まずはプリントの基本となる画質と速度、印刷コストから見ていこう。まずは写真画質である。5機種の中で写真印刷画質が最も高いのはEP-306 である。ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に加えて、ライトシアンとライトマゼンダを搭載する6色構成である。最小インクドロップサイズも1.5plと極小であるため、全体を通して粒状感がほとんど無い高画質な印刷が可能である。特にライトインクを搭載するのは5機種中でEP-306 のみであり、色の薄い部分でも粒状感が目立たないというメリットがある。また、この画質は家庭用A4複合機の上位機種EP-881Aとほぼ同等であるため(インクが少々異なるが)、画質面では最高レベルであると言える。インクは染料インクを採用しているため、写真用紙へ印刷した際に用紙の光沢感がそのまま出るため写真印刷に向いているといえる。次に画質が高いのはPIXUS iP7230 である。5色構成となるが、色はブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色となっており、ブラックインクのみ染料インクと顔料インクの2種類を搭載する。そのため写真印刷時は4色印刷となり、色の薄い部分で粒状感が若干気になる。といっても最小インクドロップサイズが1plと極小でEP-306 よりさらに小さいため、よく目をこらしてみないと粒状感は感じられず、写真全体がザラザラと見えるようなレベルではない。EP-306と比べるとやや劣るが、十分に写真印刷に耐えうる高画質である。PX-S740 とMAXIFY iB4130 は4色インク構成であるため、写真印刷自体はPIXUS iP7230 と同じといえる。ただし、インクが全色顔料インクを採用している。顔料インクは写真用紙への印刷が苦手で発色が悪くなるほか、用紙本来の光沢感が薄れポストカードのようになる。またPX-S740 は最小インクドロップサイズが2.8plと大きく、全体にざらざらした印象を受ける。さらに。MAXIFY iB4130 は最小インクドロップサイズを公表していないが、同機能の海外モデルではカラーが5pl、ブラックが11plとなっており、このサイズでは写真画質とは言いがたい。その上フチなし印刷非対応となっている点も注意が必要だ。G1310 も4色インクだが、ブラックが顔料、カラー3色が染料インクとなる。そのため、写真印刷はカラー3色で行う事になり、黒色もカラーインクで表現する。そのため、完全な黒にはならないため、全体に白っぽいメリハリの無い印刷になる。最小インクドロップサイズは非公表ながら、同機能の海外モデルでは2plとされており、粒状感は若干あるといえる。とはえい、染料インクで印刷できるため用紙の光沢感は失われない。よって、写真印刷画質はEP-306が最高で、PIXUS iP7230 でも十分高画質だが、これ以外は写真向けとは言えない。PX-S740 は顔料インクであるため、G1310 はブラックインクを使用しないため、写真印刷ができないわけではないが、それぞれ問題があり、MAXIFY iB4130 に関しては写真印刷は想定されていないと思われる。
写真の耐保存性に関しても違いがある。EP-306 は「つよインク200」となっており、アルバム保存300年、耐光性50年、耐オゾン性10年と、耐保存性は非常に高い。PIXUS iP7230 も「ChromaLife 100+」であり、アルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年と、こちらも耐保存性は非常に高い。さすがに写真印刷向けの画質のプリンターと言えるだろう。PX-S740 は「つよインク200X」でありアルバム保存200年、耐光性45年、耐オゾン性30年と、写真印刷向きの画質とは言いがたいが、耐保存性の面では問題ないと言える。一方MAXIFY iB4130 は「MAIFY用新顔料インク」となっており、耐保存性は示されていない。G1310 は特にインクに名称が付けられていないが、カートリッジ方式の最新機種で採用されている「ChromaLife 100」(アルバム保存100年)には準拠しないとの事なので、これより劣る可能性が高い。
一方、文書印刷(普通紙への印刷)の画質となると、大きく異なる。普通紙印刷の場合、染料インクでは用紙上でインク1滴1滴が広がってしまうため、シャープさが弱くなり、文字や線が太くなるほか、中抜き文字や小さな文字が潰れたり、写真のメリハリが弱くなる。また耐水性が弱いため濡らしてしまったり濡れた手で触るとにじんでしまう。顔料インクではこういったことは無く、普通紙にもシャープな印刷ができる他、耐水性も高い。このことから、EP-306 は全色染料インクであるため、普通紙の印刷画質は並だ。また、複合機の最新機種と比べると発売が古いため、ドライバレベルでの改善もやや弱い。逆にPX-S740 、MAXIFY iB4130 は全色顔料インクであるため、カラー・モノクロ問わず普通紙の印刷画質は非常に高い。ある意味普通紙に特化していると言える。ただし、MAXIFY iB4130 は前述のように最小インクドロップサイズが他機種よりもかなり大きいため、普通紙に印刷する写真やグラフなどでも粒状感が目立ってしまう可能性はある。逆に、PX-S740 はPrecissionCoreプリントヘッドを採用しており、普通紙印刷時の解像度も360dpiから600dpiにアップしているため、より高画質で、図面のような細い線でも潰れず印刷ができる。最小インクドロップサイズもMAXIFY iB4130 より小さいため、粒状感も抑えられるだろう。残るPIXUS iP7230 とG1310 はブラックだけだが顔料インクを搭載しているため、ブラックインクを使用する部分に限ってだが、顔料インクの恩恵が得られる。カラー部分は染料インクを使用するのはもちろん、完全な黒ではなくグレーの部分はカラーインクを混ぜて作るため染料インク、また背景色がある場合など染料インクの上に顔料インクを打てないため、そういった部分も染料ブラックを使用するため、背景色の無い完全な黒という条件ではあるが、黒文字などが顔料インクなだけでも全体の仕上がりはぐっと引き締まる。よって、写真印刷に力を入れたEP-306、文書印刷に特化したPX-S740 とMAXIFY iB4130 、中間のPIXUS iP7230 とG1310 という構図となる。
印刷速度を見てみよう。L判写真の縁なし印刷速度では、EP-306 が14秒、PIXUS iP7230 が18秒とこの2機種はかなり高速で、大量の印刷でもストレス無く行えるだろう。EP-306 は最小インクドロップサイズが1.5plと小さいものの、5つのサイズのインクを打ち分けるAdvanced-MSDTに対応しており、必要に応じて大きなドットを打つことで、画質と速度を両立している。PIXUS iP7230 も最小インクドロップサイズは小さいが、ノズル数を多くすることで高速化している。一方PX-S740 はカラーが各256ノズル、黒に至っては800ノズルとノズル数はEP-306 より多いが、41秒と他の2機種と比べるとかなり遅い事が判る。Advanced-MSDTより劣る3つのサイズのインクを打ち分けるMSDT対応という事も影響していると思われるが、文書印刷に特化した設計になっているためと思われる。41秒でも、十分使えるレベルではあるが、他の機種と比べると差が大きい。写真印刷を大量にするなら他機種が良いだろう(もっとも顔料インクのPX-S740 で写真印刷を主体に使うことは無いと思われるが)。MAXIFY iB4130 とG1310 は写真印刷速度が公表されていない。
一方、A4普通紙への文書印刷速度はL判写真とは傾向が異なる。こちらは単位をipmで表す。ipmはimage per minute、つまり1分あたりの印刷枚数であるため、数値の大きい方が高速になる。カラー文書の印刷はEP-306 を除く4機種が公表している。PX-S740 はカラー10.0ipm、モノクロ19.0ipmで、PIXUS iP7230 は10.0ipmと15.0ipmと比べてもカラーは同等、モノクロはPX-S740 の方が高速だ。写真印刷とは異なる結果で、やはりPX-S740 は普通紙印刷を重視した設計となっているようだ。そして、これらを上回るのがMAXIFY iB4130 で、カラー15.5ipm、モノクロ24ipmと圧倒的に高速だ。もともと文書印刷に特化した設計の上に、1枚目の印字中に2枚目を重ねて搬送させる「重ね連送」を行っており、高速化を図っている。とはいえ、PX-S740 も決して遅いわけでは無く、PX-S740 とMAXIFY iB4130 はインクの種類の面だけでなく印刷速度の面でも普通紙印刷向きと言える。一方のG1310 はカラーが5.0ipm、モノクロが8.8ipmと、MAXIFY iB4130 と比べると3分の1、PIXUS iP7230 と比べても半分程度の速度で、決して高速とは言えない。印刷枚数が多い場合は注意が必要だろう。
印刷コストを見てみよう。まずはL判写真の印刷コストである。EP-306 が20.6円で標準的な値だ。一方PX-S740 は22.9円とやや高くなる。大容量インクを採用しているものの、顔料インクでの写真印刷は印刷コストが上がる傾向があるため、EP-306 より高くなっている。一方PIXUS iP7230 は15.3円とかなり安い。EP-306 とPIXUS iP7230 との差は5.3円なので、100枚で530円。この差を大きいと感じるかは人によって違うだろうが、写真を大量印刷するならPIXUS iP7230 がおすすめだ。MAXIFY iB4130 とG1310 は写真の印刷コストは公表されていない。
一方、文書の場合は傾向が異なる。EP-306 はA4カラー文書が11.7円でこれは平均的な値だ。一方、PX-S740 はA4カラー文書9.4円、A4モノクロ文書3.2円となり、写真の印刷コストと逆にPX-S740 の方が安い。また、これは比較的安めと言え、PX-S740 の本来の用途である普通紙印刷では印刷コストは安めだ。PIXUS iP7230 はA4カラー文書が8.6円と、写真印刷ほどの差は無いがPX-S740 より安く、写真も文書も大量印刷でも安心と言える。MAXIFY iB4130 は文書印刷向けで印刷コストを売りにしている機種だけあってカラーが6.1円、モノクロが1.8円と圧倒的に安い。これら4機種は従来のインクカートリッジ方式となる。一方、G1310 は特大容量タンク方式となっている。インクはボトルで購入し、本体の左右に埋め込まれた「特大容量タンク」に注入してインク補充を行う。インクボトル1本でタンクが満タンになる。こういった方式であるため、印刷コストはカラーが0.8円、モノクロ0.3円と他を寄せ付けない低印刷コストとなる。また、インクボトル各1本でA4カラー文書を印刷した場合ブラックは6,000枚、カラーは7,000枚まで印刷が可能で、インク交換の手間を省ける他、インク切れによって印刷が途中で止まっていたという事態も発生しにくい。大容量インクを使えるPX-S740 でもブラック1,500枚、カラー730枚、MAXIFY iB4130 でもブラック2.500枚、シアン1,755枚、マゼンダ1,295枚、イエロー1,520枚なので、その多さが分かるだろう。一方でインクボトルの価格は低く抑えてあり、4色購入しても5,080円だ。PX-S740 やMAXIFY iB4130 の大容量インクカートリッジの価格はかなり高く、PX-S740 は大容量の75番インクは4色セットで8,650円、MAXIFY iB4130 の大容量インク2300XLは4色買うと10,870円となる事を考えると、インク購入回数も少なくてすむが、いざ購入する時の負担も少ない。本体価格は高めに設定されているが、他の機種がセットアップ用のインクしか同梱しないのに対して、G1310 はカラー各1本、ブラックは2本同梱されている。初期充填である程度は使用するため、実際に使える量は少なくはなるが、それでも数千枚の印刷が可能と思われる。初期充填で半分使用すると仮定しても、ブラックは9,000枚、カラーは3,500枚分のインクが残るわけで、これはPX-S740 換算だと、ブラックが6本、カラーは各5本弱必要となり、48,780円相当となる。MAXIFY iB4230換算だと、ブラックが4本弱、シアンが2本、マゼンダが3本弱、イエローが2本強必要となり、32,500円相当となる。同梱インクを使い終えた頃には、他の機種ではかなりの出費となっていることを考えると、非常にお得な機種だと言える。
ただし、G1310 にも弱点はある。それはインクボトルからインクを補充するという点だ。エプソンのエコタンクも同じような方式だが、こちらは第2世代の「挿すだけ満タン」インク方式となっており、インクボトルを挿すと注入が始まり、満タンで自動ストップ、しかも間違った色のタンクにはボトルが挿さらないため、入れ間違いが起こらない。G1310 は改良前のエコタンク方式と似ており、大きめの注入口にボトルの先端を突っ込む方式となる。注入口はただの穴なので、間違った色を補充しないように注意が必要だ。また、ボトルの側面を押して注入する必要があり、満タンは目視で確認する必要がある。そのため、間違えてしまったりこぼしてしまったり、あふれさせてしまうと言う危険性があり、インクカートリッジ方式と比べると、やや難しい点がある事は否定できない。
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