2019年末時点のプリンターを徹底検証 新機種と旧機種を徹底比較 (2020年1月17日公開)
EP-M752TはEW-M770Tの純粋な後継製品というよりは、方式の異なるエコタンクの上位機種同士である。そのため、EW-M770Tの方が優れている部分と、EW-M752Tの方が優れている部分が混在している。とはいえ、どちらもEW-M700番台であり、機能的には近いものだ。どの点が変わったのか詳しく見ていこう。
まずは、EW-M752Tの販売価格を見てみよう。販売開始時の価格はEW-M752Tは39,980円、EW-M770Tが69,980円と3万円も差がある。EW-M770Tは現在59,980円まで下げられているが、それでも2万円の価格差というのは同じグレードの製品とは思えない差だ。 それでは、印刷画質や速度、印刷コストなど基本的なプリント機能を見てみよう。インク色数は5色で、顔料ブラックと、染料のブラックとカラー3色という組み合わせは同じだ。EW-M770Tでは、顔料ブラックはそのままブラック、染料ブラックはフォトブラックと呼んでいたが、EW-M752Tでは顔料ブラックをマットブラック、染料ブラックをフォトブラックと呼んでいるが、これは区別方法の違いだけで、構成が変わったわけではない。ただのブラックより、マットブラックという名称を使うEW-M752Tの方が、染料と顔料の区別が付きやすくて良さそうに感じる。 EW-M752Tのインクは「つよインク」という名称が付けられている。アルバム保存300年、耐光性50年、耐オゾン性10年という非常に耐保存性の高いインクだ。これはカートリッジ方式のカラリオシリーズが採用する「つよインク200」と同じである。「つよインク200」が登場した頃はアルバム保存200年で、アルバム保存100年の「つよインク」との区別のために「200」が付けられたが、その後アルバム保存300年となり数字と合わなくなっている上に、アルバム保存100年の「つよインク」採用製品が無くなってからずいぶん経つため、わかりやすく「つよインク」とされたと思われる。一方EW-M770Tはインクに名称はないが、耐保存性は「つよインク」と同等レベルで、耐保存性ではEW-M752TとEW-M770Tは同等と言える。 最小インクドロップサイズに関しては、EW-M752Tは非公開だが、AdvacedMSDTに対応している事からも、EW-M770Tと同じ1.5plと予想される。印刷解像度も同じであることから、画質面では同等と言えるだろう。ノズル数は、カラーは各色180ノズルなのは同じだが、EW-M770Tでは6色機のヘッドと共通化したのか、顔料ブラックだけ2色分の360ノズルとなっていた。一方EW-M752Tは顔料ブラックも180ノズルである。そのため、印刷速度はL判写真フチなしが24秒から25秒、A4カラー文書が10.0ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数。数字が大きいほど高速)から9,0ipm、A4モノクロ文書が13.0ipmから12.0ipmにそれぞれ低下している。とはいえ大きな差ではないので、実用上は問題ないだろう。 インクはエコタンク方式であるのは当然だが、「挿すだけ満タンインク方式」というのも同じだ。これはインクボトルを注入口に挿し込むと注入が始まり、満タンになると自動ストップするもので、さらに注入口の形が色によって異なるので間違った色を注入しないよう工夫されている非常に使いやすい物だ。ただし、EW-M752Tは「オンキャリッジ式」、EW-M770Tは「オフキャリッジ式」という違いがある。「オンキャリッジ式」とは、プリントヘッドの上にインクタンクがあり、印刷時にヘッド共に左右に動く方式だ。一方「オフキャリッジ式」は、プリントヘッドとは別の所にインクタンクが固定されており、プリントヘッドとはチューブでつながれている方式である。「オンキャリッジ式」はインクタンクを置くスペースが不要であるため本体を小型化でき、またチューブでつながないためにインク詰まりの発生も少なく、初期設定時のインク充填に使うインク料も節約できる。一方で左右に動くパーツに乗せるためインクタンクが大型化できないというデメリットがある。「オフキャリッジ式」はその逆で、インクタンクを大型化できるが、長いチューブでつなぐために初期充填時のインク消費が多いことと、やや詰まりやすいのはデメリットだ。この特徴の違いが、印刷コストに影響することになる。 EW-M770Tのインクボトルは各1本ずつで、A4カラー文書を印刷すると、顔料ブラックは8,000ページ、染料ブラックは11,500ページ、カラーは各5,000ページまで印刷することができる。そしてインクタンクには、このインクボトル1本分が全て注入できる様になっているため、1回の補充での印刷枚数も同等となる。一方、EW-M752Tの場合、1回の補充でA4カラー文書を印刷すると、顔料ブラックと染料ブラックは1,100ページ、カラーは各1,000ページ印刷できる。EW-M770Tと比べるとかなり容量が小さくなっていることが分かる。これが前述のオンキャリッジ式のデメリットで、左右に動くパーツをあまり重く、大きくできないという事がある。インクボトルには2種類あり、インクタンクがちょうど満タンになる「使い切りサイズ」と、ブラックは4,000ページ、カラーは3,700ページ分のインクが入った「増量」がある。ここで、インクボトルの印刷可能枚数と価格、印刷コストを細かく見てみよう。
印刷コストはA4カラー文書の場合、EW-M752Tは増量サイズでも2.7円、使い切りサイズだと2.9円である。EW-M770Tの1.3円と比べると倍以上となっている。写真はEW-M752Tがそれぞれ8.6円と8.9円で、EW-M770Tの6.0円と差が小さいように見えるが、これは写真用紙代(1枚約4.3円)が含まれた価格なので、インク代だけとすると、EW-M752Tはそれぞれ4.3円と4.6円、EW-M770Tが1.7円でやはり倍以上になっている。印刷コスト面ではEW-M752Tはやや高くなっている。ちなみにインクカートリッジ式のEP-882Aの場合、L判写真は20.6円(用紙代除くと16.3円)、A4カラー文書が12.0円なので、これと比べるとEW-M752Tでもかなり安価である。 一方インクボトルの価格を見てみると、EW-M770Tは染料4色が1,200円、顔料ブラックは2.400円で、5本買うと7,200円となる。一方EW-M752Tは使い切りサイズであれば各600円で、5本買っても3,000円となる。EW-M770Tは5,000〜11,500枚の印刷ができるとは言え、一度に購入する時の負担は大きい。その点で1本600円というのは、回数は多いとは言え、インク購入時1回の負担が小さいと言える。EW-M752Tは増量サイズなら、使い切りサイズよりかなり多くなるが、価格は1本2,000円で、5本買うと10,000円となる。そのわりにEW-M770Tよりは印刷枚数は少ない。また、使い切りサイズと増量サイズの印刷コストの差が小さいことから、基本的には使い切りサイズを使う物と思われる。増量サイズが必要な人は、EW-M770Tの方がお得になるだろう。 もう一点違いがあり、EW-M770Tは別売りのインクボトルと同じインクボトルが1セット同梱する。そのため、初期充填を終えた後でもA4カラー文書3,600枚以上の印刷が可能だという。一方、EW-M752Tは「セットアップ用インクボトル」となっている。セットアップ用と言いつつ、インクタンクが満タンになる様なので、「使い切りサイズ」に近いと言えるが(むしろ「使い切りサイズ」は印刷が継続できないくらい残量が少ない状態から満タンにする量なので、少し残った状態から満タンとなるが、セットアップ用インクボトルは完全に空の状態から満タンになるので少し多い可能性もある)、インクタンク自体がEW-M770Tと比べ少量なので、初期充填完了後の印刷枚数は公表されておらず、それほど大きくないと思われる。EW-M770Tの3,600枚というのは、EW-M752Tの増量インクに近い量で、EW-M752T換算で10,000円分インクが付属すると考えられる。しかも3,600枚「以上」であるから、実際にはもっと使える可能性も高い。 そこで、EW-M752TとEW-M770Tで、本体価格とインクの価格のトータルコストをグラフにしてみた。EW-M752Tは本体価格39,800円で、一般的に使われる「使い切りサイズ」を使った場合としている。セットアップ用インクボトルでどの程度印刷できるか公表されていないため、100枚としている。一方、EW-M770Tは本体価格が現在の59,980円としている。同梱のインクボトルで3.600枚以上となっているが、おそらく最も印刷枚数が少ないカラーインクが3,600枚分残るという事だろう。つまり、72%のインクが残ると考えられる。印刷時に使用するインク料は色によって異なるので差が出ているが、初期充填で使用するインク量はほぼ同じと予想されるため、それぞれ72%である、顔料ブラックは5,760枚、染料ブラックは8,280枚の印刷が可能としてグラフにしている。 これを見ると、やはりEW-M752Tの方がインクを頻繁に購入する事となり、EW-M770Tとの本体価格の差である20,000円がどんどんと詰まっていく事が分かる。ちょうど1万枚のあたりで逆転しており、2万枚印刷すると20,000円の差が付くことになる。この事から、1万枚を大きく超えると分かっているのであればEW-M770Tの方がお得となる。ちなみにインクカートリッジ方式のEP-882Aでは本体価格は31,980円で、A4カラー1枚あたり12.0円なので、セットアップ用インクカートリッジで100枚は印刷できたとしても、1万枚印刷時点で150,780円となるため、EW-M752TやEW-M770Tがいかに安いかが分かる。このようにEW-M752Tは従来のエコタンク搭載プリンターと比べると印刷コストは高いが、インクカートリッジ方式と比べると圧倒的に安いという機種と分かるだろう。
続いてEW-M752TとEW-M770Tののその他のプリント機能を比較してみよう。自動両面印刷機能は両機種とも搭載しているが、EW-M770Tは普通紙とハガキのみ対応であったが、EW-M752Tはファイン紙にも対応した。普通紙に両面印刷すると裏移りしやすいほか、どうしても高画質に印刷はできない。文書を高画質に印刷できるファイン紙には、両面印刷対応のものも数多く販売されているが、EW-M770Tでは片面ずつ印刷するしか無かった。EW-M752Tではファイン紙にも自動両面印刷が行えるため、便利だ。また、エプソンからも両面スーパーファイン紙が新たに販売されている。 一方CD/DVD/Blu-rayのレーベル印刷機能はEW-M752Tには搭載されていない点は注意が必要だ。 ところで、インクジェットプリンターのインクの吸収材は2種類ある。1つは電源を切った際にインクカートリッジが戻る位置の下あたりからつながっている、廃インクタンクである。クリーニングなどを実行した際に出るインクを貯めておくタンクである。一方、用紙が通る部分のプラスチックが一部欠けておりその下にクッションのような吸収材が見えるが、これはフチなし吸収材だ。フチなし印刷を行う場合、用紙のフチギリギリに印刷するのは用紙の微妙なズレなどを考えると難しいため、少し大きめに印刷し用紙からはみ出す部分は吸収材で吸収させるという方式をとっている。これがフチなし吸収材だ。これまでのプリンターはどちらかが満タンになると警告が表示されてプリンターが一切動かなくなり、修理するしか方法がなかった。今回、廃インクタンクに関しては、両機種とメンテナンスボックスという名前でユーザー自身での交換に対応している。一方の「フチなし吸収材」に関しては、EW-M770Tは満タンになると印刷が完全にストップしてしまってい、修理に出すしか無かった。簡単に交換できる構造にはできないため、EW-M752Tでも修理対応なのは同じだが、この吸収材にインクが落ちることがない「フチあり」印刷に関しては印刷を継続できるようになった。フチなし印刷はできないとはいえ、フチなし印刷はとりあえず置いておいて、急を要するフチあり印刷を行い、余裕のあるときに修理に出すという事ができるわけだ。 このほかの機能は同等である。
EW-M752TとEW-M770Tのダイレクト印刷機能を比較してみよう。EW-M770TはSDカードとUSBメモリーに対応していた。一方EW-M752TはUSBポートのみでSDカードスロットは存在しない。そのためUSBメモリーにのみ対応するように見えるが、実際にはパソコン用のメモリーカードリーダーを接続することで、各種メモリーカードにも対応できる。EW-M770Tでも同様のことが可能で、SDカード以外のメモリーカードを使用する場合に使われていたが、一般的では無かった。EW-M752Tではその機能を利用する事で、SDカードスロットを廃してコストダウンを図り、必要な人だけカードリーダーを購入してもらう方法となった。ただし、USBメモリーと当時に接続できないため、SDカードからUSBメモリーへのバックアップ機能は利用できない。また、USBポートに接続できるのはメモリーカードリーダーとUSBメモリーだけで、外付けHDDやCD/DVDドライブは接続できない点では異なる。 カードリーダーは必要だが、写真の印刷機能は簡易的ではない。写真の一部を拡大するトリミングや、明るさ、コントラスト、シャープネス、鮮やかさを5段階で調整できる他、モノクロやセピア調にもできる。このあたりはEW-M770Tと同等だが、EW-M752Tではさらに、フチあり印刷時にフチの種類と太さを選べるようになった。EW-M770Tでは白フチ(いわゆるフチあり印刷)だけだが、EW-M752Tは黒フチが選べるだけでなく、写真とフチの間に枠を付けた、黒枠付き白フチと、白枠付き黒フチが選べる。フチの太さ「普通」「やや太め」「太め」「かなり太め」から選べるようになっている。 またプリンター単体で印刷できるデザインも増えた。写真を塗り絵風にする「塗り絵印刷」や、罫線、マス目といった「フォーム印刷」機能、写真を1枚又は複数枚並べたディスクレーベルを印刷できる機能は同じだが、フォーム印刷で新たにカレンダー印刷に対応した(折り紙封筒は廃止)。さらにラッピングやブックカバーに使える全面模様の用紙である「デザインペーパー」印刷や、証明写真印刷、シール用紙に位置を合わせて印刷する機能や、「フォトブック」印刷、さらに複数枚の写真と背景デザインなどを組み合わせた「写真コラージュ」、「CDジャケット」の印刷も可能になっている。インクカートリッジ方式のプリンターに合わせた最新機能が搭載されてた形となる。
EW-M752Tのスマートフォン、クラウド関連機能にもEW-M770Tから変化は無い。対応端末に関してはiOSのバージョンが9.0から10.0、Androidのバージョンは4.1から5.0になっているが、これは本体の発売時のアプリの対応バージョンなので、現在のアプリの対応バージョンは両機種ともAndroid 5.0/iOS 10.0以上となる。ただし、従来のアプリ「EPSON iPrint」に加えて、「Epson Smart Panel」にも対応している。「Epson Smart Panel」は、これまでばらばらのアプリで対応していた機能を集約し、さらに電源オン・オフやノズルチェック、ヘッドクリーニング、ファームウェアのアップデートなど本体の操作が行える、プリンターのリモコンのようなアプリとなっている。ただし、こちらを利用する場合は、Androidは5.0以降で同じだが、iOSは11.0以降の対応となる。 LINEからプリントする機能は、LINE上でEW-M752Tを友達登録しておき、トーク画面上でファイルを送信すると自動でプリントされる機能だ。去年の時点ではこういった機能は無かったためEW-M752Tの新機能に見えるが、今年から新たに提供される新サービスであり、EW-M770Tをはじめ旧機種でも使える。
EW-M752TとEW-M770Tのコピー機能を比較してみよう。基本的な拡大縮小や割り付け機能などに違いはない。ただし、新たに免許証などの裏表を2回スキャンすると上下に並べて印刷できる「IDコピー」や、1枚の原稿を、2面、4面又は用紙に並ぶだけ割り付けてコピーが可能な「リピートコピー」が搭載されている。
EW-M752TはEW-M770Tと同じく5色インクのエコタンクモデルだが、方向性は大きく異なる。EW-M770Tがとにかく印刷コストにこだわり、印刷枚数が多いユーザー向けの製品としていたのに対して、EW-M752Tはインクカートリッジ方式の機種と同列に並べて比較し、印刷コストが気になるユーザー向けと言える。これまでインクカートリッジ方式の機種を使ってきたユーザーの移行が考えられているという印象だ。そのため本体価格は抑え、本体サイズもコンパクトにし、エコタンクを見えないようにしてカートリッジも方式と似たデザインにしている。液晶もカートリッジモデルと同じ4.3インチタッチパネルとしている点も、カートリッジモデルからの移行時に違和感がない様にしているのだろう。それでいて印刷コストは大きく下がるし、実際にインクを買うときの金額的負担も小さくなっているのもポイントだ。EW-M752Tは、エコタンクに興味があるものの、EW-M770Tでは少し躊躇してしまうと言うユーザー層にはぴったり合う新しいエコタンク搭載プリンターと言えるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ |