2012年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2012年8月19日公開)
A3用紙に対応した単機能プリンタの中で6万円以上の3機種を比較してみよう。エプソンのPX-5V、キャノンのPIXUS PRO-1とPIXUS Pro9500 MarkIIの3機種となるが、価格はPX-5Vが66,340円、PIXUS Pro9500 MarkIIが65,800円なのに対して、PIXUS PRO-1は128,000円と桁違いの価格だ。他に分類するところがなかったために、6万円以上で一括りとした。PIXUS PRO-1に価格に見合った違いがあるのかが比較点だ。また、PX-5VとPIXUS Pro9500 MarkIIとの間には540円しか違いはなく、時期やセールなどによって店頭での価格は逆転することもあるだろう。この2機種は同価格の製品と考えて比較して良さそうだ。ちなみに、エプソンはPX-5Vより上位モデルも存在しているが、家庭用インクジェットプリンタのカタログに掲載されている中では最も最上位モデルとなる。またキャノンもA2以上のサイズに対応した大判プリンタは販売されているが、家庭用インクジェットプリンタのPIXUSシリーズでは最上位モデルとなる。6万円前後という価格は複合機の最上位モデルより高価であり、手軽に手の出せる価格ではないが、PX-5Vは「エプソンプロセレクション」にラインナップされ、PIXUS PRO-1とPIXUS Pro9500 MarkIIは型番に「Pro」の文字が入っている通り、3機種ともプロ向けの製品である。詳しく検証していこう。
まずはインクを見てみよう。PX-5VはK3インクと呼ばれる顔料インクを搭載している。これはビジネス向けのインクジェットプリンタで採用されているインクで、つよインク200Xとは異なる顔料インクである。K3インクは顔料インク自体やそれを包む樹脂を変更することで、色再現域の拡大、メタメリズム(光源が変わると印刷物の色味が違って見える現象)の低減、光沢感や黒濃度、耐候性、耐擦性を向上させたインクである。耐光性はカラーで45年、モノクロで150年、耐オゾン性は30年となる。さらに色数も8色と多く、フォトブラック又はマットブラックとグレー、ライトグレー、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、イエローという構成となっている。ブラック系インクが3種類も搭載されている他、マゼンダ系が高濃度のビビッドマゼンダになっているのが珍しい所だ。ちなみにフォトブラックとマットブラックは用紙によって排他利用となるが、同時にセットが可能であるため交換の手間はない。ブラック系の3種類が同時利用できる事になるが、ブラックに比べてグレーは2分の1の濃度、ライトグレーは6分の1の濃度となっている。これにより、モノクロ写真や原稿などでのグラデーション部分の階調性が上がるほか、カラーインクを混ぜずに階調表現を行えるために、階調の途中で青みがかる様な事が無く、色精度が大幅にアップしているため、モノクロ印刷時の画質が非常に高くなっている。またカラー写真の場合でも、彩度の高い部分ではライトグレーインクをベースとし、カラーインクの使用を必要最小限とする事で、余分な色味が混入せず、色転びのない色再現を得ることができるという特徴がある。さらに、論理的色変換システム「LCCS」を搭載しており、光源依存性(カラーインコンスタンシー)、階調性、粒状性、色再現性を数式アルゴリズムを用いた論理的制御でバランス良く最適化する事で、全体的な写真データのクオリティーを向上させている。さすがに価格が高いだけあり、インクの種類やインク構成、インクの制御まで随所にこだわりが見える。 一方のPIXUS Pro9500 MarkIIも顔料インクのLUCIAインクを採用する。LUCIAインクは耐候性と色安定性が高く、キヤノン写真用紙・絹目調使用時は、耐光性約が100年となっている。さらに色数は、PX-5Vよりさらに多い10色となっており、フォトブラック、マットブラック、グレー、シアン、フォトシアン、マゼンタ、フォトマゼンダ、イエロー、グリーン、レッドとなっている。フォトブラックに加え、グレーインクとマットブラックインクという3種類のブラックインクを搭載するのはPX-5Vと同じだが、こちらはブラックより濃度の薄いグレーと濃度の濃いマットブラックを採用している。グレーインクの効果としては、モノクロ写真や原稿のグラデーション部分での階調性が向上する他、グレーインクの淡インク効果により粒状感を低減させ、より微妙な階調表現が可能になっていると言う。また、グレー部分をシアン・マゼンダ・イエローを混ぜて作ると、各色の光の反射特性が異なるためメタメリズムが発生しやすくなるため、グレーそのもののインクを搭載する事で、反射特性が安定しメタメリズムが低減する効果もあるという。一方、マットブラックは暗部の色つぶれがなくなり、コントラストが高まる効果があるいう。その他、通常のインク構成では見られないグリーンとレッドインクも色再現性の向上に一役買っている。こちらも価格に相応しいインク構成である。 一番高いPIXUS PRO-1であるが、こちらもインク自体はPIXUS Pro9500 MarkIIと同じく顔料インクの「LUCIAインク」を採用する。色数はさらに多く、クロマオプティマイザーを含む12色となっている。構成としてはPIXUS Pro9500 MarkIIと比べると、ダークグレートライトグレーというブラック系インクが2色と、クロマオプティマイザーが追加される一方、グリーンインクが無くなっている。このインク構成により、PIXUS Pro9500 MarkIIよりさらに色域が拡大しているという。またブラック系のインクが3色から5色に増え、モノクロプリントでの階調表現が非常に高く、粒状感の目立ちやすいハイライト部分でもライトグレーの効果で粒状感が抑えられる。またこの5種類のブラック系インクはカラープリントでの表現力の向上にも一役買っている。そして、高画質を追求したのが、「OIG System」である。一つの色を表現する際に、12色のインクの組み合わせから、色の再現性だけでなく、階調性・黒濃度・粒状性・光沢均一性・ブロンズ・メタメリズムを考慮して適正な組み合せを選択するというシステムである。これにより1段と高い再現力を手に入れている。また、前述のクロマオプティマイザーは、打ち出されたインクの盛り上がり方が不均一な所に透明のこのインクを撃つことにより段差を軽減し、光沢のムラを少なくしているという。また、反射光により、グレーの印字部分が玉虫色の光沢を帯びて見えてしまったり、作品に映り込んだ照明光に本来とは違う色味が付いて見えたりするブロンズ現象の抑制効果もあるという。さらに他の2機種より高価なだけあって、1200ppi入力にも対応している。600ppi入力と比べると、細部のジャギーが軽減され、解像感がより高くなる。このように、価格に見合うだけの最新技術を惜しみなく搭載し、プロ用途にも耐えうる画質と再現性を手に入れている。 基本的な部分として、3機種共に顔料インクである事から、普通紙への印刷画質も高いという特徴がある。また耐水性も高いため濡れた手で触ったり、マーカーを引いたりしても滲まないのもメリットである。一方、写真用紙には印刷できるものの、用紙の持つ光沢感が失われて、ポストカードのような鈍い光り方となる。PIXUS PRO-1ではクロマオプティマイザーを使用するが、光沢のムラを軽減する物で、染料インクほど紙本来の光沢感が出るわけではない。そのためこれらの機種は携帯電話やコンパクトデジタルカメラで撮ったスナップ写真の印刷といった用途ではなく、一眼レフデジタルカメラなどで撮影した高画質のデジタル写真を、A3等の大判に印刷する用途に向いたインクの選択となっている。 インク滴はPX-5Vは2pl、PIXUS PRO-1は4pl、PIXUS Pro9500 MarkIIは3plである。PIXUS PRO-1の4plやPro9500 MarkIIの3plというのは、最近のプリンタの中では大きい方であるが、色数が多く、様々なテクノロジーが搭載されている分、色再現力は複合機や安価なA3プリンタより高くなっている。ま確かにこの3機種の主な使用目的を考えると、写真やグラフィックをA3以上の大判に印刷して飾るような用途が考えられる。その場合は、近づいてみるよりはある程度の距離から見ることになるため、多少の粒状感は気にならず、それよりも色の表現力が高い方が良いだろう。またブラック系のインクが多いため、最小インクドロップサイズから考えるほど粒状感を感じることはないだろう。また、それでもPX-5Vは2plまで小さくなっため、近くで見ても粒状感がかなり低くなっている他、遠くから見たときもザラザラとした感じが薄れるため、より高画質になる。なお、当然3機種とも、インクは各色独立しており、無くなった色だけ交換できる。またPIXUS PRO-1は前面からのインク交換に対応しており、より便利である。 対応する用紙は、背面給紙からの場合3機種とも最大A3ノビまでとなる。また最小はL判サイズとなるため、名刺やカードサイズには対応しない。セット可能枚数はA4普通紙で、PX-5Vが120枚、PIXUS PRO-1とPIXUS Pro9500 MarkIIが150枚となり、大きな差はない。一方、1枚ずつ手差しになるが厚紙の給紙にも対応する。PX-5Vは1.3mm厚まで、PIXUS PRO-1は0.6mm厚、PIXUS Pro9500 MarkIIは1.2mm厚まで対応している。PX-5VとPIXUS Prp9500 MarkIIは前面からの手差し、PIXUS PRO-1は背面の給紙トレイの下に手差しトレイがある。通常のプリンタ用の用紙であれば、「超厚口」をうたっているものでも0.3mm強であるため、2〜4倍の厚みの用紙に対応しているわけである。ただし、前面からの手差しの2機種は、内部に完全にまっすぐ用紙を挿し込める関係で1mmを超える厚紙に対応しているのに対して、最も価格の高いPIXUS PRO-1は背面のトレイが斜めになっており、用紙が内部で曲がるため、対応する厚さが劣るのは残念だ。厚紙だけでなく、PIXUS PRO-1とPIXUS Pro9500 MarkIIは手差しの場合はA3ノビ(329x483mm)より幅が広い、半切(356mm×432mm)に対応している。半切は銀塩写真の印画紙のサイズであるため、額などの種類が多いというメリットがある。一方のPX-5Vはロール紙に対応している。純正用紙に長さが10mのロール紙があるため、幅はA3ノビの329mmとなるが、長さは3276.7mm(Windowsの場合。Macでは1117.6mm)まで対応している(アプリケーションによっては更に長い用紙にも対応できる)。そのため、パノラマ写真の印刷も可能になっている。このように、3機種にはA3ノビ対応だけではなく、半切やロール紙などそれぞれ対応用紙に特徴があると言える。ちなみにPX-5Vの場合、排紙トレイを開いた内部にもう一段開けるようになっており、そこが手差し部分となる。CD/DVDレーベル印刷用のトレイを差し込む部分と共有になっているため、CDやDVDの厚みの1.2mmにCD/DVDディスクのトレイの厚みを足して1.3mm程度が差し込めることから、対応する厚紙も1.3mmになっていると思われる。一方PIXUS Pro9500は同じく排紙トレイ内部にもう一段開けるようになっているが、そこはCD/DVDレーベル印刷用のトレイ差し込み口のみとなる。一方、厚紙に印刷する際は、排紙トレイを半分開いた状態で上に引き上げてから倒し、内部の高さと同じ高さにする事で行えるようになる。PIXUS PRO-1は前述のように手差しは背面からなので、排紙トレイ内部にもう一段開けたところがCD/DVDレーベル印刷用のトレイ差し込み口となる。背面から手差しを行うPIXUS PRO-1では背面に大きなスペースが必要になる上に、用紙厚でも劣るため、手差しの便利さは前面から手差し出来るPX-5VとPIXUS Pro9500 MarkIIの方が便利だと言えるだろう。 その他の機能としてCD/DVDレーベル印刷機能は3機種とも備えている。また手軽に写真印刷が行えるよう、写真の自動補正機能として、PIXUS PRO-1とPIXUS Pro9500 MarkIIは「自動写真補正II」を備えている。顔を自動検出し、顔とそれ以外の部分の露光状態を別々に解析して、それぞれに合った明るさに補正してくれるため、高精度で自動補正が行える。一方、PX-5Vは下位機種や複合機で採用されている写真の自動補正機能「オートフォトファイン!EX」には対応していない。3機種とも、PictBridgeに対応しているため、PictBridge対応デジタルカメラとプリンタを直接繋いで、デジタルカメラの液晶画面でプリント操作が行える。ただし、PIXUS PRO-1とPIXUS Pro9500 MarkII共に、PictBridgeを使用した印刷では、前述の写真の補正機能は働かない点は注意が必要だ。また自動両面印刷機能は3機種とも備えていない。 印刷速度はL判縁なしで、PX-5600が37秒、PIXUS PRO-1が80秒、PIXUS Pro9500 MarkIIが105秒とかなりの差である。37秒はまあまあ高速と言えるが、80秒や105秒はかなり遅めだといえる。PIXUS Pro9500 MarkIIはPIXUS Pro9500からかなり高速化されたとはいえ、まだ遅い。PIXUS PRO-1ではPIXUS Pro9500 MarkIIの各色768ノズルからさらに増やし、各色1024ノズルとしており、総ノズル数は1万ノズルを超えているが、それでもPX-5Vには及ばない。L判写真ではこの程度の差だが、A3ともなるとかなりの差になってしまう。確かに用途を考えると、A3写真などを何十枚も印刷することはあまりないと思われるため、印刷が遅くても待つことは可能だろうが、L判用紙へのスナップ写真の印刷や、年賀状の印刷なども本機で行おうと思っている場合は注意が必要だ。 インタフェースはPIXUS Pro9500 MarkIIはUSB2.0のみの対応とシンプルである。一方、PX-5VはUSB2.0を2ポート備えているため、2台のパソコンを同時に接続できるほか、有線LANや無線LANにも対応している。PIXUS PRO-1もUSB2.0と有線LANに対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。無線LANはIEEE802.11nにも対応しており、無線でも高速に印刷できる。接続形態はPX-5Vが非常に豊富である。また、PX-5Vは本体に液晶ディスプレイを備えているのが、単機能プリンタとしては珍しい。しかも文字だけのモノクロ液晶ではなく、2.5型のカラー液晶を備えているため、無線LANの設定時やメンテナンス作業時の他、インク残量の確認など様々な面で便利である。 本体サイズは、幅はPX-5Vが最も小さく、高さと奥行きはPIXUS Pro9500 MarkIIが最も小さいが、幅・高さ・奥行きの全てが最大なのはPIXUS PRO-1である。どちらにしても設置面積は大きいため、店頭で一度確認した方が良さそうだが、とくにPIXUS PRO-1の威圧感は大きく、設置場所に苦労しそうだ。また、PX-5VとPIXUS Pro9500 MarkIIの2機種は前面からの手差しによる厚紙印刷に対応しているが、厚紙の場合は内部で曲げることが出来ないため、用紙の長さに近い長さが一度後方に飛び出すことになる点は注意が必要だ。前面給紙を行う場合は、PX-5Vでは後方に320mm以上のスペースを、PIXUS Pro9500 MarkIIでは400mm以上のスペースを確保することがマニュアルに書かれている。また、PX-5Vのロール紙も本体後部に取り付けるため、スペースが必要だ。PIXUS PRO-1は前述のように背面からの手差しであるため、よりスペースが必要になる。 この3機種から選ぶとすると、まず価格の高いPIXUS PRO-1をどうするかという事になる。確かに色の再現性や階調表現、解像感などでは他の2機種の上を行くが、本体サイズが大きく、印刷速度は遅め、手差しも不便などクセのある製品だ。価格が他の2機種の2倍近いのもネックである。他の2機種も様々な技術により画質や表現力は高めているため、大きな差があるかどうかは難しいところだ。PIXUS PRO-1の性能に惚れたという人以外は余りオススメできない。ではPX-5VとPIXUS Pro9500 MarkIIのどちらがオススメかというと、一般的にはPX-5Vだろう。色数の多さや技術による画質や再現性の高さだけでなく、最小インクドロップサイズも小さめで印刷速度も速いため、大判の写真印刷だけでなく、スナップ写真の印刷や年賀状印刷などにも、高画質で印刷でき、また大量の印刷でも待ち時間が小さくなる。液晶ディスプレイによってメンテナンス性も高く、USBポートが2つに有線・無線LANでの接続が可能であるなど、プロ向けの用途から一般的な家庭の用途まで幅広く使えるはずだ。ただし、半切用紙への印刷が気に入ったのなら、PIXUS Pro9500 MarkIIがオススメだ(逆にロール紙印刷が気に入ったならPX-5Vとなるが)。印刷速度の遅さは、スナップ写真や年賀状など大量に印刷することがなければ耐えられるだろう。また、画質に関してはPIXUS Pro9500 MarkIIは最小インクドロップサイズが大きいとはいえ色数はPX-5Vより多く、その他の技術により、かなりの高画質である事は間違いないはずだ。画質の点ではPX-5VとPIXUS Pro9500 MarkIIのどちらを選んでも満足いくとも思われる。ただ、好みもあるため一度店頭で印刷サンプルを確認するのがベストだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ |