小ネタ集
2015年末時点のプリンタ
〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜
(2015年12月09日公開)

プリンタ比較の記事は、新製品が数多く発表される「年末」と「春」の2回に掲載しています。
古い記事も過去の情報として利用できると考え、新製品を掲載したものは、新たな記事として掲載していますので、現在この記事は既に古くなっている可能性があります。
プリンタ比較を参考にされる方は、プリンター徹底比較の一覧ページより、最新のものをご覧ください。


9万円台のA3単機能機
 
 A3単機能機の最上位モデルとなるエプソンのSC-PX5VIIとキャノンのPIXUS PRO-1は、それぞれ89,980円と90,000円とかなり高価な製品だ。SC-PX5VIIはプロセレクションに属する製品で、PIXUS PRO-1は型番にPROが入っているように、プロ向けの製品だ。それだけに、家庭向けの複合機などとは一線を画す画質と機能となっている。どういった機能なのかを見つつ、2機種の内どちらがおすすめかを見ていこう。

メーカ
エプソン
キャノン
品番
SC-PX5VII
PIXUS PRO-1
製品画像
実売価格(メーカーWeb/税込み)
89,980円
90,000円
プリンタ部
インク
色数
9色(同時使用8色)
12色
インク構成
フォトブラック
マットブラック
グレー
ライトグレー
シアン
ライトシアン
ビビッドマゼンタ
ビビッドライトマゼンダ
イエロー
(ブラック2つは同時使用不可)
マットブラック
フォトブラック
ダークグレー
グレー
ライトグレー
シアン
フォトシアン
マゼンダ
フォトマゼンダ
イエロー
レッド
クロマオプティマイザー
カートリッジ構成
各色独立
各色独立
顔料/染料系
顔料
(UltraChrome K3)
顔料
(LUCUA)
ノズル数
1440ノズル
12288ノズル
全色:各180ノズル
全色:各1024ノズル
最小インクドロップサイズ
2pl(MSDT)
4pl
最大解像度
5760×1440dpi
4800×2400dpi
給紙・排紙関連
対応用紙サイズ
L判〜A3ノビ
L判〜A3ノビ/半切
給紙方向
(A4普通紙セット可能枚数)
背面
○(A3ノビ対応/120枚)
○(A3ノビ対応/150枚)
前面
その他
前面手差し(A3ノビ/1.3mm厚)
ロール紙(A3ノビ)
背面手差し(A3ノビ・半切/0.6mm厚)
自動両面印刷
用紙種類・サイズ登録
排紙トレイ自動開閉
自動電源オン/オフ
−/○
○/○
特殊機能
CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷
写真補正機能
○(自動写真補正II)
パソコンから印刷時のみ
PictBridge
○(USB)
特定インク切れ時印刷
印刷速度
L判縁なし写真(メーカー公称)
37秒
80秒
A4普通紙カラー(ISO基準)
N/A
N/A
A4普通紙モノクロ(ISO基準)
N/A
N/A
ネットワーク
印刷
スマートフォン連携
対応端末
iPhone
iPod touch
iPad
(iOS 5.0以降)
Android 2.2以降
写真プリント
ドキュメントプリント
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
Webページプリント
クラウド連携
スマートフォン経由/本体
○/−
−/−
オンラインストレージからの印刷
SNSからの印刷
写真共有サイトからの印刷
メールしてプリント
リモートプリント
スキャンしてリモートプリント
液晶ディスプレイ
2.7型(角度調整可)
操作パネル
タッチパネル液晶+ボタン
インターフェイス
USB他
USB2.0×1
USB2.0×1
無線LAN
IEEE802.11n/g/b
(Wi-Fiダイレクト対応)
有線LAN
100BASE-TX
100BASE-TX
外形寸法(横×奥×高)
616×369×228mm
695×482×239mm
重量
15.0kg
27.7kg
 

 まずはインクを見てみよう。SC-PX5VIIは「UltraChromeK3インク」と呼ばれる顔料インクを搭載している。これはビジネス向けのインクジェットプリンタや家庭用複合機の下位機種が採用している「つよインク200X」とは異なる顔料インクである。また、1つ下位モデルのSC-PX7VIIの採用する顔料インクとも異なる。UltraChromeK3インクは従来のK3インクをさらに改良したインクである。そもそも、顔料インクは色の安定性が高く、また色の定着が早いため、印刷後にしばらくしてから色味が変わるということがない点で扱いやすい。K3インクでは、それらの特徴を持ちつつ、インクを樹脂で包むことで、顔料インクながら高い光沢感光が得られるだけでなく、光の乱反射を押さえ、光源やみる角度によって色味が違ってみてる「ブロンジング」が押さえられ、さらに対摩擦性も向上していた。UltraChromeK3インクではさらにインクを包む樹脂を厚くすることで 、さらに光の乱反射が40%低減しているという。また、黒インクを4種類搭載し、用紙によってフォトブラックまたはマットブラックと、グレー、ライトグレーの3色を使用するため、モノクロ印刷の表現力が高いのはいうまでもなく、カラー印刷でも表現できる領域が広がっている。またUltraChrome K3インクではK3インクよりも、フォトブラックではインクを包む樹脂に1.5倍の密度で顔料の色材を配合することで黒濃度が向上、マットブラックでは、顔料の色材がより用紙表面で定着するため、重厚感のある黒となり、結果さらに色域が広く、色つぶれのしない細やかな階調表現が可能になった。インク構成も前述の4色のブラック系インク意外に、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、イエローという構成となっており、マゼンダ系が高濃度のビビッドマゼンダになっているのも色域の拡大に一役買っている。もちろん各色独立インクであるため、なくなった色だけ交換が可能だ。ちなみに、耐保存性は、アルバム保存で200年、耐光性は60年、耐オゾン性は60年と、こちらも非常に高くなっている。最小インクドロップサイズは2plと、複合機の最上位モデルほどではないものの非常に小さく、遠くからみる大判プリントだけでなく、小さな用紙への写真印刷や年賀状印刷などでも粒状感を感じさせない印刷が可能だ。また、3種類のインクサイズを打ち分けるMSDTに対応しているため、べた塗り部分には大きなインクで対応するため、ムラが出にくいという特徴もある。
 一方、PIXUS PRO-1は12色と、SC-PX5VIIを超える色の数となっている。構成としてはブラック系が5色でフォトブラック、マットブラック、ダークグレー、グレー、ライトグレーとなっており、これにシアン、フォトシアン、マゼンダ、フォトマゼンダ、 イエロー、レッドのカラー6色、さらに後述のクロマオプティマイザーとなっている。インクも、顔料系の「LUCIAインク」となっている。インク自体は、UltraChromeK3インクほどこだわったものではないが、顔料インクならではの色安定性と、短時間での色の定着という特徴がある。そしてSC-PX5VIIと比べてブラック系インクが2色多い5色であるため、モノクロ印刷時の階調表現がよりスムーズで、また濃いインクを粗く打つ場合と比べて、それぞれに合った濃度のグレーインクを使うことで粒状感が押さえられる。もちろん、カラー印刷時にもその恩恵は受けられる。またカラーに関しては基本的な構成に加えて、くすみがちな赤系の色を鮮やかに表現するためにレッドインクを搭載している。また、これに加えて透明の「クロマオプティマイザー」インクもおもしろいインクだ。紙の上に打ち出されたインクはわずかながら高さがあり、そこに光が当たることで反射光が不均一になってしまう。結果、光沢感にムラができ、色が浮き出ているような違和感を覚えたり、本来とは違う色味が見えてしまう「ブロンズ現象」が発生してしまう。透明の「クロマオプティマイザー」を打つことで、インクの段差が軽減されることで、これらの現象も改善されるという。ちなみにLUCIAインクはアルバム保存200年、耐光性60年、耐ガス性50年とこちらもかなり高くなっている。最小インクドロップサイズは4plとSC-PX5VIIの倍となる。大判プリントで遠くからみるなら問題ないレベルだし、インクの色数が多い分粒状感は抑えられるが、箇所によっては粒状感を感じる場合もあるだろう。
 これら2機種はインクそのものだけでなく、インクの組み合わせやその量などの制御方式も、一般的なプリンタとは一線を画すものとなっている。SC-PX5VIIの場合、論理的色変換システム「LCCS」を搭載する。8色インクの場合、表現できる色の数は1,840,000,000,000,000,000通りになるが、その中から階調性、色再現域、粒状性、光源依存性がバランスよく制御される様に、インク配分を論理的に算出してプリントする。一方、PIXUS PRO-1も「OIG System」を使用する。一つの色を表現する際に、12色のインクの組み合わせから、色の再現性だけでなく、階調性・黒濃度・粒状性・光沢均一性・ブロンズ・メタメリズムを考慮して適正な組み合せを選択するというシステムである。さらに1200ppi入力にも対応している。一般的な600ppi入力と比べると、細部のジャギーが軽減され、解像感がより高くなる。このように、両機種とも、価格に見合うだけの高度な最新技術を惜しみなく搭載し、プロ用途にも耐えうる画質と再現性を手に入れている。
 対応用紙にもそれぞれこだわりがある。基本的に使用する背面給紙の場合A3ノビサイズまで対応する。最小サイズはL判となる。そして、SC-PX5VIIは前面からの手差し給紙により、通常のプリンタの4倍以上となる1.3mm厚の用紙に印刷することが可能だ。排紙トレイを開いた内部にもう一段開けるようになっており、そこが手差し部分となる。前面からの手差しで直線的に給紙が可能であるため、厚紙印刷が可能というわけである。一般的なプリンタに対応する厚紙は0.3mm程度なので4倍以上の厚みにも対応しており、壁に掛ける場合などにも便利だろう。さらに、背面からのロール紙印刷にも対応する。純正用紙に長さが10mのロール紙があるため、幅はA3ノビの329mmとなるが、長さは3276.7mm(Windowsの場合。Macでは1117.6mm)まで対応している(アプリケーションによっては更に長い用紙にも対応できる)。そのため、パノラマ写真の印刷も可能になっている。一方PIXUS PRO-1も手差し給紙に対応するが、背面からとなる。背面の給紙トレイの下に手差しトレイがあり。用紙のセットがやや不便なほか、手差しトレイが斜めになっているため、用紙が内部で曲がる必要があり、対応する厚さは0.6mmまでとなっている。一般的なプリンタの倍の厚みの用紙に対応しているとも言えるが、SC-PX5VIIと比較すると劣るのは残念だ。しかし、手差しの場合はA3ノビ(329x483mm)より幅が広い、半切(356mm×432mm)用紙に対応しているのは大きなメリットだ。半切はA3などとは異なりアスペクト比が5:4の銀塩写真時代の印画紙のサイズであるため、そのサイズにこだわりのある人が少なからずいる他、額などの種類が多いというメリットがある。
 そのほかの機能をみてみると、CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能は両機種とも備えている。自動両面印刷機能は両機種とも非対応だ。SC-PX5VIIは用紙種類・サイズの登録が行えるため、セットしている用紙と異なる用紙サイズや種類の設定で印刷を実行しようとするとメッセージが表示される。印刷失敗による紙とインクの無駄を抑えることができる。特に大判印刷が多いと思われるため、1枚でもかなりの印刷コストとなることから、この機能は便利だ。また指定した時間がたつと自動的に電源がオフになる機能も備える。一方PIXUS PRO-1は自動電源オフだけでなく、印刷が実行されると自動的に電源がオンになる機能も備える。またUSB接続のPictBridgeに対応し、またパソコンから印刷時は顔を自動検出し、顔とそれ以外の部分の露光状態を別々に解析して、それぞれに合った明るさに補正してくれるため、高精度で自動補正が行える「自動写真補正II」機能も利用でき、プロ用とだけでなく気軽にきれいな写真印刷も可能となっている。
 印刷速度をみてみよう。L判写真フチなし印刷の場合、SC-PX5VIIが37秒、PIXUS PRO-1が80秒と大きな差となっている。SC-PX5VIIが各色180ノズル、PIXUS PRO-1が各色1024ノズルとノズル数は両機種とも多いが、SC-PX5VIIはMSDTのおかげで大小のインクを打ち分けることで高速化している効果があるのか、両機種とも内部の処理が複雑だがそこの速度に違いがあるのか、PIXUS PRO-1は1200ppi入力が影響しているのかわからないが、L判写真印刷速度はSC-PX5VIIが高速だ。続いてA3ノビのフチあり写真印刷速度である。SC-PX5VIIは2分33秒、PXIUS PRO-1は2分55秒となり、若干差はあるものの、L判フチなしよりも差は小さくなっている(ただし、写真用紙・光沢プロ[プラチナゴールド]を使用する場合は4分20秒)。大判プリントがメインの場合は印刷速度はあまり気にしなくてもよいかもしれない。
 スマートフォントの連携機能はSC-PX5VIIのみ搭載している。iPhoneやiPod touch、iPadと、Android端末に対応している。いずれも、専用のアプリを無料でダウンロードすることでプリントが行える。メインで使用すると思われる写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応している他、Webページの印刷もできる便利だ。また、クラウドとの連携機能も搭載されており、オンラインストレージから印刷が可能だ。Wi-Fiダイレクトにも対応しているため、アクセスポイントのない環境でも使用可能となっている。

 操作パネルとしてはPIXUS PRO-1がプリント単機能機らしく、電源と給紙ボタン程度しかないのに対して、SC-PX5VIIがかなり本格的なものを搭載している。まず液晶ディスプレイを搭載しており、2.7型と比較的大きめだ。しかもタッチパネル操作が可能となっている。それ意外に液晶右にタッチパネル式上下カーソルボタン、左に物理ボタン式の電源や戻るといった4つのボタンが並んでおり、それらと液晶ディスプレイを併せて角度調整が可能というのは、プリント単機能機としてはかなり高性能だ。インク残量確認や各種設定が簡単に行え、スマートフォンやタブレットとWi-Fiダイレクトを使用して接続する場合の設定もこちらで行える。またエラー内容が一目でわかるなど、非常に使いやすくなっている。
 インタフェースはいずれもUSB2.0に加えてネットワーク接続に対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。ただし、SC-PX5VIIが無線LANと有線LANの両方に対応しているのに対して、PIXUS PRO-1は有線LANのみの対応となる。本体サイズは、SC-PX5VIIが616×369×228なのに対して、PIXUS PRO-1は695×482×239mmとなる。全体的にSC-PX5VIIが小さくなっている。ただし、どちらにしても設置面積は大きいため、店頭で一度確認した方が良さそうだが、とくにPIXUS PRO-1の威圧感は大きく、A3ノビより横幅が大きい半切用紙に対応していることや、インク色数が多いこともあると思われるが、設置場所に苦労しそうだ。横幅が大きいのは、また、SC-PX5VIIは前面からの手差しによる厚紙印刷に対応しているが、厚紙の場合は内部で曲げることが出来ないため、用紙の長さに近い長さが一度後方に飛び出すことになる点は注意が必要だ。前面給紙を行う場合は、SC-PX5VIIでは後方に320mm以上のスペースを確保することがマニュアルに書かれている。また、SC-PX5VIIのロール紙も本体後部に取り付けるため、スペースが必要だ。一方、PIXUS PRO-1は前述のように背面からの手差しである。斜めにではあるが、用紙の長さ分のスペースがないと用紙が挿し込めないためこちらも後方のスペースはかなり必要である。いずれの場合も手差し印刷を使用する場合は注意した方が良さそうだ。
 どちらの機種から選ぶかということについては非常に難しい。画質面では色数や色の制御などの面で、両機種ともかなり高機能であり、画質的にはプロ向けの最上位機種にふさわしいものとなっている。逆に言えばそこでの差は付きにくいこととなる。L判フチなし印刷速度の違いはあるが、A3ノビフチありでは差はほとんどないし、そもそもこのクラスの製品で、印刷速度を理由に機種を選ぶのはナンセンスだろう。大きく違うのが対応用紙だ。SC-PX5VIIはA3ノビまでである代わりに、1.3mm厚の厚紙に対応しているほか、ロールしに対応している点がメリットだ。一方、PIXUS PRO-1は厚紙は0.6mm厚までだが、半切用紙に対応している。どちらの用紙を使うかで機種が決まるだろう。また、スマートフォンからの印刷を行いたいならSC-PX5VIIとなる。また、画質はどちらも高品質なのは同じだが、表現方法に違いは出ると思われるため、実際の印刷サンプルを見て決めるのもよいかもよいかもしれない。


(H.Intel)


【今回の関連メーカーホームページ】
エプソンhttp://www.epson.co.jp/
キャノンhttp://canon.jp/


SC-PX5VII
PIXUS PRO-1