新旧プリンター比較 2018年春発売のプリンターを旧機種と比較する (2019年6月15日公開)
PIXUS iP2700は数少ないA4プリント単機能機の下位モデルとして長い間販売されてきた。価格も3千円台を付けることが多く、圧倒的に低価格なプリンターである一方、無線LAN(Wi-Fi)接続機能はおろか、排紙トレイすらないという思い切った製品だった。また使用するインクが310/311番と、最新のインクカートリッジの2世代前のもので、さすがに古さが目立つようになってきた。今回PIXUS TS203という新製品へのバトンタッチが行われたため、この2機種を徹底的に比較してみよう。
まずは、PIXUS TS203とPIXUS iP2700の画質や速度などを比較してみよう。ちなみに発売開始時の価格はPIXUS iP2700から1,000円ほど安価な6,880円となっているが、PIXUS iP2700の価格は3,000円台まで下がっており、店頭での販売価格は上がることとなる。 インクの色数は4色で、顔料ブラックと染料カラー3色という構成は同等だ。印刷解像度も同等、最小インクドロップサイズは非公表問うことだが、おそらく2plで同等だろう。インクは310/311番から最新の345/346番へと変化した。しかし、画質面ではそう変化はないだろう。またカラー3色が一体型のカートリッジである点も同じだ。しかし、このインクカートリッジの変更によって、写真の耐保存性が変化している。PIXUS iP2700の310/311番は「ChromaLife 100+」という名称のインクだ。これは、現在の上位機種が採用する「ChromaLife 100」よりも更に耐保存性に優れたインクだ。当初は上位機種も含めて「ChromaLife 100」だったが、2008年末に発売されたモデルから「ChromaLife 100+」に進化していた。ところが2015年末のモデルから「ChromaLife 100」に逆戻りし現在に至っている。PIXUS iP2700はちょうど「ChromaLife 100+」の時期に発売された製品だったため、最も安い機種なのに耐保存性は優れているという逆転現象になっていたのだ。ちなみに「ChromaLife 100+」はアルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年をうたっているが、PIXUS iP2700の耐光性は30年になっている。一方、PIXUS TS203は「ChromaLife 100」の表記も無くなっている。実際に「ChromaLife 100」に準拠していないという。「ChromaLife 100」はアルバム保存100年をうたっており(耐光性・耐オゾン性に関しては表記無し)、PIXUS TS203はこれ以下ということになる。「ChromaLife 100+」だったPIXUS iP2700から比べると、耐保存性は大きく低下したと言える。 ノズル数も少し変化した。PIXUS iP2700ではブラックは320ノズルでカラーは各384ノズルだったが、PIXUS TS203では全色各320ノズルとなった。そのため印刷速度ではL判写真フチ無しが46秒から52秒に、A4カラー文書が4.8ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)から4.0ipmにやや低下している。一方A4モノクロ文書は7.0ipmから7.7ipmにやや高速化している。つまり設計の新しさにより同じノズル数でも高速化しているが、カラー印刷はノズル数の減少の影響の方が大きいという事だろう。 印刷コストは、L判フチなし写真はPIXUS TS203が21.7円で、PIXUS iP2700の23.4円(インクカートリッジ値上げ後)よりはやや安くなった。一方A4カラー文書はPIXUS TS203では14.1円で、PIXUS iP2700の13.6円よりやや高くなった。とはいえどちらも大きな差では無く、また、インクジェットプリンターとしては高い部類に入る。ちなみにPIXUS iP2700のインクは、ブラックの310番は2,420円、カラーの311番は2.620円となっていた。PIXUS TS203のインクは、ブラック(大容量)の345XLは2,520円、カラー(大容量)の346XLは2.320円となっている。PIXUS iP2700ではブラックインクの方が安かったが、PIXUS TS203ではブラックインクの方が高くなっている。ブラックインクを使わない写真印刷ではPIXUS TS203の方が安くなり、ブラックインクを使うカラー文書では高くなったことから、どちらのインクカートリッジも量はあまり変わらず、価格が上げ下げされた分変化があったと言えるだろう。
なおPIXUS TS203では用紙サイズを登録する機能が搭載されている。登録内容と、印刷時の用紙設定が異なっている場合、メッセージが表示される仕組みで、印刷ミスを減らすためだが、複合機のように、液晶を使って用紙サイズと用紙種類を自由に選択できるのとは異なる。切り替えボタンにより、「レター/KG」と「A4/はがき/L判」の2択を選ぶだけだ。例えばA4とハガキやL判とハガキサイズの間で間違いがあってもメッセージは表示されないし、用紙の種類を間違っていても表示されない。あくまで簡易的なものだ。 なお、PIXUS iP2700では排紙トレイが無く、机の端などに置いていると、印刷した紙が床に散らばってしまうと言う問題があったが、PIXUS TS203では一般的な伸縮式の排紙トレイが搭載されている。 その他、プリントの付加機能を見てみよう。低価格な機種なので元々機能が少なく、自動電源オン/オフくらいしか搭載されておらず、これはPIXUS TS203でも継承されている。もう一つ気になるのが、「自動写真補正II」の表記が無くなった事だ。正確には、公式ホームページの「自動写真補正」の説明の対応機種にPIXUS TS203が掲載されていないのだ。ダイレクト印刷時に対応した機種だけ掲載されているのかとも考えたが、PIXUS iP2700やPIXUS TS5130なども掲載されている。写真補正機能に関しては搭載されていない、もしくは簡易的なものしか搭載されていない可能性も考えた方が良いだろう。 続いて、スマホ・クラウド対応機能だが、これはPIXUS TS203がネットワーク接続に対応していないことから、一切機能を搭載していない。この点はPIXUS iP2700と同等だ。
インタフェースはUSB2.0のみで、これはPIXUS TS203とPIXUS iP2700では同等だ。無線LANや有線LANなどのネットワーク接続には非対応だ。対応OSは大きく変化した。PIXUS iP2700ではWindows 2000以降のOSに対応していたが、PIXUS TS203はWindows 7以降で、Windows7はSP1が必要、またWindows 8.1には対応するがWindows 8には非対応と、マイクロソフトのサポートに従った形となった。MacOSも、10.4.11以降から10.10.15以降と、対応バージョンは新しいものだけとなった。また、MacOS用には専用のドライバは用意されず、MacOS標準の印刷機能を利用するようになった点も注意が必要だ。 本体サイズは426×255×131mmと、PIXUS iP2700と比べて横幅が2cmほどだけ小さくなった。とはいえ、近年のプリンターの小型化の流れから見ると、比較的大きめと言える。奥行きはスキャナを搭載しない分小さいとは言え、背面給紙トレイを開くスペースが後方に必要だ。サイズ面ではPIXSU TS203は進化したとは言えないだろう。 長い間継続販売されてきたPIXUS iP2700はインクカートリッジの型番でも古さが否めず、また最新のWindowsには対応しているとは言え、PIXUS iP2700発売時のOSであるWindows 7までしかドライバがセットアップディスクには収録されておらず、Windows 10/8.1/8に関してはダウンロード対応となるなど、旧機種のような不便さがあった。その点では新機種へと移行する必要性はあったと思われる。一方で機能面で見ると、新機種とは思えないほど機能が劣る部分が多い。印刷速度、写真の耐保存性、用紙セット可能枚数などだ。唯一用紙サイズを選択することで、異なっている場合にメッセージが表示される機能を搭載したが、2種類からの選択式では、複合機に搭載された同機能と比べてあまりにも簡易的だ。残念ながら、新機種としても魅力には乏しいといえる。複合機が全盛期の時代に、単機能プリンターが魅力的ではまずいと、あえて機能を強化しなかった節もあるが、せめて本体サイズだけでも小型化していれば魅力的な製品ではあったのだが。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ |