分を見てみよう。EP-904Fは前面給紙のみとなる。前面給紙のみとすることで、背面給紙部分がなく上面がすっきりし、コンパクトさとデザイン性を高めている。しかし背面給紙がないため、特に厚い紙や封筒、ラベル用紙などへの印刷は問題ないとは言われていても、前面から給紙し前面から排紙するため用紙がプリンタ内部で曲げられるため少し心配だ。EP-904Fの前面給紙はカセット式になっており、内部が2段になっているため、2種類の用紙を同時にセットできる。上段は2Lサイズ以下であるため、A4用紙を2種類と言ったことはできないが、L判用紙やハガキなどとA4用紙が同時にセットできるため、利便性は確保されている。カセット式であるため、用紙をセットしたまま排紙トレイなどを収納することも出来る。下段に一度にセットできる枚数は、A4用紙120枚までである。一方、PIXUS MX893は背面給紙と前面給紙の両方に対応する。前面給紙は普通紙のみとなるが、前面にA4普通紙、背面にB5普通紙というようにサイズの異なる普通紙をセットしたり、前面に普通紙、背面に写真用紙をセットしたりという事もできるため便利である。セット可能枚数はA4普通紙で、前面背面共に150枚で、両方にA4普通紙をセットすれば300枚と、大量印刷に備えることも2種類の用紙をセットすることもでき、また片方が背面給紙なので厚紙や封筒などへの印刷も安心だ。前面給紙はカセット式なので、用紙をセットしたままでも排紙トレイを収納できる。最後に、PIXUS MX513だが、こちらもEP-904F同様前面給紙のみだ。しかし、EP-904Fとは異なりカセット式ではない。前面パネルを開いたところに用紙をセットし、その上にもう一段開いて排紙トレイをセットする形である。そのため、用紙をセットしたまま前面パネルを閉じることが出来ない他、セットできる用紙も1種類のみだ。背面給紙がないため、特に厚い紙や封筒、ラベル用紙などへの印刷も心配が残る。セット可能枚数もA4普通紙で100枚と他の3機種に比べると寂しい枚数だ。このあたりもコストダウンの跡が伺える。ちなみに、対応用紙はEP-904FとPIXUS MX513がL判〜A4、PIXUS MX893が名刺〜A4となる。前面給紙の機種ではどうしてもL判より小さな用紙には対応できないが、背面給紙の出来るPIXUS MX893はより小さいサイズに対応している。名刺サイズの用紙に直接印刷できるので便利だ。 自動両面印刷機能は3機種とも備えている。両面印刷を行って冊子を作ったり、受信したFAXの印刷時に用紙を節約したい場合などに便利だ。ただしPIXUS MX513は普通紙のみ対応なので、ハガキの通信面と宛名面の両方を連続で印刷することは出来ない。CD/DVD/Blu-rayのレーベル印刷機能はEP-904Fのみ搭載している。トレイを内蔵しており、トレイの上にディスクをセットするだけで印刷でき、非常に手軽になっている。写真印刷時の自動補正機能は、EP-904Fが「オートフォトファイン!EX」、PIXUS MX893とPIXUS MX813は「自動写真補正II」である。名称は異なるが、どちらも逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる高性能なものだ。また、いずれもパソコンからだけでなくダイレクト印刷時にも使用できるので便利である。 続いて、スキャナ部を見てみよう。スキャン解像度はEP-904Fは4800dpi、PIXUS MX893の3機種は2400dpi、価格の安いPIXUS MX513は1200dpiとなり価格に応じて解像度に差はある。しかし、3機種とも紙原稿のみのスキャンであるため、たとえL判写真でも1200dpiでスキャンするとかなりのドット数になってしまい扱いにくくなってしまうので、通常は300〜600dpi、最大でも1200dpiで利用する事になるだろう。そうなると、スペック上の解像度の差ほど使用する上での差はないといえる。また、いずれもCIS方式であるため、分厚い本など浮いてしまう原稿は苦手だ。一方、3機種ともFAX機能を搭載している事もあり、ADFを備えている点は便利である。もちろんFAX送信時だけでなくスキャンやコピー時にも使用できる。EP-904Fは30枚、PIXUS MX883は35枚、PIXUS MX420は30枚まで原稿を一度にセットできる。それだけ見ると差はほとんど無いように見えるが、実は大きな差がある。EP-904Fは片面読み取りのみとなっており、エプソンのPX-673FやPX-603Fとは異なる。ADF使用時にもスキャン解像度に制限はない。一方PIXUS MX893は両面スキャンが可能なADFとなっているため、両面原稿を一度にスキャンでき便利だが、両面スキャンはFAX時には使用できないという制限があるため、コピーやスキャンしてパソコンに取り込む際にしか使用できないのは残念だ。また、両面・片面に関わらずADF使用時にはスキャン解像度は最大600dpiになる。最後にPIXUS MX513は、片面読み取りのみのADFとなっている。また、ADF使用時にはスキャン解像度が最大600dpiとなる点はPIXUS MX893と同様である。それぞれの機種に制約がある点は注意が必要だ。3機種はスキャンした原稿をパソコンを使わずにメモリカードに保存する機能を搭載しているのは便利だ。ちなみに、3機種に共通する注意点としては、対応する原稿サイズはA4、レターサイズ、リーガルの3種類のみで、それより小さなB5などの原稿には対応しない点である。そのため雑誌や漫画等をスキャンしてデジタル化する、いわゆる「自炊」用途には、原稿サイズによっては行えなず、完全にドキュメントスキャナ代わりに使用する事は難しいだろう。 ダイレクト印刷は、EP-904FがSDカード/メモリースティック/コンパクトフラッシュ/xDピクチャーカードに対応しており、数年前以降のデジタルカメラの全ての種類に対応しているため安心だ。それに対して、PIXUS MX893はxDピクチャーカードには非対応、PIXUS MX513はさらにコンパクトフラッシュにも非対応で、SDカードとメモリースティックのみ対応である。ただ、最近のデジタルカメラはSDカードかメモリースティックのどちらかなので、問題になることは少ないだろう。念のため持っているデジカメのメモリカードの種類を確認した方が良さそうだ。また、全機種がPictBridgeに対応している他、USBメモリからの印刷にも対応しているなど、様々な方法でダイレクト印刷が可能である。さらに、EP-904FはUSBメモリからの印刷だけでなく、各種メモリカードからUSBメモリへのバックアップが可能な他、USBメモリ以外に対応の外付けドライブへのバックアップやそれらからの印刷も行える。その上、複合機をLAN接続をしている場合、他のパソコンからドライブのデータにアクセスが可能な「外部機器共有」機能も搭載している。つまり複合機単体でメモリカード内の写真やスキャンした写真や原稿を外付けHDDに保存でき、それらに家庭内のどのパソコンからもアクセスできるわけである。その他、メモリカード内の写真と手書き文字や絵を合成して印刷できる「手書き合成シート」や赤外線通信機能もEP-904Fのみ対応している。また、EP-904Fは、塗り絵風の輪郭だけの印刷が行える「塗り絵印刷」や、写真を背景に印刷した便箋を始めとする罫線やマス目などの用紙が印刷できる「ノート罫線印刷」機能に対応している。ダイレクト印刷機能の豊富さは驚くほど多く、EP-904F単体でも色々と楽しめる。PIXUS MX893とPIXUS MX513はそれほど豊富ではないが、原稿用紙、方眼紙、五線譜、レポート用紙、スケジュール帳、チェックリスト、漢字練習帳の印刷が行える「フォーム印刷」機能を備えている。 スマートフォンとの連携機能も全機種が搭載している。いずれもiPhone4/iPhone3G/iPhone3GS/iPod touch/iPad/Androidに対応しており、専用のソフトを用意する。撮影した写真がスマートフォンからの操作で手軽に印刷でき、その際、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、パソコンから印刷するのと変わらないレベルで印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。ただしEP-904FはPDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応しており、Webページの印刷もできる一方、PIXUS MX893とPIXUS MX513はPDFのみで、しかもAndroidはAndroid端末でスキャンして作成したPDFファイルのみ対応している。ドキュメント印刷を行うならEP-904Fの方が便利だろう。またスマートフォン上からスキャンを実行し、データをJPEG又はPDF形式で受け取る機能も全機種が搭載している。出かける前に紙の情報をさっとスマートフォンに転送するといった使い方ができるため便利だろう。 コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、全機種が単純な等倍コピーだけでなく、原稿サイズを自動で認識し用紙サイズに合わせて拡大縮小する機能や、原稿と印刷する用紙サイズの組み合わせを指定して拡大縮小コピーが行えるだけでなく、25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える高性能な物だ。それ以外の機能としては、3機種とも、写真を複数枚原稿面に起き、一度に数枚の写真の焼き増し風のコピーを行うことも出来る。この際、名称はEP-904Fが「退職復元」機能、PIXUS MX883とPIXUS MX420は「色あせ補正」機能と名称は異なるが、昔の色あせした写真を自動で補正してくれる機能を備えており、なかなかの精度なので、コピー目的ではなく色の復元目的での焼き増しも行える。3機種とも2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2アップにも対応している。さらにキャノンの2機種は4枚の原稿を1枚に縮小する4アップにも対応している。CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷が行えるEP-904Fは、レーベルコピー機能も備えている。バラエティコピーを見てみると、EP-904Fは見開きの本を左右ページで別々にコピーする「BOOKコピー」、アイロンプリント紙への印刷時に使える「ミラーコピー」といった機能を備えるほか、コピー時には文字領域と画像領域を認識し、それぞれが見やすくなるよう別々の画像処理を行う「領域判定コピー」という機能を備え、より見やすいコピーが行える。一方でキャノンの2機種は厚手の原稿など原稿台のカバーが浮いてしまう場合に黒くなる部分を消去する「枠消しコピー」機能と、ADFを使用して複数枚原稿を複数部コピーする際に1部ずつまとめてコピーする「ページ順コピー」機能を備え、EP-904Fの「領域判定コピー」と似た「自動文書補正」機能により、文字と写真の混在した原稿でも見やすくコピーできる。 それでは肝心のFAX機能を見てみよう。3機種ともスーパーG3に対応しており、モノクロ、カラーFAXを行う事が出来る。3機種ともADFを搭載しているため、複数枚の原稿の送信も便利である。ただし両面スキャンによるFAX送信はEP-904FとPIXUS MX513は元から不可能で、PIXUS MX893も両面スキャンはFAX送信時は使用できないため、3機種ともADF使用時も片面スキャンとなる。33.6Kbpsで通信可能であり、その場合の伝送速度はモノクロで約3秒というのも共通だ。また読取走査線密度はモノクロで「8pels/mm×3.85line/mm又は8pels/mm×7.7line/mm、カラーで200×200dpiなのも共通である。更にキャノンの2機種はモノクロ時に300×300dpiのファインEXモードを備えているが、大きな差ではないだろう。ダイヤル機能としは、EP-904Fは短縮ダイヤルに60件登録でる。PIXUS MX893は短縮ダイヤル100件を登録できる。PIXUS MX513は短縮ダイヤル20件と少なくはなるが、価格を考えれば仕方がないだろう。また、全機種とも家庭向けの複合機に付いているFAX機能だからといって基本的な機能は搭載されているため安心と言える。受信したファクスの最大保存ページ数はEP-904Fが180枚又は30件、PIXUS MX893が250枚又は30件なのに対して、PIXUS MX513は50枚又は20件と少々劣る。3機種とも家庭で使う分には十分なメモリ量を備えているが、FAXの受信が多いとわかっている場合、PIXUS MX513は少し心許ない。その他、3機種ともグループダイヤル、順次同報送信、自動リダイヤル機能を備えているため、一般的な家庭用FAX電話以上の事が可能だ。さらに3機種ともモノクロ送信のみとなるなど制限はあるが、パソコン内のデータを直接画像データとしてFAXできる「PCファクス」機能を備えているのも便利である。 操作パネルを見てみよう。EP-904Fの操作パネルと液晶ディスプレイは本体の前面に配置される。そして液晶ディスプレイだけでなく操作パネルごと90度まで持ち上げて角度調整が可能である。見やすい・操作しやすい位置で使用でき便利だ。EP-904Fの操作パネルはFAX無し複合機のEP-904Aと同等であり、非常に使いやすい。液晶パネルが3.5インチと十分な大きさである事もあるが、液晶パネルを含む7.8インチ分がタッチパネルとなっているのが大きなメリットなのである。「ホーム」などのどの場面でも使用するボタンや、左右カーソルや「+」「−」「OK」「スタート」といった比較的使用頻度の高いボタンは、液晶ディスプレイ外に配置され、使用できるボタンだけがグリーン(メーカーはピュアグリーンと表現)に光る。そして、「コピー」や「スキャン」といった機能の選択や、例えば「どういったコピーを行うか」というような、表示内容がその時々によって大きく変化したり、詳しい説明が必要なボタンに関しては、液晶ディスプレイに表示され、直接タッチする事になる。使えるボタンだけが光る上に液晶ディスプレイもタッチできるので、その手順ごとに使用できるキーしか目に入らず、迷うことが無く操作できる点で非常に分かりやすい。さらに電源をオフにしたときにボタンが見えないためデザイン的にもスマートだ。その上、FAX付きの機種は電話番号用のテンキーや短縮ダイヤルのボタンなど、どうしてもボタン数が増えてしまい、操作パネルが分かりにくくなるが、EP-904Fの場合は液晶ディスプレイ部にテンキー等を表示することが出来るため、ボタン数がFAX無しの機種のEP-904Aと変わらないレベルに抑えられるのも分かりやすくて便利である。PIXUS MX893とPIXUS MX513の操作パネルは似ており、どちらも「デュアルファンクションパネル」という名称が付けられている。両機種とも本体は側面から上面に移る部分が大きく斜めに面取りされており、その部分に液晶ディスプレイと操作パネルが配置されている。斜めになっているため正面からでも上からでも見やすいようになっている。また、液晶ディスプレイはPIXUS MX893が3.0型、PIXUS MX513が2.5型となっておりEP-904Fほどではないが十分に大きく視認性は高めだ。一方で、操作パネルはおろか液晶ディスプレイも角度調整ができないのは残念である。置き場所によっては使いにくい場合もあるだろう。操作パネルは両機種ともボタン色であるが、「デュアルファンクションパネル」となっており、一部は使用する機能によって表示が切り替わる。しかし、同じ名称が付けられいるものの、PIXUS MX893とPIXUS MX513では多少異なっている。PIXUS MX893の場合、スタートやストップ、メニューなどのボタンの他、液晶下部の3つのボタンは一般的なボタンだ。一方液晶の右側にある4×4個のボタンの内容が2種類に切り替えられるのが特徴だ。FAX利用時には、右側3列がダイヤル用のテンキーになり、左1列が上下カーソルと「OK」「戻る」になっている。一方コピーやフォトなどFAX以外を使用時には、テンキーのあった部分に上下左右カーソルとその中心に「OK」ボタンがあり、左1列は「+」「−」「戻る」ボタンになる。このように、テンキーが必要ない時はテンキーが消えるなど、わかりやすくなっている。割り当てられていないキーには何も表示されていないので、使用できるキーが分かりやすいが、EP-904Fのように、各手順ごとに使用できないキーが消灯する様な、キー1つ1つの消灯・点灯切り替えは出来ず、あくまで2パターンの切り替えのみである。もう一つの「デュアルファンクションパネル」搭載のPIXUS MX513だが、スタートやストップ、メニューなどのボタンの他、液晶下部の3つのボタンは一般的なボタンになっているのはPIXUS MX893と同じだ。液晶ディスプレイ右側が切り替えられるボタンだが、こちらは縦4×横5個のボタンが並び、そのうち右側の3列分と、左側2列の一番上の段の「+」「−」み切り替えられ、その下にあるカーソルボタンや、「OK」「戻る」は常時見えている状態だ。カーソルキーが切り替わるPIXUS MX893とは異なる方法だ。また右側の3列はFAX用のテンキーで、FAX機能使用時はテンキーが点灯し、「+」「−」が消灯する。逆にFAX機能以外を使用するときは、テンキーが消灯し、「+」「−」が点灯する(テンキー入力が必要な手順を除く)。つまりPIXUS MX893とは異なり1つのキーを2つの機能に切り替えるのではなく、使えるか使えないかの2パターンの切り替えのみである。また、PIXUS MX893と同じく、キー1つ1つの切り替えは出来ず、全体を切り替えるだけだ。3機種ともテンキーが必要なFAX付き複合機ならではの苦労が見られる。テンキーが必要な分どうしてもキー数が増えてしまうが、液晶パネル内に表示したり、切り替えて表示したり、使わないときは消灯したりと、FAX機能を使わないときには見えないようにする工夫がなされている。しかし3機種の中で特に使いやすいのはEP-904Fだろう。液晶ディスプレイまでタッチできるため直感的な操作が可能な上、手順ごとにキー1つ1つ独立して点灯・消灯が行われ(例えば上下にしか選択肢がないときは左右カーソルは消灯する)より分かりやすい。その上操作パネルごと角度調整が可能なのもメリットだ。キャノンの2機種も使いづらくはないが、EP-904Fはより優れていると言える。 インタフェースは3機種ともUSB2.0と有線・無線LANの接続に対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。無線LANはIEEE802.11nに対応しており、無線LAN接続時でも、プリントやスキャンがストレス無く行えるようになっている。 本体サイズを見てみよう。最近はコンパクト化が進む複合機だが、EP-904Fはその流れに乗ってコンパクトボディとなっている。EP-904FはFAX無し複合機のEP-904Aと同デザインであるため、465×458×198mmとこれほどの機能にADFまで搭載されているとは思えないほどコンパクトだ。しかもこの高さ198mmというのは、ADFのふくらんでいる頂点部分なので、実際にはもっと低く感じる。EP-904Fの自動両面ユニットを取り外すことができるため、自動両面印刷機能が不要なら、さらに奥行きが385mmと、73mmも小さくなる。PIXUS MX893は491×448×218mmと、横幅と高さがEP-904Fより大きく、見た目にも一回り以上大きく感じる。天板が平面なので、頂点が198mmのEP-904Fに対して、ほぼ全体が218mmあるため数値以上に高く感じるためだろう。PIXUS MX513は458×385×200mmとEP-904Fの自動両面ユニットを取り外した時とほぼ同じ大きさだ。PIXUS MX893と同じ理由で高さはPIXUS MX513の方があるように感じるが、設置面積では一番小さい。 この3機種では、価格差があるため価格と機能を見て選ぶことになるだろう。一番オススメしにくいのはPIXUS MX513だ。印刷画質は最小インクドロップサイズが他の2機種より大きいだけでなく写真印刷時にブラックインクが使えないなど、現在の平均レベルより劣る上に、印刷も遅い。給紙機能も用紙をセットした状態でトレイが閉じられないなど不便だ。その他の機能は一通り搭載しているが、ADFは片面スキャンで、しかもADF使用時は最大解像度が下がる。FAX機能も短縮ダイヤルや受信したファクスの最大保存ページ数が少なく、心許ない。全体的に機能自体は搭載しているが、スペックが低くなっている。他の2機種を選んだ方が使う上での不満はないはずだ。ただPIXUS MX513には2万円を切るという圧倒的な安さがある。多少性能は低くても機能的には不満はないはずなので、安くFAX付き複合機が手に入れたいならPIXUS MX513というのも有りだ。残り2機種も価格差が1万円以上ある。EP-904Fには弱点がほとんど見られない。印刷画質から速度、給紙や各種印刷機能、スキャナの機能、ダイレクト印刷機能、コピー機能、FAX機能のいずれに置いても、非常に高いレベルでありとあらゆる機能が搭載されている。その上本体はコンパクトで、操作パネルも非常に使いやすいというスキのなさだ。唯一ADFが両面スキャンに対応していないことが欠点だが、PIXUS MX893もFAX時には使用できないので、大きな差はない。価格は高いが様々な場面でストレスなく使え満足できるはずだ。EP-904Fの価格が出せるなら、迷わずEP-904Fである。一方4万円近い価格が気になるならPIXUS MX893もオススメだ。EP-904Fほどではないが画質も高くその他の機能も一通り搭載しており、性能は高い。レーベル印刷や手書き合成機能などが無く、ADF使用時に解像度制限があり、操作パネルもEP-904Fよりは使いづらく、本体も大きいが、これらが気にならないなら、他の機能はEP-904Fとほとんど変わらない。逆にFAX時は使用できないとはいえEP-904Fにはない両面スキャンも行える。EP-904Fより劣る機能が気にならないなら、また両面スキャンが気に入ったなら1万円以上安く手に入るPIXUS MX893はコストパフォーマンスに優れていると言えるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ |