小ネタ集
新旧プリンター比較
2019年春発売のプリンターを旧機種と比較する
(2019年8月16日公開)

表中の赤文字は旧機種・参考機種からの変更点です。なお3機種で比較している場合は、旧機種1・参考機種1からの変更点となります。

TR703とPIXUS iP7230を徹底比較する

 PIXUS iP7230は数少ないA4プリント単機能機の上位モデルとして長い間販売されてきた。去年、同じく新機種が発売されていなかった下位機種PIXUS iP2700についにPIXUS TS203という後継機種が登場したが、今年はPIXUS iP7230にTR703という後継機種が登場した。PIXUS TS203はPIXUSブランドを関していたが、TR703はPIXUSブランドでは無く、TRシリーズと言うこともあり、ビジネス向けラインナップに移行した。また、PIXUS iP7230の発売から6年半ぶりの新機種と言うこともあって、全く別の機種へと変貌している。どのような違いがあるのか徹底的に比較してみよう。

プリント(画質・速度・コスト)
新機種
旧機種
型番
TR703
PIXUS iP7230
製品画像
発売日
2019年4月25日
2012年10月4日
発売時の価格(メーカーWeb/税抜き)
15,880円
16,800円
インク
色数
5色
5色
インク構成
顔料ブラック
染料ブラック
シアン
マゼンダ
イエロー
顔料ブラック
染料ブラック
シアン
マゼンダ
イエロー
カートリッジ構成
各色独立
各色独立
顔料/染料系
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100)
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100+)
インク型番
380XL/381XL(大容量)
380/3581(標準容量)
380s/381s(小容量)
350XL/351XL(大容量)
350/351(標準容量)
ノズル数
4096ノズル
5120ノズル
C/M/顔料BK:各1024ノズル
Y/染料BK:各512ノズル
C/M:各1536ノズル
Y/染料BK:各512ノズル
顔料BK:1024ノズル
最小インクドロップサイズ
N/A
1pl
最大解像度
4800×1200dpi
9600×2400dpi
印刷速度
L判縁なし写真(メーカー公称)
18秒
18秒
A4普通紙カラー(ISO基準)
10.0ipm
10.0ipm
A4普通紙モノクロ(ISO基準)
15.0ipm
15.0ipm
印刷コスト
L判縁なし写真
17.3円
15.3円
A4カラー文書
9.6円
8.6円
A4モノクロ文書
3.4円
N/A

 まずは、TR703とPIXUS iP7230の画質や速度などを比較してみよう。ちなみに発売開始時の価格はPIXUS iP7230から1,000円ほど下がって、15,880円となっている。
 インクの色数は5色で、顔料と染料のブラックと、染料カラー3色という構成は同等だ。一方で印刷解像度は9600×2400dpiから4800×1200dpiに低下した。最小インクドロップサイズも非公開ながら、過去の例から見ると2pl程度と予想され、その場合最小インクドロップサイズも大きくなっている。ぱっと見で分かるほどでは無いが、粒状感は強くなっている。これは近年のキャノンの家庭用プリンターが同じ変更がなされており、TR703がビジネス向けになったためと言うわけでは無い。一説によると、9600×2400dpiで1plではべた塗り部分にムラが出てしまうためという話もある。逆に言うと、ビジネス向けになったからといって特別画質が低下したわけでは無い。複合機で言うと、PIXUS TS6230相当で、PIXUS TSシリーズでは上から2番目の機種と同じ画質となる。
 インクも変更されている。PIXUS iP7230では350/351番だったインクは380/381番と、複合機の最新機種と同じ物になった。ただ、380/381番は当初大容量インクが顔料ブラックしか用意されず、逆に小容量インクが用意された。その事もあって、印刷コストは350/351番より高くなってしまっている。現在では全色大容量が用意されるが、セット販売は無く、印刷コストも標準容量と同等で、あくまで交換頻度が少なくてすむだけだ。この点は350/351番の大容量インクとは根本的に異なる。ここで、詳しい印刷枚数と印刷コストを見てみよう。なおTR703の印刷枚数は同じインクカートリッジと同じインク構成、速度の複合機PIXUS TS6230を参考にしている。

機種・インク
印刷コスト
イードル枚数(L判写真)
カートリッジ価格
顔料ブラック
染料ブラック
シアン
マゼンダ
イエロー
顔料インク
染料インク
TR703
大容量(380XL/381XL)
17.3円
7,370枚
1,464枚
389枚
515枚
462枚
1,630円
各1,740円
標準(380/381)
17.3円
3,803枚
835枚
236枚
305枚
278枚
1,210円
各1,030円
小容量(380s/381s)
23.7円
1,210枚
371枚
113枚
149枚
138枚
920円
各730円
PIXUS
iP7230
大容量(350XL/351XL)
15.3円
6,560枚
1,555枚
352枚
427枚
373枚
1,400円
各1,270円
標準(350/351)
19.7円
3,085枚
590枚
165枚
182枚
179枚
990円
各800円

 これを見てみると、大容量同士、標準容量同士で比べた場合、TR703の方が印刷枚数は多い。一方でインクカートリッジの価格は、印刷枚数差以上の高く設定されており、そのことが印刷コストを上げる要因となっている。またTR703使用する380/381番インクの大容量インクは当初は用意されておらず、現在でもセット販売が無いこと、印刷コストが標準インクと変わらないことから、PIXUS iP7230の大容量インクとTR703の標準インクを比べるべきとも言える。その場合、価格はTR703の方が、顔料ブラックが14%、染料インクは19%安くなっているが、印刷枚数は顔料ブラックは58%、染料インクは54〜75%しかない。標準インクも大容量インクもPIXUS iP7230と比べると割高だと言える。
 印刷速度はL判写真フチなし印刷もA4文書印刷(カラー・モノクロ)の全てで同等の速度となっている。ノズル数はシアン、マゼンダ、顔料ブラックが減っているが、印刷速度は同等なのは最小インクドロップサイズが大きくなったためか、少ないノズル数で高速印刷できるように改良されたためかは不明だ。なお、インクの型番が変わると共に、インクの耐保存性が変更されている。PIXUS iP7230は「ChromaLife 100+」でアルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年をうたっているが、TR703は「ChromaLife 100」となりアルバム保存100年のみとなっている(耐光性・耐オゾン性に関しては表記無し)。耐保存性は大きく低下したと言える。

プリント(給紙・排紙関連)
型番
TR703
PIXUS iP7230
製品画像
対応用紙サイズ
名刺〜A4
(89×89mm用紙/オリジナルマグネットシート対応)
L判〜A4
給紙方向
(A4普通紙セット可能枚数)
背面
○(100枚)
前面
カセット(250枚/普通紙のみ)
カセット下段(120枚)
カセット上段(L/KG/2L/はがき)
その他
排紙トレイ自動開閉
○(オープンのみ)
用紙種類・サイズ登録
○(カセット収納(前面)・給紙口カバー(背面)連動)
用紙幅チェック機能

 続いて、給紙・排紙関連の機能を見てみよう。対応用紙サイズはPIXUS iP7230ではL判より大きなサイズに対応していたが、TR703では名刺サイズの用紙にも直接印刷できるようになった。名刺作成時に印刷後に切り取る手間が省けるほか、フチなしデザインも行いやすい。また、89×89mmのスクエア用紙やオリジナルマグネットシートにも対応している。
 給紙方式は大きく変わった。PIXUS iP7230では前面給紙2段カセットとなっており、上段にL判、KG、2L判、はがき用紙を、下段にA4、A5、B5などの用紙をセットする形となっている。例えばL判写真用紙とA4普通紙を同時にセットしておくことが可能となる。カセット式なので完全に本体に収納できホコリも積もらないため、入れたままにしておく事が可能だ。A4普通紙は120枚、ハガキは40枚までセット可能である。一方TR703は前面給紙カセットは1段となり、かわりに背面給紙が付いた。前面給紙カセットは普通紙のみだが250枚までセットが可能で、大量印刷にも対応できる。一方背面給紙は写真用紙やハガキ、ファイン紙など様々な用紙に対応するほか、こちらにも普通紙をセットすることも可能で100枚までセットできる。ハガキは40枚となる。一見すると、普通紙の給紙枚数も多くTR703の方が使いやすく感じる。しかし背面給紙は用紙をセットしやすい反面、用紙をセットする際に後方と上方にスペースが必要になってしまう。また用紙をセットしたままだとホコリが積もってしまい、故障の原因ともなるため、使わないときは取り除くことが望ましい。それならば前面給紙カセットを使えばと思えるが、こちらは普通紙専用だ。つまり普通紙への印刷が主である場合は、給紙枚数も多く便利になったと言える。一方写真用紙も常時セットしておきたい場合、PIXUS iP7230ではカセットにセットできるが、TR703では背面給紙となり、入れたままにはしておきにくいため、不便になったと言えるだろう。また前面給紙カセットは本体から飛び出た状態になっているのもデザイン面ではすっきりさに欠ける。ちなみに家庭用複合機のように、縮めて本体に完全収納できるようにはなっていない。
 その他、PIXUS iP7230は前面パネルを手前に開けると排紙トレイとなる構造であったが、印刷を実行すると自動で開くようになっている。つまり、プリンターから離れた場所のパソコンやスマホから印刷を実行した際に、自動で電源が入り(後述)、排紙トレイも自動で開くため、プリンターの所までわざわざ行かなくてもプリントが実行される。用紙もカセット式なので、セットしたままにしておけば、問題ない。一方、TR703では排紙トレイは手動で引き出さなければ印刷が実行されない。この点では不便になったと言えるだろう。
 一方、液晶が搭載されたことから(後述)、用紙種類とサイズの登録機能を搭載している。前面給紙カセットを挿し込む、または背面給紙は手前の用紙カバーを閉じた際に、自動的に登録画面が表示されるため便利だ(されないようにもできる)。そして、この登録内容と、印刷時の用紙設定が異なっている場合、メッセージが表示される仕組みだで、用紙のセットミスによる無駄を減らせるようになっている。用紙の設定は、液晶ディスプレイでメニューから手動で登録も可能である。

プリント(付加機能)
型番
TR703
PIXUS iP7230
製品画像
自動両面印刷
CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷
○(ネイル印刷対応)
写真補正機能
○(自動写真補正)
○(自動写真補正)
自動電源オン/オフ
○/○
○/○
PictBridge対応
廃インクタンク交換

 その他、プリントの付加機能を見てみよう。自動両面印刷、レーベル印刷などはPIXUS iP7230から引き続き搭載している。TR703ではCD/DVD/BDレーベルのトレイ差し込み口を利用した「オリジナルネイルプリントシール」に対応した点は異なる点だ。自動電源オン/オフも搭載されている。ネットワーク接続ができるようになり、プリンタから離れた場所のパソコンやスマートフォンから印刷を実行することが増えたが、そういった際にわざわざプリンタの電源を入れに行く手間が省ける。ただし前述のように、TR703はPIXUS iP7230のように排紙トレイが自動では開かないため、手動で引き出す必要がある。引き出された状態でないと印刷は実行されないため、排紙トレイを収納していると電源が入った状態で印刷が止まっている事になる。とはいえ排紙トレイを引き出せば印刷が実行されるところまでは進んでいるし、排紙トレイを出したままにしておけば自動的に印刷が行われる。また、指定した時間が経つと自動的に電源がオフになるため、電源オンのままにしてしまう事も無い。その他PictBridgeに対応しているが、USB接続方式とWi-Fi接続方式の内、Wi-Fi接続方式にのみ対応している。対応機種しているデジタルカメラが限られるため、大きな違いとは言えないだろう。

スマホ/クラウド対応
型番
TR703
PIXUS iP7230
製品画像
スマートフォン連携
対応端末
iPhone
iPod touch
iPad
(iOS 10.0以降)
Android 4.4以降
スマートスピーカー対応
iPhone
iPod touch
iPad
(iOS 10.0以降)
Android 4.4以降<
NFC対応
写真プリント
ドキュメントプリント
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
Webページプリント
クラウド連携
スマートフォン経由/本体
○/−
−/−
オンラインストレージからの印刷
SNSからの印刷
○(コメント付き可)
写真共有サイトからの印刷
メールしてプリント
リモートプリント
スキャンしてリモートプリント

 続いて、スマホ・クラウド対応機能だが、PIXUS iP7230はスマホからのプリントのみに対応しており、クラウドからは非対応だったが、TR703ではクラウドにも対応、オンラインストレージや写真共有サイトからのプリントの他、SNSの写真をコメント付きでプリントが可能となっている。また、ダイレクト接続にも対応しており、ルーターの無い環境でもTR703と直接接続してプリント、スキャンが可能となっている。さらに、スマートスピーカーからのプリントにも対応し、AlexaとGoogleアシスタント対応端末に対応しており、声だけでナンプレ、ぬりえ、レポート用紙、チェックリスト、五線譜などキャノン独自のものの印刷と、プリンターの状態の確認が行える。

操作パネル/インタフェース/本体サイズ
型番
TR703
PIXUS iP7230
製品画像
液晶ディスプレイ
2行モノクロ
操作パネル
物理ボタン式
インターフェイス
USB他
USB2.0×1
USB2.0×1
無線LAN
IEEE802.11n/g/b
(ダイレクト接続対応)
IEEE802.11n/g/b
有線LAN
100BASE-TX
対応OS
Windows 10/8.1/7 SP1
MacOS 10.10.15〜(AirPrint利用)
Windows 10/8.1/8/7/Vista SP1/XP SP3
MacOS 10.5.8〜
耐久枚数
N/A
N/A
外形寸法(横×奥×高)
372×365×158mm
451×368×128mm
重量
5.4kg
6.6kg
本体カラー
ブラック
ブラック

 最後に操作パネルやインタフェース、本体サイズなどを比較してみよう。TR703は新たに液晶ディスプレイを搭載した。モノクロの2行表示で、バックライトも無いが、本体で各種設定やエラー内容の確認できるほか、インク残量も確認できるため、あるのと無いのとでは大違いだ。ちなみに液晶はモノクロだが液晶のすぐ上に、5色に塗られた部分があり、その下にインク残量を表示することで、各色のインク残量が確認できるようになっている。ボタンは「電源」「ストップ」「左右カーソル」「戻る」「OK」「ワイヤレスコネクト」「セットアップ」の8つだけと必要最低限だ。
 インタフェースは、PIXUS iP7230のUSB2.0と無線LANに加えて、有線LAN接続にも対応した。無線LANの対応規格は変わっていないが、ダイレクト接続に対応し、ルーターの無い環境でもスマホと直接接続できるようになった。この設定には液晶ディスプレイがあった方が行いやすく、TR703が液晶ディスプレイを搭載したことが、この点でも効果を発揮したと言える。また有線LAN接続は、ルーターが近い場合や、壁にLANコネクタが用意されている場合、無線LANでは不安定な場合などに有線LANは重宝するため、使い方が広がったと言える。
 対応OSに関しては、新機種と言うこともあり、サポートの終了したOSは対象外となった。WindowsではVistaとXPが非対応となったほか、Windows 8にも非対応(8.1は対応)なのは注意が必要だ。MacOSは10.5.8以上から10.10.15以上と変更された他、専用ドライバは提供されずAirPrintを使用してプリントする。
 本体サイズは、TR703は372×365×158mmとなっており、PIXUS iP7230の451×368×128mmと比べるとずいぶん変わった。PIXUS iP7230では高さが抑えられていたこともあって平べったい印象だったが、TR703は高さが3cm大きくなった一方で横幅は約8cm小さくなりずんぐりした印象だ。奥行きはほぼ同じなので、設置面積ではずいぶん小さくなった。一方で、普通紙以外は背面給紙となったため、高さは本体の差の3cm以上に必要だし、背面給紙トレイが後方に倒れることを考えると、背面にもスペースが必要なのは注意が必要だ。



 今回はPIXUSブランドを離れた事で、家庭とビジネスの両方に使える機種となった。印刷コストは多少上がった物の、スマホやクラウドへの対応や、有線LAN対応、液晶搭載など使いやすさの面ではアップしている。前面2段給紙から前面給紙+背面給紙の変化は、家庭向け複合機でも同様で、キャノンの最近の傾向に倣ったと言える。ビジネス用途に使えるように、前面給紙カセットの給紙枚数を増やした一方、家庭向けにも使えるようレーベル印刷機能は搭載し、画質もPIXUS iP7230とそれほど変わらない。印刷速度も写真も文書もどちらも高速だ。文書印刷に使われる両面印刷機能も、ハガキに対応しており家庭でも便利に使える。単に最新の複合機からスキャナを外しただけの機種ではなく、家庭でもビジネスでも使えるように考慮されている点で、幅広い人にお勧めできる機種と言えるだろう。

(H.Intel)


【今回の関連メーカーホームページ】
エプソンhttp://www.epson.co.jp/


TR703